14 ガンバレヨ……僕の女王設定……ッ。

「パイアお姉ちゃんの、ブラッディスパイダーウェブ凄かった」

「そ、そう?」

「うん。あれを開発したパイアお姉ちゃんは、やっぱりえっち」


 否定はできぬ……。だって暗闇が見渡せるからって、夜の活動をするわけじゃなかったしさ。サバイバルだったし、ものがなかったし、夜の時間が……長くて…………その……。


 操血は磨かれたのだ。

 良かったのだ。

 それで。


 それはともかく、どうしよう。早く寝たから、目覚めも早かったよ。まもなく夜明けって時間に起きても、冒険が休みの日じゃあやることがないな。


「じゃあ午前は冒険、午後はお買い物にする」

「資金も増えますし、そうしましょうか」


 朝ご飯はかなり早くから出してくれる。とは言っても夜が明けてからだったはずなので、日の出とともに食堂に突撃だね。

 僕は血のドレスを纏い、ン・シーは洗濯してない服を着る。


「オークの住居で衣類が全損したのは痛かったです」

「オークチャンプのお肉、美味しかった。時間ある時、狩りに行くべき」

「いいですよ~」

「やったっ」


 フニャッと笑うン・シーにドキドキしつつ食堂へ向かう。ガッツリ食べてしっかり稼ぎましょー。



 ハフスク岩窟がんくつ、現地自然系で難易度は★。ガーディアンはゴブリン多め、比較的近所のダンジョンと受付嬢に紹介される。


「近場ですし、ゴブリンなら数もいそうです」

「うん。さっそく行くっ」


 1番嬢におススメを聞いた僕らは、ダンジョン化した岩山へ向かうことにした。人工的な洞穴ではなく自然の洞穴だから、苔むした場所での戦闘は足が滑るので注意が必要らしい。


 僕は飛べるから、まあ平気だろう。

 ン・シーも油の上でのカンフー修行があるそうで、問題ないとのお返事。なんなの、そのオカシナ修業は……。


「では稼ぐだけですね。行きましょう、ン・シー」


 馬車は使わず、僕らは空からの行軍だ。近所なら普通の馬車だろうし、それなら飛んだほうが早い。そしてン・シーの索敵と僕の操血で、ゴブリンと出会う前に勝負を決める。時間が掛かるのは核宝石コアジェムの剥ぎ取りくらい。


 しかも汚れないのだ。


「ゴブリン、臭いイメージだった」

「あ、野良のゴブリンは臭いですよ。イメージより……」

「ぅぁ……でもン・シーはチョット見てみたくなった」


 ダンジョンのゴブリン、臭くなーい。臭くなるまで活動できないのかな? ここ、結構人が来るみたいだし。ゴブリンの回転率が高いというか……生死の。なんかもったいない使い方してるなあ、ここのダンジョンマスター。いや女王か、女王は。


 そんなんだから難易度低いまま、成長もしてないのでは。いや、成長するってことは、それまでに犠牲者も多そうだからダメか。


「そういえばダンジョンマスターという存在が、いるのでしょうか」

「ダンジョンは神様の試練パターンもあるよ、パイアお姉ちゃん」

「自然災害系の設定もありますよねえ」

「どれかなーっ。あ、臭いあり。あっち、約50メートル、ゴブリンだけ、6匹」

「了解」


 ダンジョンコアがあるなら、是非ともミミックに食わせたい。いいの出そうだしね。ただカッサの街で管理してる~なんてのを、昨日聞いたしなあ。勝手に取ったらヤバそうではある。今度聞いてみよう。


「上級ゴブリン、いないね」

「群れのボスくらいには、なってないとダメなんでしょう」

「いるとしたら最奥?」

「深さはかなりあるダンジョンですから、今日は行きませんよ?」

「うん。パイアお姉ちゃんの服は必要」

「ン・シーのほうが必要です」


 僕は血で作れるからな。


「ダメ。ビックリしたら全裸になってる」

「…………」

「ほらぁ、どこかで見られてるっ!」

「い、1回だけですし」


 制圧班全員と、およそ半数の村人っていう甚大な被害を、もたらした事件だったけど。


「絶対必要。せめてブラとショーツだけでも買うべき」


 血の下着、食い込んでてエッチなんだって。

 僕にぶら下がってる時、いっつも気になるんだって。


「風で捲れたら、パイアお姉ちゃんの食い込みが見られてしまう。他人に見せたらダメ」


 僕の下着は厚めにしたことをン・シーに伝えた。

 そもそもスカートというのがダメなのでは。飛ぶんだし。


「パンツルックもアリですね」

「へそ出しの超ローライズ?」

「そんなチャレンジはしません!」


 ここら辺の人は肌を晒す文化圏じゃないから、そんな格好をしたらハレンチ女子として認識されそうだよ。勝手なイメージだけど、常夏島系の文化だったらアリかもかなーって。


「恥を恥と思ってるパイアお姉ちゃんは、破廉恥じゃない。でもムッツリ。だからえっちな癖に恥ずかしがってカワイイ」


 興味津々だけど、恥ずかしくて言えなくて。

 真っ赤な顔の奥に、欲しがり屋さんの顔を覗かせてる。

 だからイジワルしちゃうんだって。


「おやめなさい、おやめなさい……ン・シー、それ以上は言っちゃダメ」

「恥知らずじゃないパイアお姉ちゃんは、羞恥タグ付きが似合ってカワイイ」

「うーッ」


 夜のン・シーは強敵なんだよっ!

 ガンバレヨ……僕の女王設定……ッ。

 すぐ赤面するんじゃないよっ。


核宝石コアジェムが溜まったよ!」

「あ、ホントですね」


 僕が恥に悶えてる間に、目標である35個を超えていたようだ。色々買い物するから、金貨1枚分くらいは狩ろうって決めてたんだー。

 索敵と遠距離攻撃のお陰で、凄く楽な狩りになったな。


 血抜きはバッチリだし、肉の油も血のナイフと血のトングで問題ない。ただ、核宝石を拭くためのタオルは、買っておいたほうがいいかな。

 血のバッグを使わなくなったら、キッチリ拭かないと汚れちゃうし。


 ダンジョンというか、戦闘が起こる可能性のある場所では、操血を戦闘関連に振り分けておきたい。バッグにだってコントロールが必要だからね。コンビニのビニール袋が束であったら便利なんだけどなあ。

 1番小っちゃいヤツでいいから欲しいなあ。


 核宝石って大きいものじゃないからね。手に握り込めるサイズというか、そのくらいだし。ビニール袋に似た袋、売ってたりしないかな?


「スライムっているんでしょうか?」

「ン・シーは知らない。必要?」

「スライムが1番ビニールになりそうかなと」

「おー、汚れもの入れるの、便利になるね」

「でしょー?」


 ギルドに戻ったら聞いてみよう。

 よし、剥ぎ取り終わり。全部星1のだけど、総数は38個。星1核宝石は1個銅貨3枚なので、銅貨114枚分。

 つまり金貨1枚、銀貨1枚、銅貨4枚の収入だ。


 ン・シーにはなるべくいい武器を使ってもらいたいからな。金貨2枚くらいは見ておこうかと。

 でも星付きには届かないんだろうな。


 星1のワンピースが金貨2枚とか言ってたっからね。買う時は、もっとするだろう。あれは売値だし。


「では帰還します」

「了解っ」

「スカートの中は覗かないでくださいよ」

「チェックは必要」

「不要ですが?」

「パイアお姉ちゃんの恥は、ン・シーだけのもの。チェックする」


 他人に与えてはならないのって怒られた。

 理不尽っ。

 ン・シーだってスカートなのにって文句を言ったら、ストッキングが厚いし黒だから影になって見えないと返された。


 やはり冒険の時はパンツルックか……でもファンタジーのドレスアーマーは、いいものだからなあ。

 とても。


 く、黒いのにするか? 下着……。お、大人過ぎるか? パイアちゃんの外見で黒は…………考えておこう。

 覗かれても影になるそうだしっ。


「パイアお姉ちゃん、ポーカーフェイス覚えよ?」

「えっ!?」

「うん。えっちなこと考えてる顔がバレバレ」


 マッズイ。

 なんかン・シーが来てくれてからこっち、頭の中がピンクに支配されてるかもしれない。いや、支配されてるんだろうな。好きな子と好きな子がペアになってるのに、その片方が僕という状況。


「タガが外れていたようです。気を付けますね」

「ン・シーも。イチャイチャは個室でのみの秘めごとに、しなくてはならないと考えるっ」


 僕たちは固く心に誓って、ハフスク岩窟がんくつから飛び立つのだった。


「チューはいいの?」

「ダメです」

「軽くなら?」

「ちょ、ちょこっとだけなら……」


 気持ちだけはカッチカチですわー。

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