12 そっかあ、ケーキは無敵だったんだね。

「私たちを認識してましたね」

「あ、そういえば……いったいなんのための機能なんでしょうか。遊戯の神様めェ」

「まあそこはいいよ。問題は中身中身っ」

「開封はリーダーであるアニヤに任せる」

「いいの? 開けちゃうよ?」

「アニヤの豪運は、いつだって私たちのしるべになっているわ」


 宝箱を開けるようなウキウキ感を出しながら、戦士女子のアニヤさんがダンボール箱を開封した。


「あーーーー! 服ッ! 私の時はあんなにも出なかったですのにッ」

「ン・シーは見た。レアリティは星1のベスト。防刃効果が弱いけど付加されているもの」

「私たちには不要だけど、アタリだったようね」


 ブー垂れてる僕に説明してくれる狩人女子。銀貨6枚分の核宝石で金貨2枚は確実なアイテムを獲得したのだと。

 僕は僕を殴り飛ばしたくなった。


 だってサバイバル時に気付いてたら、服が手に入ってた可能性もあったはずだし。

 ってことは、僕は裸を村人に晒すこともなく、意味深マッサージ器を見られることもなかったのですよ。

 クソゥ。


 ン・シーにヨシヨシされる僕に、冒険者たちが群がった。

 稼ぎ時なので立ち上がる。

 儲けてカワイイ服をゲットするために。


 いや、その前に宿代と、ン・シー食事代と武器代を稼がなくちゃなんだけどさ。8組の冒険者たちがガチャサービスを受けるようなので、16銀貨分の稼ぎだね。ハンドレットのは約束通り無料での御奉仕だったから。


「さ、本日のガチャ。まとめますか? 個別ですか?」


 みんなの答えは決まっていたようだ。まあそうか。直前でハンドレットがアタリを引いたからな。

 でも賭ける核宝石の数は、ハンドレット先輩に及ばない。多くても10個だったよ。まあアプグレの可能性を考えると、程々だったので良かったと考えるべきかな。


 でもこれじゃあ、まるで37個投入した僕がオカシイみたいじゃないか。

 オカシーな?

 生活費のことだって、ちゃんと考えてるつもりなんだけど。ってところで思い出した。そういえば野宿でいっか、みたいなことを考えてました。

 マッズイ。


「パイアお姉ちゃん!?」「パイア!」

「ハーイ?」

「鼻血出てるっ」

「アレッ?」


 そういえば結構疲れてるかも? 最後の1組用にミミックを出す時、結構気合を入れる必要があったもんな。


フォースが枯渇しかけているのだろう」

「ああ、そういえば今日は結構使いましたからねえ」


 ダンジョンで1回、ここで9回。しかもボスオークをぶら下げて、飛んで帰ってきたし。


「長距離飛行が原因ですか。飛ぶのにフォースも使いますし、オークが重かったのも原因でしょう」


 とりあえず、ガチャは1日10組までとさせてもらおうかな。ここにいるみんなと相談して、広めてもらうことになった。御協力感謝。

 みんなが協力的なのは、少なくとも同等のアイテムが出てきたからだろうね。


 一番微妙なのだって、割とお高めのカップアイス10個入り。溶けちゃうからすぐに食べる羽目になってたし。若干申し訳ない。いや、そのアイス美味しいから、僕が買い取りたかったくらいだけど、贅沢はまだできないのだ。


「貧乏なのが敵です」

「ン・シーも食べたかったっ」

核宝石コアジェム全部をガチャに回すの、やめたほうがいいかもしれませんね」

「パイア……さすがに全部をガチャは愚かな選択よ?」

「パイアさんはギルドで飼いたいと思ってる私が参上~」

「2番さん……」


 アンタぁ……相変わらずの自由で大らかさだな?


「残念だけど今日の私は、寝坊したので4番嬢です。惜しいっ」

「惜しむべき部分はありませんけど、なにかありましたか?」


 4番嬢の用事は、ン・シーのギルドカードと、僕たちが持って帰った素材の報酬だった。


「オークチャンプのお肉が金貨3枚。異世界携帯食が銀貨4枚だったよ」

「まあまあ稼げたね、パイアお姉ちゃん」

「ねー。明日はお休みにして、色々とお買い物しましょう!」

「え、帰っちゃうの? 私もガチャ? してもらいたかったんだけど」

「ンン、どうですかね……イケなくもなさそうですが」


 でもハンドレット先輩方が止めた。回復に努めたほうがいいらしい。命の危険というほど、深刻な状況にはならないらしいけど。体調がすこぶる、それはもう「すこすこぶるぶる」くらい悪くなるんだってさ。騎士女子先輩、分かりやすい表現でお願いします。


「ではまたの機会に。私たちが来た時にガチャ希望者が多かったら、クジにでもしましょうか。体調次第で増減はしますが」

「パイアお姉ちゃん、ン・シーはお腹がペコペコ」

「待たせてごめんねン・シー。帰って御飯にします!」


 ギルドに来る前に買い食いした分じゃ、さすがに足りなかったみたいだ。1本に3個刺さってる串焼き肉を3本。握り拳大のお肉なんだけど、それを9個食べてた。オヤツ程度のものだね、ン・シーには。ちな小銅貨9枚なり。


 実は僕も初めての腹ペコ。フォースの使い過ぎが原因なのか、朝に摂取した血の分では賄いきれなかったみたいだ。血の残弾はあるから使えるんだけど、血の栄養だけが僕の生命活動に使われてるんだろうか。


「では皆様、ごきげんよう」

「ごきげんよう」


 ン・シーと2人で優雅にお辞儀して、ギルドを辞する。


「帰る前にパーティ名を教えてってー」

「アンデッド女子の夜明け、でお願いします」

「変なの」

「アンデッド女子は、いいものだという活動です。これまでも、そしてこれからも」


 現実じゃなかったら、ゾンビ女子やグール女子もいいものなんだけどなあ。さすがにお臭い・・・のはイヤだし。

 そして現実だからこそ、この活動には意味がある。

 いいものとは認識されなくても、悪いものと判断されなきゃいい。死なないとは思うけど、討伐対象になるのは御勘弁願いたいのよ。


「お昼過ぎの夕方手前。微妙な時間ですね」

「オヤツで誤魔化す。そして宿で食べる?」

「それがいいですね」


 僕らは適当に街を見ながら、ン・シーの要望であるケーキ屋さんを探した。これは飛んで探したほうが早いかな。街の中くらいの距離ならフォースも平気だろう。門の側、ギルド関連が建ってるこの辺りにはなさそうな雰囲気だし。市民の、というよりギルド員向けというか。装備関連や道具関連のものが多いように思う。


「中央区ってことですかね。ン・シー、上から行きます」

「うん」


 高度を上げて中央区へ向かいながら、それっぽい店を探す。具体的にはカフェテラスでケーキを食べたいのだー。


「パイアお姉ちゃん、あれっ」

「了解」


 ン・シーが軽く植林して整えられた区画側に、目的に沿うであろうテラスを発見。優雅にタッチダウンしたので、周囲から驚きの声は上がらない。


「飛ぶ人、珍しくない?」

「あ、それもそうかもしれませんね」


 鳥の獣人系がいたって不思議じゃないか。


「いらっしゃいませー!」

「ン・シー、とりあえず2個でいい?」

「パイアお姉ちゃん、ン・シーはもう一声欲しがる」

「しょうがないですねえ」


 2時間くらいで夕ご飯なのに、やはり3個は食べたいらしい。


「ン・シーはどれにします?」

「んー、イチゴとチョコとレアチーズ」

「今の3つをホールで。私はフルーツタルト1ピース、あと紅茶を2つお願いします」

「えっ? ……と、こちらでお召し上がりですか?」

「はい」

「いつも驚かれてン・シーは不思議に思う。ケーキは無限のはず」

「出入り禁止になりますからね? えっと、次からは予約しますので……」

「無限は迷惑。ン・シーは覚えてる。ダイジョブっ!」


 テラスの端っこに案内されて、ケーキを待つ。台車にケーキを乗せるから邪魔になるしね。でもお陰で景色は良し。


 そういえばなにも考えずにケーキ屋さんに突撃したけど、ケーキがあるってことは材料は潤沢っていうことだよね。衛生的にも厳しくなるだろうしさ。科学とは別種のなにかが発展してるということか。


 魔法はないし、錬金術?

 宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュで出てくるレシピも、それっぽい雰囲気のだしなあ。錬金窯みたいなので、ボワンって出る系だったりして。


 どうやって作るのか分からなかったけど……あのレシピ、もしかして素材をミミックに食わせるってことか?

 ってことはコーラがまた飲める可能性が出てきたよ!

 それにしても──


「──ホールで食べて、よく飽きませんね?」

「うん。ケーキは無敵だからっ」


 そっかあ、ケーキは無敵だったんだね。

 僕たち……ン・シーが周囲に驚きを振りまいて、オヤツの時間は終了した。人が飛ぶよりも珍しいことだったようです。

 ホール3個くらいなら、普通にいそうだけどな?


 銀貨2枚のお支払い。チョットお高い商品なのかもしれない。

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