10 ゲンジツダー!

「まっ、待ってン・シー、こここここっ、ダンジョンデスシッ」

「クンクン、敵の気配なし。パイアお姉ちゃんから、えっちの臭いあり」

「ひゃんっ」

「準備万端のパイアお姉ちゃん。ひゃんカワイイっ」

「違っ、これは違うくて、ン・シーがびっくりさせるから脱げちゃったんですー」


 グイグイ来るン・シー。でも肌が赤紫っぽくなってるじゃん。青白い肌のはずなのに。恥ずかしいからか赤くなってるんだろっ?

 それなのにっ、恥ずかしいのにっ、グイグイ来るのっ!?


 伸びてくる魔の手を理性でなんとか阻止してたら、悲しそうな顔をして「ン・シーのこと、キライ?」って言われた。好きだけど恥ずかしいからって答えた僕に、チューしてくるン・シー。


「はっ!?」


 うわー……寝汗とかでびっしょりだ……寝汗とかで!

 なんて恥ずかしい夢を見てしまったんだ……僕は。

 ヤラシッ。

 ン・シーとそんなことになるなんて、妄想が激しすぎるよー。

 ヤラシッ!!

 ダンジョンであられもない妄想を見て1泊するなんて、僕はどれほどの「ヤラシー」を心に秘めてるんだか。


「ン・シーはチョット失敗を反省する。パイアお姉ちゃんが快感に弱くなってたの、知らなかった」


 「今夜はン・シーの番」とか言って抱き着かれた。

 ゲンジツダー!

 僕は「推しキャラで推しキャラと朝チュンを迎える」というイベントを起こしてしまった。


「いいのかなあ」

「ン・シーはいいと考える。パイアお姉ちゃんの夢が叶ったと考察」

「ホント、ン・シーはグイグイ来るね」

「パイアお姉ちゃんはムッツリえっち。押さないとダメと学んだ」


 ぐうの音も出ない。なぜゲームのキャラであるン・シーに、僕がムッツリスケベだと知られているのかっ。


「も、もしかして中身が男なのも?」

「えっ? パイアお姉ちゃんはお兄ちゃんだったの?」


 やってしまった……。


「ご、ごめん、ン・シー。内緒にしてて欲しいのですが」

「分かったっ」

「気持ち悪い……ですよね?」


 そう聞くと、そんなことはなかったみたいだ。お姉ちゃんでもお兄ちゃんでも、心の有様に違いはないってさ、ニコッて笑うんだ。

 キュンキュンが止まりませんがッ!


「ありがとね、ン・シー」

「いつだってパイアお姉ちゃんと切り開く世界は、楽しいっ」

「私もっ」


 とりあえずはン・シーのギルド登録が最優先かな? その時にボス肉を売って、服の資金にしよう。スレイプニルの高速馬車で、空の旅が2時間くらい掛かってたからな。ン・シーとボスを抱えて飛ぶとなると、倍は見ておいたほうがいいかもしれないね。


「じゃあ、街に帰りましょうか。飛んで帰るけどいつもの感じでいい?」

「うん」


 ン・シーは僕の足につかまって飛ぶのが、フィールド移送時のスタイルなんだー。ボスオークのほうは、血のロープでキッチリ縛って空輸するよ。


「女神像壊れたの、残念だった」

「ねっ、結構高そうでしたのに」

「星5のアイテムだったっ! 凄くもったいなかったとン・シーは報告する」

「ええーーーっ!? 星5? 分かるの?」

「エッヘン」


 カンフーマスターのン・シーは前衛だったから、スキル構成は近接型で構築してた。形意拳→五行拳→十二形拳と解放して、カッコいい虎拳とか蛇拳とかを使ってもらってたよ。でも新生ン・シーには鑑定の能力が与えられたそうだ。

 その名は暴く者アプレイザー。なにそれ、カッコいい。


「カンフーは使えるままの気分。出口までに魔物がいたらン・シーがやる」


 それならフォースもあるし、威力も上がったんじゃないかな?


「オッケー。そしてン・シー、この世界ではなんと、魔物はガーディアンと呼ぶのです!」

「了解。ン・シーはガーディアンの臭いを検知した。こっち!」

「ハーイ!」


 VRも良かったけど、やっぱハイスペック現実だと感動が違うかも。だって僕自身がン・シーと冒険してるんだし。ただ視界内に情報が出ないから、気を付けなくちゃね。もう僕だけの問題じゃなくなったんだからさ。


 ってところで敵に接近したようだ。ン・シーがハンドサインで待て、距離、数、と知らせてくる。

 僕も行くか聞くと、1人でやってみたいようだ。OKサインを出して見守る。


 ン・シーの鼻はいいからな。僕が索敵しなくても見つけてくれる。その分操血に回せるから、攻防力は上がるってことだ。


 しなやかな足捌きで、オークに近付くン・シー。カンフーの独特な歩法なのかな。カッコいいことは知っていても詳しくはないから、カッコいいで済ませるしかないのだ。


 トゥルンって近づいて蛇の型でオークを突くと、攻撃部位が弾け飛んだ。

 すごっ!


「えっ?」

「なんでン・シーも驚いてるのですか」

フォース、強い。ン・シーはコレ好きー」


 龍とか虎とか熊とかの型は、普通オークには過剰だなー。4匹のオークを瞬殺したン・シーは、ご機嫌な様子。それにしても不思議なフォースだった。彼女もなにか特別なものを持ってるみたいだよ!


「楽しいね、パイアお姉ちゃんっ」

「ねっ」


 僕は血を操り、ン・シーの汚れを取る。ついでにオークの血抜きで僕の血を増やしつつ、核宝石コアジェムを剥ぎ取った。魔石じゃなくて核宝石って言うんだよーって説明しながら、これは僕の能力のキモになることも伝えておいた。


 ガチャだったことも、喋ることも、鬱陶しいミミックだということも。

 ン・シーはこの核宝石が星1だと教えてくれた。ゴブと同じかあ。


 あ、ついでだし昨日倒したオークの残骸を集めて、ミミックに食わせようか。多少は売れるものになるかもしれないしさ。ン・シーにチョット時間をもらって、操血を使ってかき集めた。


 僕はフォースの密度を上げていく。

 塊になるように。

 そこに宝箱があるかのように。

 想いと力が形となるように。


「開け──宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ──」

『ヘイヘイヘーイ アサハ モタレルモノ ゴメンダゼェェェ?』

「おー、パイアお姉ちゃんの能力!」


 形作った鋼の宝箱が、要求を出した。


「残念ですが、食べてもらうのはオーク肉です」

『ヨゥ ソイツァ ゴキゲンナ ディナー ジャネェカ! ダガ トケイヲ ミテミナ アイボウ! イマハ アサ ダゼェ?』


 ドラムロールを表現するために、ガタガタと揺れる僕の能力。文句を言いながらも、律義なヤツだったようです。

 ン・シーはそんなミミックを見て、キャッキャキャッキャ笑ってるよ。


「だだだだだだだだだだ、だんっ!」


 そして参加した。

 楽しそうでなにより。


『トレジャー! オア! トラァァッシュ! イマ! ココデェ! テメェラガ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』


 塵になって消えていくミミックに、手を振るン・シー。


「今までは大して役に立たなかったんですが、ン・シーが出てきてくれただけで最高評価を付けられますね」

「ン・シーもン・シーが生まれて嬉しい。身体、本物っ」

「私も凄く嬉しいです! さて、今回はなにが出ましたかね?」


 アプグレ効果が目に見える形で現れてる。紙袋じゃなくて、ダンボール箱だったよ。横面にはmimic.co.jpの文字に噛みつく牙、みたいなプリントがしてある。日本の企業らしい。神様のお戯れっぽいな。異世界を調べたってことなんだろうか?


「ン・シーはとんこつラーメン苦手」


 普通オーク42体分のゴミで出てきたのは、とんこつのカップラーメンが4個。割には合わない気がするけど、日本のものだしなあ。チョット分かんないね。


「そっか。じゃあ箱ごと売っちゃいます。異世界のものだし、まあまあ高く買い取ってもらえそうですし」


 プレイヤーのパーティメンバーになるキャラは、結構高度なAIだったらしいけど、もう電脳生物が身体を持ったって感じだね。ン・シーを見てるとさ。キャラが偽物とかは思わなかったけど、もう完全に本物だよ。


 僕たちはご機嫌なまま、空の旅路へ。運が良ければ、スレイプニルの高速馬車に出会えるんじゃないかと思ってたんだけどな。結局会わないまま、街に到着した。


「手、大丈夫?」

「ン・シーは平気。この身体高性能」

「あ、分かります。私のも高性能ですよ」


 服が全滅したせいで血の色全開の僕に、キョンシーだから青白いン・シー。そして引きずられてる、おっきいボスオーク。

 この異形感マシマシのパーティが、注目を浴びてしまうのは当然かあ。


 お昼くらいのはずだけど、街の出入りはそこそこあるみたいで並んでる。商人たちはボスオークを値踏みしてるね。

 不人気ダンジョンだからオーク肉は数がなさそうだし、まあまあ需要があったりするのかな?

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ITEM RANK

 ダンボール箱

 ┗とんこつのカップラーメン4個


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