09 能力にアプグレなんてあるの!?

 正直言うと僕の血がアチコチにたれてるので、血の糸を再接続することによって索敵しやすかった。しかも今はお食事中だ。38匹もいるから、僕の腕だけじゃ足りないだろうね。長芋みたいなのをかじってる。


 子オークとボスオークの血しか摂取してないから、血の量は足りない気がするけど仕方ないね。秘かに殺していく必要もないし、これも訓練かなと思い堂々とお食事処に入る。


「私の注文は、お前たちの血と核宝石コアジェムです」


 10本の血の鞭を振り乱して、近場のオークからボコってやるのだ。傷付けるための攻撃だし、鞭には当然トゲトゲを追加している。殴った端から血を採取して、戦力の増強と敵対勢力の弱体化を図る。


 ブラッドウィップ・ヘッジホッグモードッ!

 トゲトゲパイアちゃんがまかり通るぞー。


「ご飯時に強襲すると、訓練にはならないことを学びました」


 まあそりゃそうか、なんだけど、さすがにムカついてたので憂さ晴らしも兼ねてる。でも今回のご飯になる事件は、自分の油断が招いたこと。だから、教訓として心に刻んでおこう。


 取り出した核宝石は、ボスのと紫のと、それ以外って分けておく。等級が僕には判断が付かないからなあ。


 今回はこれで帰還するかな。行ってない場所もまだまだあるけど、5日過ぎちゃったしね。お風呂に入りたい。そして服も買いに行かないと。村人の服はダメになりました。


 ボス肉が高額でありますように!

 帰還はボス部屋で1泊してからにしよう。夜だし街の門は閉じられてるかもしれないからね。


 ここで宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュを起動するのも、ワンチャンな可能性を秘めてるけどなあ。どうしよう?

 でもやっぱギルドで起動して、みんなでキャッキャするほうが楽しい気もする。


 しかし僕がまた全裸モードになってるからね。

 ワンチャンしたくなるよ。


 ワンチャンしちゃおーっと。


 僕はフォースの密度を上げていく。

 塊になるように。

 そこに宝箱があるかのように。

 想いと力が形となるように。


「開け──宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ──」

『ヘイヘイヘーイ イイモノ クワセロヨォォ?』


 形作った木と鉄のボロっちい宝箱が、要求を出した。


「37個を別々に出すんじゃなくて、1個にまとめて出せますか?」

『ヨゥヨゥッ! イケルゼ オレサマ ヤッチマウノカ ヨー!』


 おー、イケるのか! なら答えは1つだね。僕は37個の普通であろうオークの核宝石をミミックに投入。


「やって。そしていいもの出してよ!」

『イエースッ! ヤルジャネーカ アイボウッ オレサマ アップグレードガ カイシサレまス 電源ヲ切らズにソノまま しばらくお待チください。実行中です。…… …… ……・・ ・・ ・ ・  ・   ・』

「な、なに?」


 ア、アプグレ!?

 能力にアプグレなんてあるの!?

 パソコンっぽいッ。


『インストールができる状態になりました。獲得可能新規アイテムリストが多数含まれるため、再起動には時間が掛かることがあります。再起動のタイミングは、ご自身で設定可能です。今すぐ再起動 時間を設定 再通知 から、ご都合の良いものを指定してください』

「ほほー? これは当然──今すぐ再起動、ですね」

『再起動は複数回繰り返されます。しばらくお待ちください』


 能力の進化なんて、あるものなんだなあ。使い手の成長で、能力を使いこなせるようになるのとは別口の強化ってことだし、これは嬉しい誤算。

 そして核宝石をたらふく食わせたあとに進化するってことは、だよ? これからも進化する可能性を秘めていると、判断できるじゃあないか!


『ヘイヘイヘーイ! アイボー イイモノ モッテンノカウギャアアァァ!』

「なんでソレに戻るの!?」

『ヘイヘイヘーイ! オレサマニ ウメェモン クワセウギャアアァァ!』

「うーん……」

『ヘイヘウギャアアァァ!』

「……」


 ナンダコレ?

 ナンダコレェ!?


『ヘウギャアアァァ!』

『ウギャアア』

『ウギャ』

『ウ』


 再起動とやらのタイミングが徐々に早くなっていって、悲鳴すら上げられない僕の能力。

 神様のお戯れは意味が分からないよ?


 あ、鋼の宝箱になったよ!

 アプグレ様~っ!


『ヘーイ オレサマ ナゼカ ツカレテルゼエ? イイモノ クレヨナー』

「は? さっき37個も食わせたでしょ」

『ウソハ ヨクナイゼ アイボー! カクシテル モノ ダシナアァッ!!』


 これは……核宝石コアジェムを進化に使ったということなのか?

 納得できないんですが!?

 ハラタツ!

 あれだけ食わせたのにアイテムなしとか、ムカつくんですけど? なあ、神様!


 くそー、しょうがないで済ませるしかないのか。僕はしぶしぶ、残ってる2個の核宝石をミミックに食わせた。


「2個使っていいの出してよ!」

『ハッハー! ケッカハ カミノミゾ シルッテ ヤツサー!』


 ドラムロールを表現するため、ガタガタと揺れだす、相変わらずの、騒がしき僕の能力。

 そしてピカーと光る。あれ? こんなのあったっけ?


『トレジャー! オブ! ゴォォォルドラァァッシュ! コンヤ テメェガ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』

「えっ? ゴールドラッシュ!?」


 出てきたものは紙袋じゃあなかった。女神像の足元の台座に乗った、黄金のおっきい卵。卵は僕がチョコンと座ったくらいのサイズだね。女神像含めると、立ってる僕と座ってる僕の2人分ってところか。


 明らかにミミックよりも大きなものが出たな。アプグレ効果なのか、ゴールドラッシュ効果なのかは分からない。しかしこれを持って帰るとなると、ボスオーク丸ごと持って帰るのは厳しいかなあ。


 ウーン、卵は抱えて、オークと女神像セットは血をロープにして、ぶら下げて飛ぶ……とか?


「んっ? 音が」


 卵の殻にひび割れが入った。あ、横一線に走るひび割れ。割れる!


「じゃーん」

「ウソッ!? ン・シー? え? ン・シーなの!?」


 パカーっと上下に分かれた卵から出てきたのは、なかなかカードが揃わなくて、課金額が増しちゃった僕のパーティメンバー。キョンシーのン・シーちゃん。彼女のレアリティはSSSランク。遠い道のりだったんだー。


「うん。ン・シーは生まれた。パイアお姉ちゃん、会いたかったっ」

「うわー! ン・シーがいる! 動いてる! やった!!」


 メッチャ嬉しい!

 しかも声だって相変わらずカワイイ!

 課金要素反映ありがとう!

 遊戯の神様ありがとう!!


「パイアお姉ちゃん、泣いてる」

「だっでぇ……うでじい…………」

「ン・シーがヨシヨシしてあげる? それともン・シーとえっちする?」

「え゛っ!?」

「パイアお姉ちゃん、もう裸。準備万端。ン・シーはいつでもオッケー。パイアお姉ちゃんは上手だったっ」


 もじもじしながらそんなことを言うン・シー。

 なにその設定?

 もしかして裏設定?

 運営のお遊び?


「んっ? えっちは待って。ン・シーは女神様に呼ばれた」

「ぁ、ぅ、ぅ……ん」


 あ、女神像が光ってる。そうか、能力を授かるんだな?

 そのためにン・シーと一緒に出てきたのか。至れり尽くせりじゃないか。ン・シーはどんな能力かなあ。とか考えてたら裸なのに気付いた。


 なに言ってんのかなって思ってたけど、ビックリして操血が崩れたのか。ン・シーが女神様と交信してる間に、服を形成しておいた。

 えっと、その、えっちはしたい……です……けど。


 …………オチツケー、ボクゥ。


 ン・シーの服は、はカンフーマスターが着てるようなダボっとしたのを改造した感じで、お腹の辺りに幅の広い帯を巻いてて、背中でおっきいリボンにして結んでるよ。ひざ丈くらいのワンピースになってる。


 そして大きな折り返しの縁がある、頂点に宝石飾りのある帽子が特徴的だ。名前は知らないけど、キョンシー帽って僕は呼んでた。ちなみに呪符は右のこめかみ辺りに付いてるから、カワイイ顔はバッチリ見える。


 髪型は三つ編みのツインテールで、おっきな瞳と一緒の漆黒。彼女は赤と黒で攻めているのだ。

 黒髪、服は赤、帯黒、そしてスカート部分に赤が来て、ストッキングが黒、靴が赤。ワンポイントに金の差し色が、模様を作ってるんだ。


 ふー、落ち着いたかも。


「ふー、やっと終わった。ン・シーはパイアお姉ちゃんとえっちする」


 僕の服と女神像は砕け散った。

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