06 興味があったらご覧ください

 僕はフォースを手のひらに集めてみた。問題なく可能。当然これはギュウギュウに固める感じだろうね。空気を圧縮する感じというか。密度もアップさせていく。


「知らなかったわりに器用だな?」

「能力が似たような感じで起動しますからね」

「的に向かって投げてみろよ」

「了解」


 ペェーンと甲高い音が響いて、的を抉る僕のフォース玉。


「的に当たれば、まあまあ使えそうです。当たれば」

「そこは練習だな」


 端っこに当たった。コントロールは微妙な僕。動く的には難しそうだなあ。


「血の鞭でいい気がしてきました」


 だって見えない敵に投げられるものじゃないし、見えてるなら血の鞭のほうが伸ばした先でコントロールできるし、当てやすいからな。


「手段の1つとして持ってても損じゃないけどな」

「それはそうですけど」

「ところでよ、パイアちゃんの能力ってどんなのだ?」

「変なヤツ……です、よ」


 今まであのミミックが食べなかったものはない。ゴミでもオッケーという悪食っぷり。その時に出てくるものは、基本的に使えないものだったけど。

 やっぱ核宝石コアジェム食わせるのが、いいものを出す可能性が高いと思うんだよな。


 ベルグレさんは興味津々である。


「見せてもらったし私のを見せるのは、やぶさかではありません」

「ちょっと! ギルド内で変なことしないでよ!?」

「…………、ちげぇよ!」

「能力の話です!」

「なんだあ」


 注意しといてなんでガッカリしてんだよ、この受付嬢。いい性格してるなあ。そもそも僕がなんで恥部を晒すと思ってんの。

 そんな受付嬢からギルドカードを受け取って、説明を受ける。へぇ、スマホ決済みたいに使えるんだ。サイズもスマホくらいだし馴染み深し。


 宿と道具屋、あと装備売ってるとこって限定みたいだけど。そのためにはどこかのギルドにお金を預ける、と。大金を持ち歩く必要がないし、便利だね。半分くらい預けておくかな?


「あとはパイアさんの血をここに」

「はーい」


 カードの下辺りに、カットしたバームクーヘンを組み合わせたような、円形の模様がある。そこに血を垂らして登録したら、僕のカードってことみたい。個人認証付きのわりには安いよな。


 だって銅貨6枚の内、5枚分は門の通行料分だし。カード作成分は銅貨1枚ってことになる。そのことを聞いてみたら、初回分は補助金が出るんだって。なくしたりして再発行ってことになると、金貨1枚って言われた。たかー……い、と思う。

 価値がはっきり分かってないから、高さの度合いが分かんないや。石鹸とかタオルとかしか買ってないもんね。


「なあ、星1シングル核宝石コアジェム1個売ってくれ。パイアちゃんの能力が見てぇ」

「訓練場でやるの? 正直、行ったり来たりが嫌なんだけど?」

「ギルドのホールでも構いませんが」

「他のヤツらが見てもいいのか?」

「いいですよ」

「じゃ、行きましょ」


 ワンチャン、ガチャ商売の可能性があるかもしれないしな!

 受付前のホールに戻ると、それなりに冒険者たちが戻って来てた。あ、そうだ、ついでなので受付嬢にゴミも持って来てもらおう。核宝石とゴミの差も、見てもらったほうが理解が早いし。


「あ、でもタライかなにかは、あったほうがいいかもです」

「どのくらいのサイズ?」

「私がチョコンと座れるくらいでしょうか」

「なら俺が解体場から持ってこよう」


 ベルグレさんが女の子に使われているからなのか、周囲の視線を集めている。僕を見たことがないってのも、原因の1つかもしれないね。まだ冒険者ギルドに、馴染んでないからな。


「今から私の変な能力を使います。興味があったらご覧ください」


 ニコッて笑って、パイアちゃんの魅力を振りまいておく。受付前だと邪魔になるから、イートインスペースで場所を確保。ミミックのサイズは、大き目のデスクトップPC2個分くらい。今のところは出てくるものも、そこに入る分くらいだから部屋の中で使っても平気じゃないかな。たぶん、だけど。


 少し経つと、ベルグレさんがタライをもって参上。受付嬢はまだ戻ってこないな。これ幸いと山ほどゴミを持ってくるつもりなんだろうか?


「受付嬢さん、遅いですね」

「2番嬢は自由で大らかな性格なんだろ、自由で大らかな」


 含むところがありそうです。

 ていうか名前で呼ばないのか?


「2番嬢?」

「ああ、それは──」


 受付嬢の名前は秘密なんだとさ。チョッカイ出すヤツが多いので、ずっと前にそうなったらしい。分かりみが深い。1番嬢とか2番嬢とか、当日の受け持ちカウンターの番号で呼ばれるそうだ。


 受付のカウンターでゴチャゴチャするなよなー、冒険者どもめ。


「通してー、ほらっ、どいて!」


 騒ぎながら2番嬢さんがやってきた。台車にゴミをいっぱい載せて。


「多いですね……入れるのが大変なんですけど」

「ガンバレ、パイアさんっ!」

「じゃあまずはゴミのほうから、やっていきますね。出てきたものは2番嬢さんが責任をもって処理してください」

「エーッ、そんなあっ!?」


 ゴミが多いから、ひょっとしたら低価値の核宝石コアジェムだと差が出ないかもしれないけど。そこは内緒にしておこう。


 僕はフォースの密度をタライのところで上げていく。

 塊になるように。

 そこに宝箱があるかのように。

 想いと力が形となるように。


「開け──宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ──」

『オイオイオイーイ チッタァ マシナモン アンノカヨォォ?』


 形作った木と鉄のボロっちい宝箱が、文句を言った。ゴミが多いせいか……。ざわつく周囲をなだめつつ僕は指をさしながら、ミミックに伝える。


「文句はこの人に言ってください」

「パイアさん、それは言わない約束よ」

「食べさせるの手伝ってください」

「うぅ……」


 多いんだよ。しかもこの人、個人のゴミっぽいし……。


『ハッハー! ケッカハ カミノミゾ シルッテ ヤツサー!』


 ドラムロールを表現するために、ガタガタと揺れる僕の能力。


『トレジャー! オア! トラァァッシュ! テメェラガ イマ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』


 お馴染みのハイテンション塵化で消えてったミミック。タライの上には小さな紙袋が1つ出てきた。


「やっぱりゴミからだと微妙そうですねえ。はい、ドーゾ」

「耳かき……」


 1本だけ。

 一応使えるものだしアタリかもねー。元はゴミだもん。でも書類とかのゴミより、ゴブリンのゴミのほうが若干いいものな気がする。


「ではベルグレさんのをやっていきます。核宝石だから低級でも多少マシになるんじゃないかと」

「おう、頼むぞー」

「それは私にこの能力をくれた、遊戯の神様に言ってくださいよ」


 再度起動しなおして、核宝石を食わせる。出てきたのはまたしても小さな紙袋だった。


「こりゃあ期待できねえか?」

「まあ、耳かきよりはいいものだと思います」


 ベルグレさんが紙袋から出したのは、ウィスキーの試飲用のボトルだった。20ml量り売りのヤツ。


「うっそ!? それ私の世界の高級ウィスキーですよ!」

「これっぽっちかよぉ」

「ああっ!」


 そう言って無造作に飲んでしまうベルグレさん。あぁ……もったいない……いつ手に入るか分かんないのにぃ……。


「やっちまったっ!!」

「もったいない……」


 ベルグレさんも崩れ落ちた。香りがどうだったとか、味がどうとか、深みがうんちゃらとか、酒精の強さがうぉぉんとか言って泣き始めた。空の小瓶をチュウチュウしててみっともない姿を晒している。試飲用の小っちゃいボトルだから、大柄な冒険者が咥えてるとおしゃぶりに見えるな。


 でもそんな姿が引き金になったのか、殺到してくる冒険者たち。僕でもこんな大当たり、転生してから引き当てたことないって伝えてるのに圧がヒドイ。

 ただこれは、お金取れるなって思いました。


「ズルいズルい! 私も耳かきじゃないのがいいのにっ」

「ああ、もう少し説明が必要ですね。皆さんにも」


 今の2回は、この世界でも問題なく機能するものしか出てないけど、電化製品が出ると高級品でも無意味なものになるからね。僕はシェーバーを鞄から取り出して説明する。


「私の元居た世界の電化製品です。あっちでは便利な道具でしたが、この世界では使えません」


 電気を安全に使える世界じゃないとね。この世界だと核宝石コアジェムのエナジーを使う改造が、必要になるんじゃないだろうかと伝えた。


 しかしあっちでは安物のシェーバーでも、ここでは異世界のアイテムだ。利用価値はあるんだって力説されたのさ。

 まあ、僕もそう思ってるから捨てずに持って来たんだけど。


「それから基本的にはハズレが多いです。ゴブリンの核宝石で、おつまみ2口分とか頻繁に出てきてましたし」


 しかし熱は、いまだ収まらない。

 冒険者たちは、お酒の魅力に憑りつかれているご様子。

 そんなにぃ~?

 割に合わないことが多いですよ、って言ってるのに?

 それほどまでに?

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ITEM RANK

 耳かき1本(ふさふさなし この世界のもの)

★★

 高級ウィスキー(1994 孔明の罠シリーズ 20ml \7850)



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