05 ファンタジー成分マシマシの世の中にな~ぁれ~。

「名前は?」

「パイアです」

「ヴァンパイアのパイアちゃん……と。ガーディアンで女王で? アンデッドでヴァンパイアで? しかも転生者? 情報量多くない? なんでエダに来たの」


 「報告書が分厚くなるー、嫌だー」って僕に文句を言われても困る。チョット道間違っただけだし、僕にとってはカッサでもエダでもいいんだからさ。


「私はどうなっちゃうんでしょうか?」

「パイアちゃんは人族に、ケンカを売るわけじゃないんだろ?」

「もちろん。平和が一番ですよ」

「なら問題ないさ。制圧班の班長が危険視してない上に、便宜を図ってやれと連絡してきてるんだ」


 ほほう? できる男だな、隊長、いや班長だったか。討伐部隊って思ってたけど制圧班なんだ。小規模なのか?


「ガーディアンで女王で、アンデッドでヴァンパイアで、しかも転生者のパイアちゃんは、わりと考えなしで動きそうということで、コダの村周囲の街には連絡が回ってる」

「もしや小馬鹿にしていらっしゃる?」


 しかしこれは事実で現実っ。クッ。


「まさか! 可愛いパイアちゃんに、そのようなことは致しませんとも。このあとお食事でも?」

「いえいえ、お忙しいでしょうし」


 なんかお互い胡散臭い笑みを浮かべながら、会話することになってしまった。

 転生してからのことを、かなり細かく聞かれたよ。


「結構メンドクサイことをするんですね……」

「俺を巻き込んだパイアちゃんが……言わないでくれないか?」


 カッサに行ってたら、向こうの班長が処理するだろうし、ここまで細かくはなかったんじゃないかって言われた。そうかも……同じ話を繰り返さなくて良かったかもしれない。


「野良のガーディアン狩りに夢中になってしまったせいですねえ」

「あー確かに話を聞く限りじゃ、稼がないとマズイか。でもまあ報酬が出るから贅沢をしなければ、1ヶ月は大丈夫だろう」


 そう言って僕に渡されたのは、キンピカに輝く黄金のコイン。


「ドレス買えますかね? あ、そうだ! ブーツも買わなくちゃ!」

「待て待て、この街を拠点にするなら普通は宿代って考えないか?」

「川があったので野宿可能ですし」

「誤射されても文句は言えないぞ、それ」

「うーん、それもそうです」


 痛くないし僕は平気だけど、相手側がどう出るかは分かんないな。通報という行動に出られると面倒が増えるか。

 まあ僕だって好きこのんでサバイバルがしたい訳じゃないし、最初は大人しくしておくか。稼いでから着飾っても遅くはないしな。


 僕は靴屋と戦闘系ギルド(狩人、探索者、冒険者)と宿屋の場所を聞いて、詰所から辞することにしたんだけど──


「パイアちゃん、通行料は小銅貨5枚だからな」


 ──街の門を通るのにお金を取られた。やっぱ必要なのかあ。兵士は免除で、ギルドに入ってると天引きされるそうだ。早めに冒険者アドベンチャラーギルドへ行ったほうが良いな。街からの出入り毎に、お金のやり取りはしたくないしさ。


「色々教えてくれてありがとうございました」

「ま、それも仕事の内だ。しかし面倒な仕事をくれたパイアちゃんには、俺と食事をする義務が生じている」

「遠慮しておきます。私に男は不要なので、男とキャッキャするつもりは毛頭ございませーん。悪しからずご了承くださいマセ~」


 だって女の子が好きですし~。女の子ばっかりな、ファンタジー成分マシマシの世の中にな~ぁれ~。っていうかこの人、ある意味同志か? アンデッドもアリなのかい?


 さて、まずはギルドかな? おすすめ宿を知ってるかもって門番が言ってたし。冒険者ギルドは中央通り沿いにあるそうだから、迷うことはないでしょう。


 狩人ハンターはガーディアンとか動物を対象にしてる人。

 探索者シーカーレアなものの採取とか斥候系の人が多いそう。

 冒険者アドベンチャラーはダンジョンや遺跡での活動がメインの人、とのこと。


 厳密に分かれてる訳じゃないそうなので、僕の目的に合いそうな冒険者ギルドに向かうよ。核宝石コアジェムをいっぱい稼ぎたいからな。

 僕の能力、宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ的にさ。


「こんにちはー、登録しに来ました」

「ヒュ~、イカしたネーちゃんだな」


 冒険者ギルドに入ると、視線で僕を舐めまわしながら、そんなことを言ってくる人がいた。これが噂の新人チェックか。


「貢いでくださいね」


 ってニッコリ返すと、オジサンは大人しくなってしまった。そんなのなら声を掛けなきゃいいのに。


「問題行動は困りますよー」

「え? 私なにも問題起こしてないですよね。ただ入会しに来た普通の女の子です」

「普通の女の子は即座に貢がせようとしないし、冒険者にはならないのよ」


 まあ確かに。もしホントに貢いできても対応に困るけど。僕は別に姫プがしたい訳じゃないから。


「冒険者になりたい暴れ系女子です。よろしくお願いします。ニッコリ」

「それもどうかと思うけど……戦闘の試験があるけど大丈夫?」

「問題ありません。一昨日制圧班から獲物を奪って、今日報酬をもらいましたし」

「そ、そうなのね……」


 確かに暴れ系だ、って小さく呟く受付嬢の言葉が聞こえた。ヴァンパイアイヤーは、よく聞こえちゃうんだよ。この身体──高性能なり!


「ベルグレさん、試験官をお願い」

「あいよ」


 そう返事したのは、さっき大人しくなってしまったオジサンだった。


「え? このオジサンで大丈夫なんですか? お昼なのに、ここに……いるし?」

「俺はこれでも24なんだよ!」

「あ、失礼しました」


 30代に見えた。


「あはは、ベルグレさんはエダの冒険者の中じゃ上位陣よ。だから思いっきり試してみて」

「そうでしたか。ではよろしくお願いします、ベルグレさん。私は怪我しても影響ないので、そちらも思いっきりどうぞ」

「どういうことだ?」

「枯れたダンジョンから生まれた女王で、ヴァンパイアのパイアです。以後お見知りおきを。ちなみに転生者というオマケ付きです」


 優雅にお辞儀する。ヴァンパイアってのも伝えておく。あとで知られるより、先に伝えたほうが問題が起こりにくそうだし。合わせて、転生者なので女王系ガーディアンでも敵対しないってね。そしてここまで喋るなら、正直者ということになるはずさ。


 元男という機密は守られるのである!


「濃ゆいよ!?」

「濃ゆいな」


 門のところ詰め所で、事情聴取が朝から今まで掛かったことも伝えた。


「濃ゆすぎるからよ」

「だなあ」

「まあ楽しいからいいんですよ。目が覚めたら、急に強くになってるんですから」

「ずりぃぞ、パイアちゃん」

「前世は一生懸命生きてました。良いのです」


 一生懸命生なのは課金するためのバイトだった気がするけど。


「ルールはどうする? 能力のありなし、武器は木剣を使うか?」

「私の能力は戦闘系じゃないので使いませんけど、ベルグレさんは使ってもいいですよ」


 まだ僕のしか見たことないからね。他の人のがどんなのか見てみたいよ。そう思っての提案だったけど、不公平だから使わないとか言い出した。


「見たかったんですけどー。あ、じゃあヴァンパイア的な能力を、お見せしましょうか!」


 包丁並みによく切れる僕のヴァンパイアクロー。僕の身体なんてサクッと切れるんだ。そしてお馴染みの操血っ。形だけの勇者の剣と聖剣を披露して宙を自在に飛んでみせる。羽も追加だよ。


「パイアさん、痛くないの? それぇ」

「血がドバドバ出てんだが……平気なのかよ」

「痛くないですし、私のどこかに血はたっぷりと保管されています」


 でっかいゴブリンとか、でっかい熊とかから全部抜いたしね。使い捨てじゃないからほとんど残ってる感じはある。少しはアンデッド的な生命活動に使ってるっぽいけど。


「ちなみに剣はブラフで、ホントは血の鞭の先端が槍みたいになりますので」


 不用意に近づいたらブッスリいくよ。ウニョウニョカクカクとブラッドウィップランスを20本くらい操って、訓練場の床を刺してあげた。


「パイアさんの試験……いらなくない?」

「……一応動きについて来れるか見てみるさ。いくぜ、ロー!」


 弾かれるように接近してくるベルグレさんが「セカンド、サードッ」とか言ってる。エンジン的な能力っぽい!

 そして速い!


「ですが!」

「やるッ」


 ギャリンと火花を散らす、血の鞭と両手剣。10本分で多方向から攻めてるけど、ベルグレさんは対応してくる。


「さすが上位陣と言われるだけはありますね」

「余裕じゃねぇかパイアちゃん。だがッ!」

「ええっ? フォースって飛ばせるのっ!?」


 鞭でペシィしたら消えたけど。


「余裕のまま弾かれるとは思わなかったんだが。合格だろ、というかシングル付けてもいいんじゃねぇか?」

「ベルグレさんが言うなら問題ないでしょ。カード作ってくるわ。銅貨6枚ね」

「お金いるんですね……」

「いるんですよー」


 門の10日分の通行料とカード作成の代金ですって。通行料は天引きって言ってたから、ギルドで働いてないとダメだってことだね。カードを作り逃げしても、11回目でバレるんだろうな。

 セチガライ。


「ズルした人がいたんでしょうね。まあ、よろしくお願いします」


 待ってる間に、フォースの弾丸飛ばしを練習してみよう。

 宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュは、離れた場所にフォースを込めるから、それを応用できるでしょー。

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