03 なにに使うものなのか一目瞭然だよ。

 僕は足音を立てないように気を付けて、小部屋状のスペースを確認していく。一番奥には見張りが2匹。入口にはなにかの毛皮が掛かってて、一応上位者の住処っぽくなってるみたいだよ。


 この見張りの2匹は先に処理しておこう。布状にした血液でゴブリンの口を覆いつつ、耳から一気に頭を突き刺した。力を失った2匹を、地面に付けることなく洞窟外へ運ぶ。ボス部屋の音を聞いて、寝ていることを確かめた僕は、コッソリ中を覗いて人がいないことを確認した。


 人影なし。


 もう遠慮はいらないな。まずはボスからだ。コイツだけは強そうなので、両耳から血を送り込んで中身をシェイクしてやった。ビクンと跳ねて沈黙する、ゴブリンキングかロードかジェネラル、のどれか。


 なんかダメな気はするんだけど、暗殺が上手になっていく気がしてるよ。


 でも残りのゴブリンは10匹単位で暗殺開始。それ以上は操血の威力が落ちてしまうから。速やかに実行するには、気付かれる前に始末していかなくちゃ。寝てるゴブリンをチラ見しながら、耳の側に血の槍を待機させて、10匹まとめて貫く。


 操血は便利だなあ。練習してよかった。血だから自由にクネクネできるし、大木も貫ける強度があるんだ。ふっふっふ、血の鞭の槍とか剣になるのだ。


 4回ほど繰り返すころには、悪臭で頭が痛くなってたよ。処理は完了したので外に向かってダッシュ。新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「はぁ~、臭かった……」


 ほとんどのゴブリンが寝てたから、楽に終わった。コイツらが行動開始する前に終わって良かったかも。洞窟には食べ物が全く残ってなかったから、早ければ今夜にでも村が襲われてた可能性があるし。


 血抜きが終わったら、一応全部村に持って帰ろうと思う。家畜がやられてたから、ゴブリンの魔石でもあったほうがいいんじゃない? って。

 帰りしなに襲ってきた熊も、ついでに持って帰った。血のソリの上は山盛りです。


「血抜きは完璧です」

「おお、おお、都会のお嬢さんは凄いんじゃのう」

「君は一体なにをやっておるのだ!? 危ないだろうにッ!!」


 しまった、もう到着してたのか。なるべく早く終わらせたつもりだったのにな。単機で勝手なことをすれば、村を危険にさらすことだってあると叱られた。確かにそうかもだけど、索敵はバッチリだったと自負してる。洞窟以外もちゃんと調べたもんね。


「ええ、っと……お、お先でーす」


 だから逃げるが勝ち!


「逃がさん!」

「うそッ!?」


 上空に逃げた僕を、ジャンプで捕まえた隊長さん。数メートルは飛んでたはずなのに。僕はビックリ、いや、ビックリしすぎて血のコントロールを失った。

 つまり──


「ぁ……」


 ──布切れ1枚もない状態で討伐部隊隊長に抑え込まれた。


「は、離してよっ!」

「なっ!?」


 信じられないことに男である僕が、胸を見られて恥ずかしいと感じている。もちろん股間はそれ以上の羞恥なんだけど、羞恥の度合いが男の比じゃなかったんだ。顔というか全身があっつい。


 真っ赤っかになってると思う。


 すでに村へ到着してゴブリンと熊は運搬済み。血の糸は仕舞ってるから手首にある傷の再生は終わってる。血を服にするにはもう1回手首を切るしかないんだけど、片腕は胸を隠すのに必要だから手は使えない。噛み千切るしかないよ。

 僕は足を交差した小っちゃい体育座りで、恥部をなんとか隠しながら流血沙汰を起こした。


 だっておっきいムニュムニュが、腕からはみ出して余計にヤラシイんだもの。


「お、おい!?」

「おおおおお嬢さんっ!」

「こっちを! 見ないで! ください!!」


 恥ずかしいんだから!

 もおおお、ゲームキャラのパイアちゃんの身体なのに、なんで僕が恥ずかしいんだよ。

 未課金なら赤くならなかったのか?

 恥ずかしくならなかったのか!?

 課金要素が反映されてるのか!?


 仕方ないじゃないか。赤くなるパイアちゃんが可愛かったんだから、課金したって仕方ないじゃなあいかっ。なお、血で作ったキャラスキンのドレスは上手に形成可能です。

 課金要素は影響あり、っていうのは疑っておくべきかもしれない。普通の服は作るのに苦労するから。


「服を……持って……いないのかね……?」

「服は……売って欲しいです……全裸で転生しました……」

「お嬢さんっ、傷薬じゃ!」


 僕の流血沙汰を見て、お爺ちゃんは薬を取りに行ってくれたみたい。でも治っちゃうんだよね。


「ありがとうございます。でも私は大丈夫ですから」


 ほら、って治った綺麗な白い手首を見せる。


「我々は伝説を目の当たりにしているというのか」

「私みたいなのって、いるんですか? ちなみに私の種族はヴァンパイアなんですけど」

「さすが都会じゃのう」

「ご老人、都会にもヴァンパイアはおらぬ。しかしこれは……朗報と言うべきなのだろうか?」


 隊長が「人に味方する女王がいるとは」とかなんとかブツクサ言ってるよ。

 女王、ガーディアン、それに羽もないのに数メートルジャンプする隊長。ヴァンパイアも伝説上のものらしい。


 分からないことを教えて欲しいね。色々とさ。特に女王。だって僕のことを女王とか言ってんだもん。

 あとお爺ちゃんはいい加減、都会の幻想を捨ててください。


「あ、すいません。私の血で汚してしまってますね」


 僕は隊長に掛かった血を操って、僕のどこかに収納した。これも謎だよなあ。そして気付いた。手首を噛み千切らなくても服作れたじゃん。焦るとダメダメだから精神も鍛えないといけないや。


「まずは休んでくだされ、皆様」

「私はなにも知らないので、まずはお話をしたいです。とりあえずはゴブリンの価値がある部分ですかね」


 核宝石コアジェムだけだってー。

 核宝石ってなーに~?


「魔石って言うのかと思ってました。まあ核宝石以外がゴミなら、処理してしまいますね」

「我らも手伝おう」

「ありがとうございます。核宝石はこの村に。他の部分は私がいただきます」

「お嬢さん、そりゃあいくらなんでも悪いんじゃが?」


 僕のせいっぽいし、家畜も失ってるので、足りないかもしれないけどと差し出す。部隊総出で手伝ってくれたので、剥ぎ取りはすぐに終わった。そして僕はみんなに一言断って、能力を起動する。

 能力の起動だからね。危険はないことを伝えたほうがいいかと。


 僕はフォースの密度を上げていく。

 塊になるように。

 そこに宝箱があるかのように。

 想いと力が形となるように。


「開け──宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ──」

『ヘイヘイヘーイ シッカリ ミツギナー!』


 形作った木と鉄のボロっちい宝箱が、要求を出した。


「あんまりいいものはないですけどね。数はあるのでアタリ、来てくださいよっ」


 僕の能力を見てざわつく衆人環視。珍しいのかな? 他の人の能力は、まだ見たことないから分からないなーとか思いながら、ゴブリンの残りカスという名のゴミをミミックに捧げる。


『ハッハー! ケッカハ カミノミゾ シルッテ ヤツサー!』


 ドラムロールを表現するために、ガタガタと揺れる僕の能力。

 せめて使えるものよ来いっ。


『トレジャー! オア! トラァァッシュ! コンカイ テメェラガ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』


 ウム、相変わらず騒がしい。そして出てきたのはお馴染みの紙袋。頭にレシピが浮かんでないから、作れるものじゃないっぽいよ。

 紙袋を開いて中身を確認する。


「ハズレでした。星の砂ですね」


 いります? ってみんなに聞いたら僕の能力のほうが気になったみたい。喋るのかとか、なんでも食べて代わりになにか出すのかとか。アタリはなんだとか、核宝石コアジェムだとどうなるんだとか、騒がしい。


「試行回数が少ないので、まだ分かりませんよ。そんなことより、私は服を手に入れたいんです!」

「町娘のもので良ければ、お嬢さんに差し上げるぞい」

「え、いや、でも──」


 悪いですしって言おうとしたら、大丈夫大丈夫っていいながらお婆ちゃんに手を引かれて1軒の民家に連れて行かれた。

 そして周りを見渡したお婆ちゃんが、僕に肩掛け鞄を渡してくる。


「気付いた人はおらんかったから安心おし」

「?」


 ア゛!


「大丈夫、大丈夫じゃ」

「だ、だっでぇぇ」


 オ ト ナ ノ オ モ チ ャ !

 落としてたっ。操血が崩れた時に鞄の中身をばら撒いちゃったんだ。レシピのメモとかビー玉なんかは平気だけど、問題なのがマッサージ器……ピンクとキラキラの小っちゃいボールの派手仕様なんだあ。しかも形がまんまちんちんだし、なにに使うものなのか一目瞭然だよ。

 お婆ちゃんは泣きじゃくる僕を、ずっと撫でてくれてた。


「ウウ、恥ずかしい……ッスン」

「ワシも若い頃は、暴れん坊喰らいっちゅうあだ名じゃった。問題ありゃあせん。お嬢ちゃんも喰ろうておやり」

「いえ、男の人はいりません。女の子が好きなので」


 女の子好きに驚いたみたいだけど、応援してくれた。

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