02 発見されたのは女王だったみたいだよ?

 紙袋を使ったレシピ帳。

 飲み干したコーラのペットボトルには水を入れた。

 それから換金できそうなアイテム類(これは気分を出すために、道具なんかはアイテム呼ばわりすることにした。たとえビー玉だとしても)


 これを血のバッグに入れて、肩に掛ける。なお、たくあんが乗ってた小皿も20枚超えてたので入れておく。チョットお洒落な感じなんだよね。パイスラッシュになるが仕方ないか。僕はバックパックが使えないからな。


 食料は途中の生物から血をいただけばいいでしょう。血を得れば得るほどパワーも増すし、できることも増えるからな。

 ただ大量の血液が、僕のどこに仕舞われてるのかが謎なのです。取り出して使えるんだよ。摩訶不思議。


「うん、準備はこんなものですね」


 口調は変える。中身が男とバレるのは、よろしくない未来が待ってるだろうし。5ヶ月間チョイチョイ練習してたから、大丈夫だとは思う。ただビックリした時とかはアヤシイかもな。


「気を付けるしかありませんが」


 さ、出発しよう。

 僕は背中に羽を生やし、朝焼けの空へ。新たな門出に相応しい綺麗な空だね。バックパック不可能案件だけど、課金して羽を生やしてて正解だったな。索敵しながら街道を探そう。


 枯れたダンジョンは、森に飲み込まれるように存在してた。大きな湖もあったし。お陰で木の実や水には困らなかったけど、誰にも遭遇することもなかった。第1異世界人は、どんな人かな。ちょっと緊張するよ。


 僕は太陽の方向に飛行開始。体感だけど時速40キロくらいは出てるので、2時間も飛べば人の住んでる形跡くらいは見つかるんじゃないかと思ってる。東京の長さが70~80㎞くらいだったはずだし。離島入れたら一気に距離稼いでズルいんだよな。東京って。


 そしてその程度の距離と思ってるのに、人里に向かわなかった理由は単純で、血の服しかないからなんだよ。ちくしょーめー。


 おっと、血の糸に反応あり。サイズ的にゴブリンかな。即座に血量を増やして、敵を絡めとりながら周囲にいるであろうゴブリンB以降を捕縛する。一応視認してから始末しますか。


「万が一、人だったらマズいですからね」


 でも問題なくゴブリンだった。たぶん、って付くけど。地球人のイメージするゴブリンっぽいから、そう言ってるだけ。戦闘系ギルドがあれば入会して、確認できると思う。


 絡みつかせてる血を使って、ゴブリンの身体を切り裂く。

 生きたまま血抜きして終了。

 このチート技を、僕は「操血」と名付けた。せっかくの異世界だし、ノリノリで生きるのがいいと思うんだ~。


 そのまま血を使って、魔石と呼ぶであろう(たぶん)宝石をもぎ取る。計6個。ゴブリンってだいたい4~8くらいで行動してるから、楽に稼げていいんだよな。

 お値段は分かんないけどさ、せめて1000円くらいの価値はあって欲しい。


「操血もかなり様になってきましたね」


 服を毎日形成してるっていうのも上達に役立ってる。索敵は血の糸を操って、広範囲に蜘蛛の糸を張り巡らせる感じだ。こっちは細かな操作と、遠距離の操作の練習になってるんだ。


 森の中ではスパイダーガールになって素早く移動してたりした。蜘蛛とは違って血の糸には粘着力がないので巻きつけるものがないと、この移動方法は使えないけど。でもそんな時は飛んじゃえばいいのだ。


 この身体──高性能なり!


 そうこうしてる内に、ヴァンパイアアイが荒れた草原に伸びる街道らしきものを、発見した。太陽が東から昇っているとしたら、南北に伸びる道。


「どちらに向かうのが正解ですかね」


 うーん、語尾に「ね」が多いかな?


「どちらに向かうのが正解でしょうか。かな」


 気にしすぎると喋れなくなりそうだけどね!

 そう考えると、頭の中で思ってる言葉の語尾は「よ」とか「な」が多い気がするな? 「ね」も多いか。あ、「さ」も多いかも。

 そんなドツボループにハマってしまった僕は、なーんにも意識せずに北へ向かって飛んでいた。げに恐ろしきはドツボループよ。そんな時、ヴァンパイアアイが前方から駆けてくる集団を発見。


 あれは……騎士? かな。プレートアーマーとかは着てないけど、全員が似たような格好で騎乗してるし。


「つまり、この先には比較的大きな街があるとみて良さそうですね」


 こっちに向かって手を振ってるから、僕も手を振り返しつつ高度を落とす。うー、緊張するなあ。


「こんにちは、お嬢さん。もしかしてコドの村からの連絡かね?」

「コドの、村ですか?」

「違うのか。野良のガーディアンが増えたと連絡を受けて、我々は向かっている最中だったのだが……異変に気付かなかったのかね?」


 野良ガーディアン……?

 異変?


「申し訳ありませんが、私は森から出てきたばかりで、右も左も分からない状態なんです」

「森? あそこは確か……いや、しかしな」


 騎士団は素早く視線をかわした。なんかヤバ目な雰囲気が漂ってるんですけど……。応答にマズいところがあったということか?


「班長、一応この子には同行してもらうのが、ベターじゃないですか?」

「……ウーム、そうだな。スマンがお嬢さんには不自由を掛けるが、このまま見過ごすわけにはいかん。一緒に来てもらう」

「は、はぁ……えっと、分かりました」


 なんかコドの村まで同行する流れになった。僕は飛んで行けるので、隊長の横を飛ぶ。色々と聞かれたので話す。誤魔化しようがないよ。もうすでに不自然だったみたいだし。


 伝えたのは、転生したとか、遊戯の神様の話とか。あと能力の練習とか、フォースの強化の日々とか。服がないのとアンデッドのことは黙っておくけど。そして最重要極秘事項である中身は男ってことも。


 すると話を整理した隊長が結論に至った。


「つまり君が女王ということか!」

「じょ、女王? 私がですか!?」


 なんか発見されたのは女王だったみたいだよ? しかも僕が?

 そして村に災害をもたらしたのが僕らしいんだけど!?


「そ、そんな……急いで村に向かいます! 魔物を殲滅しなくちゃっ」

「待て、勝手をするな! そもそも場所を知らぬだろうがッ!」

「上空から見れば一目瞭然です!!」

「ッ、確保ォッ!」


 僕より村だろ!

 捕まえようとする討伐部隊の腕を避けて、一気に速度と高度を上げて南に向かう。


 数ヶ月の間、僕が森の中で暴れてたせいで、徐々に外周部へ移動した魔物が、村の方に向かってしまったらしい。村人では対処が困難になったから、討伐部隊を要請したようだ。

 死んだ人がいたら僕は……僕のせいで…………ッ。


 10分くらい街道沿いに飛んでると、森にほど近い場所に村が見えてきた。今は襲われてないみたい。良かった。焦ってたけど現状を見て少し落ち着いた。深刻な事態って訳じゃあなかったんだ。マジで良かったよ!


「あのぉ、討伐部隊の方から話を聞いて先行して来たんですけど、どんな状況ですか?」

「おおっ!? おお、おお、ありがとうのう、お嬢さん。しっかし都会のお嬢さんは飛ぶんじゃのう」


 都会は関係ない気がするけど、愛想笑いを返しておく。見張りをしてるお爺ちゃんによると、敵はゴブリンだそうだ。そしてアイツらは夜行性だから、村の中で戦える人たちは休んでるってさ。狩人が30匹以上の群れを見つけたんだとか。


 今のところは餌を求めて、少数のグループが顔を出す程度だったらしく、怪我も軽症で済んでるそうだ。といっても村に戦闘職の人はいないそうで、大量に攻め込まれるとマズいらしい。


「そうですか。重傷者が出てなくて本当に良かったです」


 チョット様子を見てくると、僕は森に入る。目撃情報を頼りに進み、村から見えなくなる辺りで、手首を切って血を操り糸を巡らせる。

 索敵開始。


 僕のせいでゴブリンが群れてるなら、僕が始末する。怪我人も出てるんだし、さっさと処理したほうがいいに決まってるよな。討伐部隊が到着する前に終わらせてしまおう。

 女王とかいう警戒対象になってるし、逃げたほうがいいのかなあ?


「見付けたけど、多いですね」


 気付かれないように、細い糸で軽く巻き付けたんだけど、総数は47匹。内1体は大きいな。寝込みを襲ったのは、正解だったかもしれない。一応視認して、全部が魔物かどうかを確認しよう。


 ヴァンパイアの僕には、光源がなくても暗闇を見通せる目がある。暗視か夜目の能力が宿ってそう。なので、もし人を縛ってるなら判別できるはずだよ。


 ゴブリンたちが住処にしてる洞窟に侵入する。入口に立ってた見張りは、他のゴブリンと離れてたのでササっと倒しておく。まずは4匹。

 洞窟の中は湿度が高く、しかも濃密な悪臭が、僕にネットリ絡みつくように漂ってる。


 しばらく坂道を下りていくと、家畜のものであろう骨が散乱してる広場に出た。糸の感じだとそろそろ近いな。端から順に確認していこう。

 掘り進めたのか、元から小部屋状になってたのかは分かんないけど、分散してるからな。


 武器とかも転がってて、なんか僕のサバイバル生活より文明力が……く、悔しいんですけど。

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