推しキャラ転生はしゃーわせです

ヒコマキ

01 ないあるよ?

「裸……」


 裸転生とか難易度高いんじゃないの?

 なんでこんなことになってるのか、僕にはさっぱり分からないよ。ただ1つ、決定的に違うものがあるし、なくなったので、転生したと理解した。納得はできないけども。


 おっぱいある。

 ちんちん、ない。

 ないあるよ?

 揺れてみた。

 上は揺れども下揺れず。


「どうしよう」


 人として転生したみたいだから、まだセーフなんだろうけどなあ。服をどうにかしないと、裸の女の子が人のいる場所に向かうなんてことはできないよ。

 いや、まあ男でもムリだけどさ。


 床には僕の体温が移ってないから、転生したのは今の今ってことっぽい? 動けるうちに衣類とか食料を、なんとかしないとマズいよなあ。

 妄想くらいはしたことある。だけど体験するなんて普通は思わないじゃん。転生するとか分かってたら、ハードモード転生系も見ておけばよかった。


 とりあえず行動しよう。考えてるだけじゃ事態は好転しないし、終わっちゃう可能性だってあるしな。でも転生を体験してるのに、思ったより慌てたりしないもんなんだなあ。なんでだろうねえ?


『お前がアンデッドだからだろうな』

「!?」


 誰かの声が聞こえてきた。僕以外にもここにいるのか? 視線を巡らせて、物陰を探して隠れる。

 全裸女子なもんで。


『俺は遊戯の神。枯れたダンジョンの神殿で愉快な気配を感じて来てみれば、転生者とはな。珍しいことだ』


 神が話しかけてくる世界があるなんて。アンデッドとかダンジョンとか気になる言葉もあったけど、これはワンチャンあるか?


『クックック、ワンチャンやろうじゃないか転生者よ』

「す、すいません神様。頭の中まで分かっちゃうとか思ってませんでした」

『構わん。俺たちはそういうことも楽しむからな』


 そう言った神様は、ワンチャンくれた。というか、この世界はみんな能力持ちなんだって。神殿に行けば誰でも能力を授けてもらえるそうだよ。善悪関係なしに。

 蛇の道は蛇ってヤツか。悪人には悪人用の手段がある様子。そして動植物とかは、強い想いを持ってる個体が神様と交信できるんだって。


 神様もいっぱいいるってさ。日本の八百万の神々みたいなものだそうです。


 そして僕は転生者だからと、フォースの使い方を伝授してくれた。たすかる。さらにもう一声あった。

 たすかるぅっ。


『アンデッド成分もサービスで調整しておく。転生者としての記憶で辛かろうて』

「ありがとうございます。たすかります」

『そなたに授けるのは宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ。人里から遠く離れた、この場所からの再出発には最適であろうよ』

「おぉ、僕の……能力っ」


 能力の使い方、フォースの使い方、そしてアンデッド成分の調整。これは破格の待遇らしい。普通は能力の使い方だけなんだってさ。


『愛し子よ、楽しめ』

「あーー、服もついでにぃぃぃっ」

『ガチャは楽しかろう?』


 楽しかろう? かろう? ろう? ろう? ろう? とかフェードアウトする神様。生きるか死ぬかのこの場面で、ガチャの能力で楽しめとか。遊戯の神様っぽいけど、もうワンチャン欲しかったよー。

 枯れたダンジョンの神殿で、アンデッドの僕は調整されて能力を与えられて、裸放置。


 まあなにもないよりはマシか。

 よし、能力に必要な素材集めから始めよう。フォースとやらも使い方を理解してるから、素手でもなんとかなりそうだし。

 僕は枯れた神殿ダンジョンを拠点にして、衣食の制作と確保を進めた。次点で武器。素手よりは棍棒でもあったほうがいいもんね。


 そして──5ヶ月くらい経ったんだよなあ……。


 僕の能力、クセが強くないか? 欲しいのが全然でなくて、結構困ってる。むしろ困り果ててるといってもいいのかもしれない。

 元号別の空気缶(缶切りなし)

 シェーバー(電気なし)

 納豆(ご飯欲しい)

 スーパーボール(色とりどり)

 ビー玉(色とりどり)

 他にも土が出てきたり、植木が出てきたり、お湯がたっぷり出てきて全部地面に染み込んだりもした。

 わぁい、レシピも手に入れてるよぉ~。


「あんまり役に立ってないな、僕の能力」


 あ、でも歯ブラシは役に立ったか。歯磨き粉はないけど。


 でもさあ、いまだに、僕、裸、だし。

 いや、気付いたこともあったんだよ。割れた鏡を発見して知った僕の外見。僕がアーリーアクセスの頃から、ずっと使ってたゲームのキャラだった。


 しかもカンストキャラのヴァンパイア、パイアちゃん。超カワキャラなのよ。キャラスキンはもちろん、コンプしてたよ。


 あどけなさから1歩抜け出して可愛いと綺麗を併せ持つ、モテ期まっただ中の麗しき女子である、パイアちゃん。

 身体のラインだって、万人を虜にするであろう魅惑の凹凸が付いてる。

 黄金の長髪が夕日を浴びて輝いているので、キラキラしてる女の子なのです!

 課金すべき女の子なのですよ!


 推しキャラ転生はしゃーわせですっ!


 まあ……外見だけだったので魔法も使えなかったから、初戦はボッコボコにされて血まみれになったんだけど。サンダージャベリンからの突撃型近接攻撃が鉄板だった僕は、サンダージャベリンが出なくて固まってしまったんだ。

 カンストキャラなのにー。

 無双の予定だったのにー。


 いやぁでもさ、痛覚なくてセーフでしたよー。血がドバドバ出てもヘッチャラだったもんで、自分の身体にビビった。再生するし。

 僕、痛くないし再生するしで、たぶん強いんじゃないかな。あと死なないかもしれない。だってお腹辺りが半分なくなったのに再生したし。


 キモイ光景だった……。


 しかも血を自在に操れたりなんかしてさ、武器がなくても戦闘できた。そのお陰で血の服ってものを思い付けたから、一応は恥部を覆い隠せてるよ。


 まあ、最初に試せって話だよな……分かってるよ……浮かれてたんだよ……。


 でもやっぱり普通の服は欲しいじゃん? 草とか樹皮なんかで頑張ってみたんだけど無理だったんだ。

 だから服を出そうと頑張ってたんだけど、出なくて月日が過ぎちゃったのよ。血のドレスで街に行くべきだろうか? 課金で増やしたスキンのドレスが作れるし。血液ならっていう条件が付くけど……。

 それともせめて布が出るまで頑張るか。裁縫なんてできないし道具もないけど。


「うーん、いい加減、文明を味わいたいしなあ」


 まともなご飯が食べたいよ。ヴァンパイアだから血を栄養にできてるっぽいけど、美味しいとは感じないからなあ。イケそうとか思ったあの頃の僕を殴りたい。今はもう口からじゃなくて、血を操って直接取り込んでる。あとは味なしの肉とか魚とか……。

 嫌いだからってお酢が出たときに、捨てるんじゃなかったと後悔もした。


 行くか、街!


 もう耐えられないや。中途半端にご飯のお供が出るせいで忍耐の限界っ。白いたくあんとか、黄色いたくあんとか、味噌漬けのたくあんとか、僕の能力が謎のたくあん推ししてくるし。


 しかも小皿で出すんじゃあないよ!!!!!!

 1本単位だったら味のある生活だったのに……。


「売れそうなものを準備してから街に行こう」


 出てきたものの中ではビー玉とスーパーボールがワンチャンか。充電できないシェーバーとマッサージ器はどうしようか。このダンジョンの神殿遺跡にある道具を見る限り、未来のアイテムになりそうなんだよな。使えなくても研究する価値はありそうだ。やはり一応は見せてみるべきかな。マッサージ器はどこに出せばいいのか迷うけど。専門店ってあるのかな?


 あとお金になりそうなのは、魔物の中にある宝石みたいなの。魔石的なものが売れると思う。物語とかゲームでは定番だしな。角とか皮なんかも魔物素材として売れる気はするけど、剥ぎ取り方も分からないし保存方法も謎。

 だから食べられそうなヤツ以外は能力に使ってる。ゴミを再利用してガチャれるのはいい点だ。でもゴミガチャはハズレ多し。


 そして問題なのがもう1点。

 宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュは、魔石らしきものを使ったほうがいいのが出るんだよ。微妙にだけど助かってるし、いくつかは確保しておきたい気もするが……魔物はいくらでも湧いてきそうだし、行きがけの駄賃で狩っちゃえばいいか。持ってる分は今使おう。


 服が出るかもしれないしな!

 ということで、 僕はフォースの密度を上げていく。

 塊になるように。

 そこに宝箱があるかのように。

 想いと力が形となるように。


「開け──宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ──」

『ヘイヘイヘーイ イイモノ クワセロヨォォ?』


 形作った木と鉄のボロっちい宝箱が、要求を出した。

 うーん、相変わらずのミミック。

 僕の能力で出てきたコレが、神様のくれた能力なのであーる。

 鬱陶しい&役立たずという……。


「今回は頼むよ、ホント、マジで」


 僕は保存しておいた魔石を6個食わせた。内訳は小4個、中1個、大1個だ。宝石のサイズというより、内包されたエナジーのサイズだね。

 たぶんゴブリンのと、たぶんキラーマンティスのと、たぶんゴブリンジェネラルかキングのヤツ。ロードの線もあるか。


『ハッハー! ケッカハ カミノミゾ シルッテ ヤツサー!』


 ドラムロールを表現したいのか、ガタガタと揺れる僕の能力。


『トレジャー! オア! トラァァッシュ! コンヤ テメェガ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』


 悲鳴を上げながら塵になる僕の能力。表現も豊かである。苦痛があるのかは分かんない。だって毎回こうだし。


 さて、今回はなにが出たかな? 6つある紙袋を順番に開けていく。

 まずは……たくあん。黄色のヤツ。

 それから……たくあん。味噌漬けのヤツ。わーい、アタリのたくあん~。

 次は──~たくあん。黄色のヤツ。


 なんとたくあんが3連しているではありませんかッ!

 いや、マテマテ、まだ3つ残ってる。アタリ来いアタリ来い、アタリよ、来いっ!

 僕はそう希望を持って、紙袋を開いていく。


 花の種、1.5リットルのコーラ、銀の指輪。

 コーラと指輪はアタリだな! コーラはレシピが手に入ったし、素材を集めたらこの世界でも飲める。

 指輪は換金アイテムとして使おう。僕には鑑定できないけど、レシピの素材的にマジックアイテムではなさそうだし。


 服になりそうなものは1つもなかったけど、服は買えるでしょう。服を買いに行く服がない状態だけど、血のドレスでゴリ押ししますわよ!

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ITEM RANK

 土

 植木

 お湯

 たくあん(黄 白 味噌)+小皿

 花の種

 元号別の空気缶(缶切りなし)

 納豆(1パック)

 歯ブラシ1本(ピンク)

 スーパーボール(色とりどり)

 ビー玉(色とりどり)

 コーラ1.5リットル(ペットボトル)

★★

 シェーバー(電気なし)

 マッサージ器(使用済み 洗浄済み 意味深)

 銀の指輪


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