64ー69

64


帝都の市街に行った時、小さな洋品店の前で足が止まった。

山間部の民族衣装に似た女の子の外出着が飾ってある。


「あの、これちょっと見せて貰えませんか?

俺はこういうのはよく分からないから、

13.4歳かな、小柄で灰色の髪の子なんですが、

これ似合うかな。」


「その年頃の女の子ならピッタリです。

喜ばれると思いますよ。」

「そ、そうですか。」


俺は少し照れながら代金を払った。


「ありがとうございました。

かわいい彼女さんにもよろしく。」


絶対誰も見ていないよな?

あたりを見回して、知った顔がいないのを確かめてから、その洋品店を出た。


セバスチャンには日よけになる帽子を買った。


頭骸骨に直射日光じゃ暑いだろう。



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次の休日、クレアへのプレゼントはザックの1番下に入れた。


行きがけに脚立を買って、馬にくくり付ける。

心配の種だったあのポンコツ結界を何とかしなきゃ。


俺は前回と同じように、馬の鞍からジャンプして結界に飛び付き、飛び降りた。


「おお、よく来たのー

相変わらず、ふぬけた面をしておるのー」


よかった、クレアは全然変わってない。相変わらず憎まれ口を言って俺を迎えてくれる。


まずセバスチャンに帽子を渡した。


「お世話になったお礼ですので、」

「おや、これはありがとうございます。

ピッタリですな。」


ガイコツはそう言って、黒いハンチングを被った。


「おぬし、ほんとガイコツには行儀がいいな。」


「今日は脚立を用意してきたんだ。」

そう言って、馬にくくり付けてあった脚立を取りに戻った。


「おい、この結界開けてくれ。」

と言って外からドンドンと叩くと


「面倒くさいのう。」

そう言うと、クレアは右手を前に出し、何やらブツブツ呪文を唱えて、俺にブワッと熱い風のようなものを吹きつけてきた。


「これで結界は出入り自由じゃ。

ふん、いちいち面倒くさいからの。」

そう言ってプイと横を向いた。


クレアを脚立の上に乗せ、結界を家の屋根より高くした。

下の方は、補強のため内側にもう一枚張り二重にした。

まあこれでひと安心だな。



66


「ご苦労様、

まだ早いから、街まで行って食事してこないか?」


実はこっちの方が今日の目的だ。


「お断りだ!」

そう言うと思って、用意してきた衣装をザックから取り出した。


「ほらプレゼントだ。これを着て行こう。」

服を見た途端、クレアの目が輝いた。

(あっ、気に入ったな。)


「いってらっしゃいまし。ほう、この服はなかなかかわいいですな。」

「フン、着替えるだけだぞ、出ていかんぞ。

着るだけだからなー」


クレアは自分の部屋で着替えると、スキップをするように戻って来た。

髪にも櫛を入れてある。


(あ、俺グッジョブ!)

思わず小さくガッツポーズをしてしまった。


(かわいい、めっちゃかわいい!

このまま寮の部屋に飾りたい。)


「うんまあ似合ってるんじゃないか。

このまま街へ行こう。」

「それがよろしゅうございますな。」


ガイコツはひどく上機嫌だ。


クレアは、いつも着ている濃い灰緑色のローブを被ろうとした。


「だめだめ、あのな、こんな古くさい物着てるから魔女じゃないかって思われるんだ。

着てなきゃ絶対分かんないって。」


「このローブはなぁ、ばあちゃんが着ていた物なんじゃ...」

「え? す、すまん形見だったのか?」

「縁起でもないこと言うな!

まだピンピンしとるわい。」

「そうか、

それならかまわん早く脱げー!」


ローブを無理矢理引き剥がすと、腕を引っ張ってクレアを連れ出した。



67


馬は便利だ。


クレアを前に乗せて、あっという間に街に着く。

市街地のはずれに馬を預けて、歩き出してから気がついた。


(あ、しまった)

クレアが履いてるのは、いつもの長靴だった。

(そこまで気が回らなかったなー)


「帰りに新しい靴も買おうな。」


小さなレストランに入った。

高級な所は貴族が多くて、俺でも入りにくい。

それでも、その店で一番高いステーキを注文した。


「マナーなんて気にしなくていいから。」

そう言って、見本を見せるように肉を大きく切って口いっぱいにほおばった。


クレアの食べ方は綺麗だった。

俺は肉が喉につかえそうになった。


クレアは自然に肉をスッスッと小さく切り分ける。

それをゆっくり口に運んだ。

(こいつ、良家のお嬢さんだったんじゃないか?)


「なんだ、トマト嫌いなのか?」

「んー」

「じゃ、俺が食べてあげよう。」


そう言って口を開けた。


「ははっ、また餌付けか?」

クレアはフォークに刺したトマトを俺の口の中に入れた。



68


レストランを出てから、中央広場に行った。

大道芸人が、ボールを使ったパフォーマンスをしている。

2人でベンチに座って、笑いながらそれを見ていた。


(デートだ、これは完全に。)


その時俺は気付いた。

(誰か見ている!)


しかし、視線は少年たちだった。


「あの子 あの子、すごくかわいいよな!」

「うん、声かけてみようか?

だめだ、大人と一緒だよ。チェッ」


(何だあのガキ)


クレアは芸人が失敗して、ボールを撒き散らしたのを見て笑い転げていた。


「お嬢ちゃん、かわいいねぇー」

太った貴族の中年男が、いきなりクレアの手をつかんできた。

「おいで、何でも好きなモノを買ってあげるよ。」


クレアは化け物を見るような顔をしている。


「やめろよ! 嫌がってんだろ!」

「何だと、平民は下がっとれ!」

俺は男を突き飛ばし、男は尻もちをついた。


「おい、逃げるぞ!」

俺はクレアの腕をつかんで駆け出した。


「無礼者ー! 捕まえろー!」

男が後ろで騒いでいる。


「いいのかー? あんなことしても、」

「あたり前だ、あのクソ野郎、

人の彼女を、見てる前で連れ去ろうなんて最低なヤツだ!」


「いいのかー? 相手は貴族ぞ、大丈夫なのか?」

「バカ、大丈夫じゃないから、こうして逃げてんだろ!」


馬を預けていた店にようやくたどり着いた。

「あ、ごめん、靴買えなかったな。」



69


「おい、おまえどこ行ってたんだ?」

テオが突然聞いてきた。


(そうだ、こいつにだけは言ってしまおうか。)


「実はな、魔女の所だ。」

「え、魔女? 

魔女ってもしかして、おまえを助けてくれたっていうバアさんか?」

「うん、それがその人は魔女なんだが、バアさんじゃないんだ。」


「よく分からんが、じゃあおまえを助けたのは、もっと若い魔女だったって事か?」

「ああ、もっと若い魔女だ。」

「そこへおまえが通っているのか?」

「そういう事だ。」


「ええーっ⁉︎」

テオが、のけぞった。


「ヨ、ヨハン、おまえやるな! 凄いな!

まじめそうな顔して、やる時は大胆なっ!」

そう言って、バンバン俺の背中を叩いてくる。


「いや違う、違う、

多分、おまえが今想像したのより、もっと若い魔女だ。

13.4歳、いやもっと下かな。」


「あ?」

テオは急にテンションが下がった。


「何、おまえそういう趣味だったの?」

「自分でもよくわからん。」


「まぁーね、幼女にしか欲情しませんっていうオッサンもいるから。」

「俺をそんなヘンタイと一緒にするな。

違う、か、かわいいんだ、すごく。

普段は憎まればかり言うのに、時々優しかったり、急に抱きついてきたりしてー 

なっ。」


ぶっはははー

「そうか、そうか。それは実に健全な趣味だ。

よかったなー 

ロリコンのヨハン君!」


「うるさい! 俺はロリコンじゃねえ!」

「紹介しろよー」

「いやだ、絶対見せたげない!」

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