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11


ヨハン達はひどく後悔した。


案内人たちは森に近づくと そそくさと帰ってしまった。

地図とコンパスを持たされて 後は自分たちでこの森を進むしかない。


人を寄せつけない北の魔の森。

少し入っただけであたりは薄暗くなり、鬱蒼とした木々の陰から獣の唸り声がする。

暗闇から無数の赤い目が光る。魔獣だらけだ。


「神官様からもらった魔獣除けの護符、全然効かないじゃないかー!」

「教会のお守りなんてその程度だ。諦めろ。」


グアアアという声をあげ ガルムが襲いかかってきた。

「うわー!」

「ヒイー」


ヨハンは叫んだ。

「離れるな! バラバラになるとやられるぞ!」


(数が多いだけだ。訓練した時と同じだ。

こちらから打ちかかる必要は無い。

襲ってくるヤツから一頭一頭倒していけば)


「後ろからくるヤツには気をつけろよ。」


ヨハンだけが彼らの動きを見切っていた。

襲ってくる魔獣を一頭ずつ確実に倒していく。


いつの間にか彼のまわりにはガルムの死骸の山ができ上がっていた。



12


ヨハンはスタスタと歩き出した。


地図を見ながら位置を確かめる。

魔女が幽閉されている結界があるはずだ。


「あ、あそこ、あれじゃないか?」


一人が指差した。

景色が歪んでいる。

木々に覆われる空間が微妙にずれているのだ。


「え、よく分からないがどこだ?」


そう言って別の者がそこに近づいた。

フォンと小さな音がして、身体が半分消えかかった。


「うわぁ ヤバい!」

みんなで一斉にその男の手や服をつかんで かろうじて引き抜いた。


「下手に通り抜けようとしたら 亜空間というものに捕まって、二度と出てこれなくなるそうだ。」

「お前、あと一歩でアウトだったぜ。」

「ヒャー びっくりした びっくりした。」


「えーと ここを抜けるのにはどうするんだっけ?」

「何処かに継ぎ目があるはずだ。

魔法使いの出入り口だ、探そう。」


暫くすると一人が叫んだ。

「これだこれだ。」

その景色はほんの少し縦にずれていた。


ヨハンは聖剣と呼ばれる重厚な剣をその隙間に差し込んだ。


結界は開かれた。

左右に両開きの扉が開くにつれ、全く別の景色が彼らの目の前に現れた。



13


明るい日差しが降りそそぎ、そこは朝だった。


爽やかに晴れた空間

足元の花壇には色とりどりの花が咲き、小さな蝶が舞っていた。


高名な画家が描いたような 穏やかな春の庭園風景

その向こうに 純白の屋敷が建っている。


異空間


結界の内側は全く別の世界だった。


「どこだ ここは?貴族の別荘のような...」

「魔女は幽閉されているんだろ?

ここは監獄のはずだろ?」


おかしい 何もかも予想していたものと違う。


彼らは場違いの屋敷を訪れた客のように

キョロキョロとあたりを見まわしながら 白い建物の方に向かって進んで行った。



14


「おはようございます。」


突然声をかけられて飛び上がった。

植木の刈り込みをしていた男がにっこり笑って挨拶してきた。


「ご用は何ですか?」

「え、あ、あのー ここは北の魔女さんのお住まいですか?」

何とも間抜けな質問をしてしまった。


「....」


男は笑顔のままこちらを見ている。

「あの、ここは北の魔女さんのお屋敷ですか?」


「.....」


その時

「おい離れろ!」

テオが突然叫び、男を激しく突き倒した。


「人形だ!」


何も言わず地面に倒れた男からは、黒い煙が立ちのぼり木像人形へと変わった。



15


水桶を持ったメイド服の女が 何事も無かったかのように こちらに向かってゆっくり歩いて来る。

黒い軍服を着た怪しい集団に にっこりと笑って挨拶した。


「おはようございます、ご用は何ですか?」


「どけっ!」

俺たちはメイドを押しのけると、玄関に向かって走った。


途中 雪だるまのような尻尾の無い犬が吠えかかってきたが、払いのけると土塊になった。


警護の者もいないのか?


正面玄関の近くには 扉を開けてはき掃除をしているメイドが2.3人いるだけだ。


皆こちらに笑顔を向けて一斉に

「おはようございます」

と言った。

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