ワール辺境伯領
ミザリスの町から早馬で1日半の場所にあるワール辺境領の中心地ドルノ・ワールと呼ばれるこの町は
最初にそれを見た印象を一言で言うならただの普通の町だと言うことだ。
ここで各国のスパイたちがしのぎを削りあっているとは到底考えられないくらいの平穏さがここにはあった。
だがよく周囲を観察すると貧富の差が開いているようにも思えた。
一部の者達は身なりがよく、自分に自信を持っているのか知らないが尊大な態度で他を見下しているように思えた。
そして残りの者達は身なりをみればある程度は普通に生活しているのだろうが覇気や生気のある顔をしたものが少なく全体的に下級層と呼ばれる者達の元気がないように見えたのだ。
一目みて俺がわかったのはこのくらいだ。
だが俺よりも感覚が鋭く、多くのものを見てきたリースには違うものが見えたようだった。
「リース、どうだ?」
俺はリースにそう問いかける。
「おかしいな...」
リースがそう答えた。
「いや、私も少しおかしいと思う。
なにか根拠があるわけじゃないけど、
それでも何かが...ごめんなさいこれ以上は」
カラムが肯定する。
リースとカラムがそう言うといくとこは
恐らくこの町になにかあるのかも知れない。
そしてリースの勘はよくあたるのだ。
だがここで立ち往生していても仕方がない。
「とにかくワール辺境伯に話を聞きに行こう。
なにも情報がなければ話にならない。」
俺の言葉に皆が肯定する。
俺たちは辺境伯のいる屋敷に向かおうとした
その時だった
「さあさあ!新鮮な奴隷たちをまた新しく入荷した!値段は破格の値段で売るよ!!早い者勝ちだ!!」
その声につられてその声のほうを見てみると
そこには一人の男と裸の女や男が入っている牢が荷馬車の上にありその周辺に多くの群衆が群がっていた
どうやら奴隷商人が奴隷の売買をしに来たのだろう・・・
戦争に赴くときに多くの町を見てきたが奴隷売買など久しぶりに見た。
奴隷売買そのものは時代を経るごとに少なくなってきてはいるが、まだこういった現状もあるのもまた事実だ・・・
「一番左の若い女をくれ!」
「値段は大特価の90、いや80ゴールドでどうだ?」
「80・・・少し高いがそれでいい!買うぞ!!!」
「はーい!!80ゴールドでお買い上げです!!」
奴隷商人が牢の扉を開け女を外に出す。
「こちらが商品の奴隷と手かせのカギにございます。ご購入ありがとうございました!」
と奴隷商人が女を買い手の男に受け渡す
「へっへっへっ、最近溜まってたからなぁ、壊れるまで犯してやるぜ・・・」
「うそ・・・嫌だ、いやに決まってるじゃない!!!」
「うるさい!女は素直に男の言うことを聞いていればいいんだ」
と男は奴隷の女を抱き寄せ無理やり口づけをする
女はなんとか逃げ出そうとし
そして・・・
「ああああああ!!!このくそアマ!!よくも俺の首をかみやがったな!!!」
と女は男の首にかみつき傷を負わせる
「こいつ!」
ボン・・・という音が周囲に鳴り響き女は何度も殴られる
「俺を舐めるとどういうことになるか教えてやる」
と興奮した男が女の腕を持ち・・・
腕をへし折る
「あああああああああ!!!」
女はわめき散らし助けを求める
だが誰も・・・助けようとするものはいない・・・!
誰かが・・・助けないと・・・!!!
「待て!ここで騒ぎを起こすとまずいぞ」
といつのまにか剣に手をかけていた俺に対しリースが止めに入る
「剣を抜いてどうするつもりだ?」
「助けにいくにきまってるだろう!」
「ウィリアム!いいかよく聞け!」
リースが話を続ける
「この国では確かに奴隷売買は少なくなった、だがなくなったわけではない!それに奴隷売買は・・・犯罪行為には当たらない・・・唯一奴隷狩りで無理やり奴隷にさせられた奴隷は違法行為に当たるが・・・」
「あの人だって違法行為で捕まった奴隷かもしれないじゃないか!」
「だが今の俺たちはそれを証明する方法がない・・・ウィリアム・・・世の中とは、世界とは・・・こういうものだ、少なくとも今は!
それを変えるために俺たちがいるんだ」
リースは俺の手を取りこう続ける
「魔帝国と魔帝を倒した後に奴隷制度の撤廃も進めていけるよう努力していこう、だから今は耐えてくれ!」
リースの言うとおりだ。
奴隷制度そのものは犯罪じゃない
今襲われているあの人が犯罪や借金などで奴隷になった公的な奴隷なのか、それとも村などから勝手にさらわれた違法な奴隷なのか俺たちにはわからない
そしてそれを確かめる時間も俺たちにはないということだ・・・
「わかった・・・」
わかってはいた、だが体が勝手に動くのだ、人を助けるために・・・
この世界では今泣け叫び連れていかれる人を助けることすら許されない
こんなことは間違っている・・・
だがそれ以上に、やらなければいけないことがある
まずは魔帝を倒す
そこから力をつけ俺が世界を変えてやる
「すまなかった、いこう」
と俺がそういうと二人とも複雑な表情ではあるが頷いた
歩みだそうとした、だがそこに一人の男が現れた
「ウィリアム・ブラックスだな」
と衛兵の服の上に暗い灰色のローブを纏った男が話しかけてきた
「お前はだれだ」
と俺は聞く
すると男はローブをめくり衛兵の服に刻まれた紋章を俺たちに見せながらこう言った
「俺はワール辺境伯の使いだ。お前たちを屋敷に招待しに来た」
「ようこそ我がワール辺境伯領へ!私はブレノトス・ド・ワール。我が地、我が家、我が国にようこそ!!」
ローブを着た衛兵に連れられワール辺境伯の屋敷に招かれた俺たち三人はワール辺境伯に会うことができた、何の知らせもなくいきなり町に
来たのにもかかわらず、そのようなことは気にせず辺境伯は気前よく俺たちを歓迎してくれた。
しかし国王から代々預かりしエラリアル王国の領地を我が国とはな・・・
「お初にお目にかかります、私はエラリアル王国第12小隊小隊長、剣王位階第一位「光王」ウィリアム・ブラックスと申します」
「そんなにかしこまらずともよいのですぞ?『勇者』殿。あなたはついこの前この国を救った救世主であるのですから・・・こうしてお会いできただけでも光栄なことなのです。ですので・・・」
「いや、いくら剣王といえども剣王という称号自体に何かしらの実権や法的な権限なんかはありませんから、これでご容赦を」
と謙遜しているようにも思われるかもしれないが実際に事実なのだ
剣王の称号は何事もなければ10年に一度開かれる剣王闘技会にて上位10名のみに与えられる称号、であるのだが
この剣王という称号は明確に何かを現すものではなくどちらかと言えば象徴に近いものであるのだろう
強さの象徴
しかしたとえ何の法的権限はなくとも、強さを至上とするこの国ではその称号は何よりも得難い名誉であることに変わりはないだろう
「それでも、剣王という称号はこの国最大の敬意と尊敬があるものだと私はそう思います。」
と辺境伯もこう言ってくれた
そうしているうちに辺境伯が侍女を呼ぶ
「さあさあウィリアム殿、今茶を入れさせますので少しお待ちを、なんならここで昼食もとっていかれますかな?我が家の料理は絶品ですぞ?」
と辺境伯は笑顔でこう言ってくれてはいるが
「いや、辺境伯にそこまでしてもらうことはないですよ、茶だけで結構です」
「そうですか」
そうしているうちに侍女が茶を入れ終わり冷めないよう熱いうちに飲むことにした
「うん、ずいぶんと香りのよい茶ですね、貧民の出ゆえこういう嗜好品には疎いのですが、そんな俺でもこの品はいいものだということがわかります」
「そう言ってもらい安心しました、少し前に帝国から来た傭兵ギルドのAランク傭兵の方がこの町に定住するとのことでその時に頂いた茶葉なのです。
普通ならば他人からのもらい物を客人にお出しすることはないのですがその茶葉は帝国産の最高級品、パック一つでこの国のゴールドでいうとすれば1000ゴールドはくだらないとか!」
ゴホゴホゴホ・・・!
とそうせき込んでしまった
1000ゴールドの茶葉だと!?全くなんて物を飲ませるんだ・・・
ここで貧民の出の俺を遠回しにバカにしているのではないか?
いや、考えすぎか、この世界にはそういうやり方で人を馬鹿にするものをさんざん見てきたがただ単に好意でこのような高い茶葉を使った茶を入れ俺たちに最上のもてなしをしてくれているのかもしれない
そう考えると少しでも人を疑ってしまった俺の考えがあまりにも浅はかだと言わざる負えないだろう
まずは感謝の意を述べよう・・・
「これほどの品のものを飲めるとは感謝いたします。」
と口ではそういうことができたのだがやはり貧民育ちの俺にはこの茶は少し合わないな・・・顔が引きつって苦笑いになっているのはもうどうしようもないだろう
だがそんなことよりも俺には気になる話が合った
「それにしても傭兵ギルドの傭兵ですか、それもAランクとなると大陸で30人ちょっとしかおらずそんな方がこの町に定住されたのですか」
「はい、治安の悪い町の領主としては強い人間が来てくれるのはものすごくありがたいことなのです
それはウィリアム殿も同様です、そしてウィリアム殿ここに来たからには何かは
なしがあったのではないですか?」
もう少しそのAランク傭兵の話を聞きたかったのだが辺境伯が話を変えてきた以上自分の好奇心を抑え、俺は本題を話すことにした
「そうですね、ではさっそくですが本題に移らせてもらいます」
俺は茶を一杯すすり話を始める
「少し前に大きな戦争があったのは、辺境伯はご存じですか?」
「もちろん、われわれ王国が劣勢に立たされながらもあなた様がその窮地を勝利へ導いたかの戦いのことでしょう!あの時のあなた様の名声は・・・!」
「そういうものはまた今度で。続きなのですがわれわれ王国軍は今月に東からデネアリア帝国が、来月には西からエミア聖国がわが国に侵攻してくるという情報を察知しあの時点では東側国境に剣王序列第五位コーネル・シュラウドルフら愛国派と闇の一族の主戦力二万が配備され
西側国境には私を含めた新王派・貴族派連合の軍五千の部隊が国境守備にあたりました。そう、『国境守備です』。ですが来月来ると思われていた聖国軍が来たんです。
ではそれ以前に情報がどこからきたか、ここ、ワール辺境伯領からです。」
そして次にリースが話しはじめ辺境伯を問いただしていく
「率直に聞かせてもらうぞ、辺境伯、あんたは・・・最初から聖国と通じてうその情報を掴ませその情報を渡すことによって見返りをもらった。違うか?」
リースは少し声を低くして相手を少し威圧するかのように話す
「その様子では私が何を言おうとなんとごまかそうとも信用してはもらえないでしょうなので率直に申し上げることにします」
そういう辺境伯、やはりなにか裏があったか
さすがに他国と内通してはいないだろうがそれでも人間たまにはミスの一つも犯すだろう
と、俺は辺境伯の言葉に耳を傾けていると衝撃の言葉を放ったのだ
「私は、二大国と通じておりまする」
!?
皆が驚愕し俺やリース、カラムはともかくそばにいた侍女や俺たちをここまで連れてきたローブを着た衛兵ですらも驚き辺境伯を見つめていた
そしてあたりには重い空気が流れだす・・・
「お前やはり裏切って・・・!」
「待てリース!!」
まだ武器に手をかけてはいないが辺境伯に殺気を放ち怒鳴りつけるリースを何とかなだめる
だが俺には少し引っかかるところがあった
「辺境伯、なぜ噓をつくことなく真実を話されたのですか?その話が本当であるならばうそをついてその場しのぎでごまかせばいいいものを、なぜ真実を話されたのです?」
俺が聞くと辺境伯は素直に答え始めた
「理由はふたつあなた方の信用を得たかったから、そして身の潔白を証明したかったからでございます」
確かにうそをつくことなく後ろめたいことを正直に話す辺境伯は少しなら信用してもいいのかもしれない
俺は辺境伯の言葉に耳を傾ける
「この地は王国で唯一聖国、帝国という二つの国と隣接しており両大国から常々調略や妨害工作、あげくにはくだらない嫌がらせなどが横行しこの地の治安が良い時などここ数十年一度たりともありませんでした。
ここまであれにあれ、不安定化した場所であるのにもかかわらず、王国は援軍どころか一切の援助をすることなく。
王国の助けなくこの地を安定させるには他国と通じるほかなかったのです」
確かにな・・・
ここワール辺境伯領は大陸東方面から大陸最南端まで縦長の領土を持つデネアリア帝国と西に小さな国が点在しつつも西に広大な領土を持つエミア聖国、ここワール辺境伯領はこれら二つの大国に唯一隣接するエラリアル王国の領土なのだが、二つの大国が隣接しているせいで
このワール辺境拍領は常に二つの大国の妨害を受け続けてきた、そのせいで辺境伯領の治安は王国のなかで最も治安が悪いとさえ言われている
二か国の妨害と破壊工作により町には荒くれ者と犯罪者、そして素性のわからないあやしいものがあふれ、それが貧富の差や民の貧困率にも影響を与えているといわれている
そして町の各地で犯罪と暴行、喧嘩が起きようとも辺境伯にそれを止められるだけの軍がないことや
王国全土の不況によりどの派閥でさえもこの領地に援軍を送ることも金や食料などの援助を送ることすらできないのだ
そんななかで生き残るには他国に頼るのも仕方なかったのであろう
「だが信じてください、先の戦争でうその情報を渡したのは決して私ではありません!!」
「なら言わせてもらうが、お前以外誰がいるっていうんだ!!!西側の聖国戦線がすぐ近くにあるせいで数は変われど軍が常に駐留していて他国につこうともつくことができない。
王国軍が邪魔だったお前はうその情報を流すことによって王国軍を壊滅させ、どうどうと聖国につくのが目的だった、違うか!?」
ドンと机をたたきリースは辺境伯を威圧した。やはりというべきか、自分の中で許せないものであれば階級が違おうが上の人間であろうとも臆することなく言うことができるリース
相手にどうしてもあわせてしまう俺とは正反対の性格だがリースを連れてきて正解だった
だがそんなリースの言葉を黙って聞いているわけもないだろう
「主君に対しあまりにも無礼が過ぎるのではないかリース・オブリゲス、『勇者』ウィリアムの腰ぎんちゃくが偉そうに・・・少しは口を慎んだらどうだ」
「なんだと!!!」
リースは声を荒げて怒鳴りつけるそれにより部屋の空気が先ほどよりもより殺伐としたものに変わる
リースは椅子から立ち上がろうとするが
「待て!」
俺はリースに声をかけその次の行動を止める
あくまでも例えばの話なのだが、この場で辺境伯と敵対するとしても高齢の辺境伯や外の有象無象の衛兵はまだいい。
だが先ほどから俺たちをここに案内し、そして今現在リースを侮辱している男のことが気になっていた
そして途中で気が付いた。俺はこの男を知っている、だがこんなところにいるという話は聞いていないぞ
奴は新王派の人間だったはずだが・・・
「リース」
俺はリースの顔を見語り掛ける
「わかってる」
リースは俺の考えに気付いたのか、それとも知っていて今の行動を起こしたのか、それは今はわからず後で聞くことにするが・・・
俺とリース、そしてカラム、全員がローブを着た衛兵に目を向ける
「久方ぶりだなドレアス」
リースがそう確信したとなれば間違いない・・・!
やはりそうだったか・・・
剣王ドレアス・・・!!
俺たちと同じ剣王であり『詩唱』の二つ名を持つ
剣王位階第七位『詩唱』ドレアス・アーガイル!!
「新王派についたときていたがそれがなんで貴族派の辺境伯の所にいるんだろうな?」
それは俺も同じことを思った、
奴は新王派の人間から騎士爵をもらい、新王派の貴族としてその名の元に常に戦争では功を立てやつは領地すらもらっているほど新王派とは親しいはず・・・
それがなんで貴族派の、それも新王派のものが一切近くにいないこの領地の辺境伯の護衛なんてしているのか
「そんなことはどうでもいいしそれを説明してやる義理もない。
それよりもまずは我が主君への無礼と侮辱を謝罪し詫びることがお前のやるべきことではないのか」
「疑わしいものを疑うのは当然当たり前のことだ、そしてそれ以上に今回の王国軍の壊滅で一番得をしたのはそこの辺境伯ではないか!!」
「もし我が主君がうらぎるつもりであったなら機会いくらでもあった、先の大戦での敗退からまだ日は浅いがもし裏切るつもりなら敗戦直後に裏切っていたはずだ!!」
「そうだよな裏切れるはずもないよな・・・なんたって一番消えてほしかったウィリアムが生き残り負けるどころか白紙和平を結ぶことになったんだから裏切りたくとも裏切れないだろうな!!!」
二人の口論は次第にヒートアップしていく
そしてついに両者剣を抜くまでに至る
「ならいまここでぶっころしてやるよ!!」
「また俺の剣で敗北を味わいたいようだな九位!!!」
「よせやめろリース!!」
「ドレアス剣を収めるんだ!!!」
だが二人が剣を交える前にこの部屋の大きな窓が突然割れた、その割れたガラスの音がこの部屋に大きく響き渡る
そしてよく見ると手斧が投げ込まれておりそのせいで割れたのだろう
「何事だ!!」
と辺境伯は叫ぶとこの部屋に衛兵が扉を大きくバタンとあける
「辺境伯様!!大変にございます!!!」
「なんだ、何があった!!」
と辺境伯ではなくドレアスが衛兵にそう聞いていた、それも大きな声で
衛兵は続けた
「申し上げます!!辺境伯様のお屋敷に賊が侵入してきました!!!」
光と闇の境界線 Raymond R @RaymondRRED
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