2014年8月22日

王都を出てから数時間という位置だろうかという所で、森の中に開けた場所があった。もうすっかり遅くなったので現在はそこで火をおこし野営をしているところだ。


今日は起こした火で少し大きめのベーコンブロックを焼きそれをパンとともに食べている、デザートにはリンゴをかじりつく予定だ。


アイテムボックス・・・


古代魔導文明時代に作られた空間魔法の施されたアーティファクト


普通の魔法が付与された武器やアーティファクトとは違い、今代においては空間魔法を使えるものなど誰もいないので新しく作ることはできない。


ゆえにこれを買おうと思ったらパン一つに1ゴールドかかるこの国ではアイテムボックスのアーティファクトは100万ゴールドはするだろう。


確か今大陸中で現存してるのは百いくつか・・・とかそんな数だった気がするが


それにしてもこんなものを持たせてくれる師匠にはやっぱり頭が上がらないな


こいつのおかげで昔みたいに固くなったパンをかじったり腐った果物を食べる必要もなくなった。


ありがたいことだ。


そういえば王都ではあのくそったれ『勇者』様が民衆たちからの歓声を受けながら皆から称えられて旅だったとのことだ。


俺自身は羨ましいとでも思っているのだろうか


英雄と呼ばれる奴と違って俺を見送ってくれるものなど誰もいないし称えられることもない


それも当然だ。


任務の性質上そうするのが賢明であるからという理由もあるが


やはり奴とはやろうとしていることが明確に違うからだ。





少なくとも


周りに大量の死体があるなかで平然と飯を食っているような奴が称えられるべきではないだろう。





この大量の死体についてだが、


まあラスタフの家に届くいつもの暗殺の依頼だ。


旅する上では結局金の問題は切っても切れないものだ。であれば仕事をし稼ぐほかないだろう。


今回の依頼は最近できた新手の盗賊団の壊滅、もしくは盗賊団全員の抹殺。

そしてもう一つ


普段ならこの手の依頼は騎士団が請け負うのだが、今回は少し特殊なようで盗賊団に有力貴族の三男坊がいるのだがこの三男坊も抹殺対象だ。


貴族にとっては血族の中から盗賊を生み出してしまったとあれば名誉と威信に傷がついてしまう。


だがもしここで騎士団などを派遣してそのことが露見してしまえばその有力貴族は失脚、とまではいかないだろうが政界での立ち位置がかなり悪くなるだろう。


そこで今回はラスタフに依頼が回ってきたとまあそういうことだ。



だがそんな時遠くから人の足音が聞こえてきた。


足音を消す様子もなく、誰かを連れている様子もない、単独のようだ。


こんな死体のある中何の目的でこちらに近づいてきているかはわからないがとにかく警戒だけはしておこう。


俺は左手でパンを食いちぎると同時に懐に用意していたクナイを右手で抜き相手からは見えないように隠し持った。



「これはずいぶんと派手にやりましたね・・・この人数を相手にして全く傷を負っていないところを見るにあなた、かなりの手練れのようですね」


と一人の男が俺に語り掛けてきた。


「俺は別に手練れとかそんなんじゃないさ。正確に言えば武術も魔法も知らない素人同然の奴がほとんどだったからな。ほぼ魔力を消費することなく皆殺しにすることができた。」


と俺は返すが間髪入れずに男に質問を投げかけた


「で、お前はこんなところに何しに来た?」


男はこう返す。


「私は冒険者で王国へ帰る途中だったのですがいつのまにか夜になってしまっていたもので野営にいい場所がないか探していたところなんです。もしよろしければご一緒しても?」


「ああ、別に構わんぞ、見張りは俺がやっておくからその辺で好きに寝てくれていい。」


一見身なりは革鎧を着た普通の冒険者だが、こいつの素性がわからない以上あまり信用しないほうがいいだろう


少しカマをかけてみるか


「俺はルドルフ。ルドルフ・ジョンソンだ。よろしく」


「よろしくルドルフ。さっそくだが私も食事をとってもいいかな?」


こいつは名前を語るつもりはなく自己紹介もなしか・・・まあいい


「もちろん。一応言っておくが食事を分けるつもりはないからな」


「ええ、私も自分の分は持っているので、しかしそれにしても・・・」


男は続ける


「外での野営で柔らかいパンに新鮮なベーコンブロックとリンゴとはこれまた贅沢ですね。もしやかの有名なアイテムボックスをもっているのでは?」


「まさか、あんな高価なものぜひとも買ってみたいもんだ。いつでも好きな時に暖かくて新鮮な食い物が食えるんだ。羨ましい限りだよ」


まあ実際には持ってるんだが、こんな高価なものを持っているなんてばれたらまず間違いなく奪いにくるだろうからな。アイテムボックスを持つものはみなこうやって今の俺みたいにうそをついているのだろう。


アイテムボックスの話をそらしたいので俺は別の話題を振ることにした。


「普段はあまりこういうことをしないんだがこうして出会ったのも何かの縁だろう。これでも食ってみろ」


俺はパンをそこら辺に置いたのち左で腰のショートソードをゆっくりと抜き、それでベーコンブロックを半分に切り奴に差し出してみる。


ついでにとある香辛料もかけてもみた


「ほら、食ってみろ」


「いや、せっかくですが私は小食なもので・・・」


「なんだ、何を気にしているんだ」


俺は差し出したほうのベーコンにかじりついた。


この香辛料は失敗だったか、やっぱり辛いな


「ほら、毒なんかはいっていない。そんな干し肉1個じゃ腹も膨れないだろう。ほら」


男は観念したのか俺の差し出したベーコンブロックを持ちそれにかじりついた。


「ほお、これはおいしいですね。特にこの香辛料、"味が濃くて"おいしいですね」


辛いではなく味が濃いか・・・


「王国と帝国の国境でよくとれるエルキという”味の濃い”葉に塩をまぜただけのエルキ塩というものだ。そしてその葉には強壮作用もあることから身体強化薬やスタミナポーションの原料になったりもする」


「ほお、それは良いことを知りました、王国に戻ったら買ってみるのもいいですね」


「一袋金貨1枚、少し高くつくが塩だけの食い物に飽きたときなんかには重宝するからな」


「金貨1枚ですか・・・やはろそのような嗜好品に近い香辛料となるとたまに買うくらいしかできなさそうですね。戦争さえなければもっと安いんでしょうが」


「たく、うちの新王様はいったい何を考えているんだろうな、近頃は全く姿すら現さず二か国の侵攻にもまるで対応する気がない」


「ええ全くです。国の象徴たる王が政務すら行わず国民にも顔を見せないとなると何のための王なのか」


「そうだな、あんな奴王座から引きずりおろして傀儡でもいいから早く新しい王を見つけてほしいもんだ、お前もそう思うだろう」


「いや、王が傀儡じゃ意味ないじゃないですか」


「え?あ、それもそうか」


ハハハ


と俺と奴はくだらないことでその場が少し和むくらいには笑いあってしまった。
















「で、帝国の暗殺者が俺に何の用だ?」









「!」


油断したなバカめ、一瞬であったが俺は見逃さなかったぞ、小さくほんの少ししか顔の動作がなかったが確かに動揺している。


「帝国の暗殺者?いったい何のはな・・・」




グサ・・・



と何かが刺さる音がした。


「くっ・・・これは・・飛び道具か・・・?」


「闇の一族に伝わるクナイという飛び道具だ、これを知らない上にたった一人で俺を殺しに来たということは帝国のリュージョー家、少なくともライセルケンの使いではないな」


「ばかな、いくら飛び道具といえどこの程度の距離であれば普段ならよけられるはず・・・貴様さっきの肉に毒を入れていたか」


「なに言ってるんだ。ベーコンは俺も食ってただろう。あれに毒なんかはいっちゃいない」


俺はそう否定すると焚火のほうをを指さした


「毒煙だよ、さっきのエルキの話を覚えているか?エルキの葉は食用として知られているがエルキの真の効能はその根にある。たいていの毒には匂いが、匂いがなくとも毒が体内に入ったとき、まず間違いなくその異変にきづく。


ようは気づかれるんだ。だがこのエルキの根の毒は毒性はそこまで強くないものの煙で燻っても何の匂いも発しないし、毒で体が動かなくなるまでの初期症状がまるでない。体が動かなくなっていることにすら気づかないんだ。本当はこのの根で調合した毒薬のほうが効き目はいいんだがあいにく全部使い果たしてしまったからな」


「まて、俺が煙を吸い込んでいたということはお前もこの煙を吸い込んでいたはずだ。なぜ・・・」


「俺にはこの毒の耐性がある、それだけのことだ」


「さすがはジャック・ラスタフ、魔法、武術、隠術を極めそれだけではなく毒薬にも詳しいとはな」


「なんだ、やっぱり俺の名前知ってたのか」


暗殺者はだるそうな目で俺を見た。


「なぜ俺が帝国からの暗殺者だと分かった?」


暗殺者はそう質問してきた。


「簡単だ。一つ、普通の人間は死体だらけの場所に入っていこうとは思わない。何か目的でもなければな


二つ、これは暗殺者によくあるミスだがターゲットに対し自己紹介をしないことだ。たいていの場合はこれから殺す人間に挨拶なんかしたところで意味がないと思っているし実際に意味がない。だから暗殺者を判断するにはいい判断材料になる


三つ、エルキの塩に”味が濃い”といったことだ。王国では基本的に香辛料が足らずどこに行っても薄味のものを食べているせいで王国民はエルキの塩が辛いと感じるんだ。だがそれと反対に帝国では香辛料が豊富であるおかげで味付けが濃い料理が多い。


それゆえに普段から香辛料の使われた料理を食べている帝国民がエルキの塩を食べるとこういうんだ。”味が濃い”とな


四つ、旅の途中で俺に関わろうとする者の半分以上が暗殺者だからだ。つまり確率は二分の一いやそれ以上というわけだ。



「なるほど、私ではお前を殺すことなどできないと、そういうことか・・・」


「いや、いざ戦闘となればお前なら俺と互角以上に戦えただろう。よく手入れされた剣にその足運び、速さを生かすための大きすぎず質のみをあげた筋肉、一見見ただけではあるがお前、かなり強いな


人を殺すことにはたけているんだろう。暗殺者としては一流、だが密偵やスパイとしては二流、いや三流だな、もう少し勉強してくるんだったな」


俺は会話をやめ暗殺者の手をロープで巻いて拘束し逃げられないようにする。


「安心しろ、殺しはしない。なんで帝国がこんな不均衡なやつを送り込んできたのか気になるしな」


暗殺者はもうなにも語ることはなかった。


これから起きることが分かっているのだろう。


「明日になればこの大量の死体を片付けにうちの清掃班が到着する予定だ。その時にでもお前を連れて行ってもらおう。そのあとどうなるかは、お前次第だがな。」

















大量の死体と暗殺者一人に囲まれながらしばらく眠った俺はかすかに残る意識から日が昇りつつ朝を迎えたことを認識した。


だがまだ周囲は暗い、もう少し明るくなってから目を開けるとしよう、と思っていたのだが俺に対し語り掛けてくる声のせいで俺は目を覚ますことになってしまった。


「てめぇは相変わらず片目開けながら寝てんのかよ、言っとくがそれは睡眠とは呼ばんぞ。荷物持ちでも何でもいいから少しは従者を連れていくことを覚えたらどうだ?」


「従者なんて足手まといなんだよ、俺個人の場合は単独のほうが都合がいい・・・というか、もう少し寝かせてくれ、まだ陽が完全にのぼりきってないじゃないか」


「おい、こっちは朝一に王都から駆けつけてきてやったんだ、本当なら昼飯食ってからでもよかったんだぞ。」


「たく、うるさいなぁお前は・・・わかったよ」


俺の貴重な睡眠時間を邪魔されたことに憤りを覚えてはいるが朝早くから来てくれたことには礼を言わないとな


「来てくれたこと感謝する。そして久しぶりだなウェスター。確か二年前のカラボナシティでの作戦以来か?」


「ああ、そうだ。あの帝国での作戦では死にかけたが、お前がいたおかげで助かったようなもんだ。で・・・今回早く来てやったことで借りはは返した。これで貸し借りなしってことでいいか?」


「ふざけるな、お前ひとりを助けるために俺は100人の衛兵と戦わざるおえなかったんだ。あの時魔力を消耗してなかったら皇帝の首をとれてたかもしれないんだぞ?借りはまだまだ返してもらう・・・


と言いたいところだがここらで許してやるよ」


「すまんな」


今俺の前にいる男はウェスター・ナイルズ。同じラスタフ家の人間で今は現場の後始末や後方支援担当だが昔は帝国支部の支部長、いうなれば帝国に潜伏しているうちの諜報員のまとめ役でこいつとはその当時出会った。


本人いわくもう現場での任務はもうこりごりだということだ。


「それじゃ今回の依頼の件報告してもらおうか」


「わかった、今回のターゲットは依頼内容通り貴族の三男坊だ。だが当初盗賊団のボスは別にいると思っていたがこの貴族の三男坊が盗賊の頭だった。


会話を盗み聞く限り家督を継ぐこともできず素行も悪かったこの三男は町の荒くれどもと仲良くなりそのメンバーから盗賊団を結成したそうだ。


しかし所詮実力は町の荒くれ程度、まともに魔法を使えるのは三男だけでそれ以外を殺すことに造作もなかった。


仕事の依頼は完了した、依頼主への証拠の品はどうする?」


ウェスターが死体を確認する


「いや、特に身元が分かるものはもっていないな、仕方ない、首を切って送ろうか


ほら、今回の依頼の報酬だ。レムルス様が少し色を付けてくれたから感謝しろよ」


そうしてウェスターは俺に金貨の入った袋を投げ渡してきた


だがそれにつづけて今度は別の会話を切りだした


「あとおまえのすぐ横に倒れているそいつだが、その見た目からして同業か?」


「よくわかったな?」


「よくわかったなって・・・お前に会いに来る奴の半分以上がお前の命を狙った暗殺者だからな、なにをどうやったらそこまで暗殺者にモテるのか気になるくらいだ」


「俺だってモテたくてモテてるわけじゃない。今までが少々派手にやりすぎたからな、まあこれも業や罪のたぐいだと思って一生背負っていくさ」


だがそんなことはいいんだ問題は


「こいつから話を聞いた限り、帝国からの暗殺者のようだがあまりにも戦闘や暗殺以外の技術がなさすぎる・・・


こんなお粗末な暗殺者をあのリュージョー家が送ってくるはずもないだろう」


「リュージョー家、デネアリア帝国皇帝直轄の特殊隠密部隊か・・・」


エラリアル王国に存在する二つの闇の一族ラスタフ家とイレイザー家、この二大大家と同じ流れをくんだ一族、それがリュージョー家。


遠い昔闇の二大大家とは別に帝国に抱えられたのが始まりだといわれているが、あまり歴史には詳しくないからこのあたりの話はよく覚えていない。


だが現在のリュージョー家当主は裏の世界でもかなりのやり手として有名だ。そしてその跡継ぎ、ライセルケンもまた凄腕の暗殺者だ。


奴らとはなんども戦った。ゆえに俺との戦い方や俺の弱点などはすべて知り尽くしているはず。というかそれ以前にリュージョー家がこんなアンバランスな暗殺者を俺みたいな”でかい首”に送り付けてくるとは到底思えない。


「おそらく、リュージョー家とは別派閥なんだろう。例えば宰相が手柄欲しさに適当に送ってきた、とかな。まあ詳しいところはそいつを拷問して聞き出してくれ。得意だろ?拷問は」


「ああ。任せとけ。」


とまあ、これで話はついたかな


「じゃあ俺は魔人国に・・・」


「ちょっとまて」


ん?


「まだ何かあるのか?」


俺はウェスターの話を聞くことにする。


「ターゲットの女が魔人国から移送されたとのことだ」


「なんだって?」


たく・・・魔人国での任務のついでだと思ったのに・・・


「魔人国で、任務とその女のことも同時に片づけるつもりだったんだが・・・これじゃあ二度手間じゃないか・・・


で、どこに連れていかれたんだ?」


「カランウェの町だ」


は・・・?


「カランウェって魔人国と逆方向じゃないか、ふざけるなよくそ・・・ほかのやつには任せられないのか?」


「いや、レムルス様はお前にこの任務を担当してほしいとのことだ。残念だが諦めろ」


「はあ、わかったよいけばいいんだろいけば・・・」


そうして俺は目的地であった魔人国とは別方向のカランウェの町へ行くことになった。


たった一人の女のためにこんな・・・はぁ・・・





めんどくさ・・・

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光と闇の境界線 Raymond R @RaymondRRED

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