次の目的地

俺たちは静かにこの王都を出ようとしていた。


だがそんな俺たちの行動とは正反対に王都の民たちは大通りが人で埋まってしまうほどの人数が集まっておりそしてまっすぐ俺たちの通る道をあけ両サイドにいる民から声援を受けながら王都を出た。


町中からの期待と声援を受けた俺たちは現在


王国南部にミザリスの町の宿屋で次に向かうべき場所について話し合っていた。


本当なら王都を出る前に決めておくべきだったが、俺とリースで意見が別れてしまったのだ。


俺は各地で起こる魔獣被害を抑えるために魔獣が最も活発になっている南西部へ向かおう思ったのだが副官のリースが南東部にあるワール辺境領へ行くべきだと言ったのだ。


まあ結局のところその両方へいくには


ミザリスの町を通らなければならないので


そこで次の目的地を決めよう、ということになった。


部屋に集まった俺たちは地図と任務の資料を机の中心におき話し合っていた。


そして俺はかねてから気になっていた理由を


リースに尋ねた。


「俺は南西部エドル地方の魔獣に対処したほうがいいと思うんだがお前がワール辺境領に行きたがっているのは前の戦争でのことが気になっているのか?」


「気になるだと?あの戦いでは大勢が死んだ。だからこそその元凶となった理由を知りたいと思うのはそんなにおかしいことじゃないだろう?」


先の西側聖国戦線での戦い


5千対3万という圧倒的劣勢に立たせられながらもなんとか奇跡的に勝利を得たが生存者はたったの35人というあまりにも悲惨な戦いであったあの出来事


普通戦争が起きるとなれば敵と同等の戦力を用意するのが普通だが・・・


「俺たちは国の上層部から今年は西からの聖国の侵攻はないという情報を受け取っていたからあの時は国境の防衛に当たれる人数しか配置してなかった。


だが実際には聖国は攻めてきたんだ!その情報はどこから来たか?ワール辺境伯だ・・・」


俺たちは、というよりかは西側聖国戦線作戦本部の貴族派の人間たちがワール辺境伯からの情報を信じた末のあの結末だ


「ああ、もちろん知っているさ。実際に軍議の場にいたからな。それに辺境領の良くないうわさも知っている・・・」


ワール辺境領この地は王国、帝国、聖国のそれぞれの国に唯一隣接しており他国との諜報合戦が行われていると昔からよく言われているが実際に事実なのだ


そして他国からの工作員を許してはや数十年


誰かが対策をしようとも誰も成果が出せず


運が悪ければ調査員が死ぬことすらあった。そのせいで結局あそこの実態は解明できていないが、俺が裏の情報筋から聞いた話では他国の工作員が今でも活動を続けているそうだ。


それも王国が敵としてはなく、他の国の工作員同士が争っている状態ですらあると。その男いわく、いわばこの場所はスパイ天国...それが数十年も放置されているとなると王国の内情がどれだけ知られたのか


「それでも作戦本部が情報を信じたのはワール辺境伯が作戦本部の人間たちと同じ貴族派だったからだ。最近派閥争いは過激になっては来ているが同じ派閥同士なら


うその情報を流したりお互いの足を引っ張りあったりしないと彼ら思ったんだろう・・・派閥に属していない俺ですらそう思った。」


「でも私たちは裏切られた・・・そう思うのはわかるけど辺境伯がわざとうその情報を流したという証拠もない以上どうしようもないわ。


でもそれでもリースが辺境領に行きたいのは間違った情報を流した人間に復讐したいからからなんじゃないの?」


とカラムがリースに聞く。


「お前たちはあの時何が起きて、誰が裏切ったのか知りたくはないのか?」


「リース。気持ちはわかるが辺境伯が間違った情報を流したという証拠はないし彼もミスを犯しただけだったかもしれない。


あの戦争はもう終わったんだ、いまはこれから死人が出るであろうエドル地方の魔獣被害に対処したほうがいいとは思うが・・・」


「ウィリアム・・・頼む・・・」


リースが俺の腕を掴み懇願してきた・・・


はぁ・・・


リースは割と頑固なところがあるしおそらくこのままエドル地方に行ってもチームワークが良くないまま任務に赴くのは良くない


それにおれもリースと同じ気持ちであることも間違いはない


だとすれば魔獣被害のほうを後回しにする必要があるがあっちには少なからず冒険者がいるが、辺境領のほうは特に誰かが調べているわけでもない、おそらく俺達が行かない限り先の大戦での事実が明らかになることはないだろう


「わかった・・・まずはワール辺境領にいこう


ただし・・」


俺は続ける


「調査してなにもなかったのなら、その次はエドル地方へ向かう、いいな?」


「ああ、もちろんだ、すまないわがままを言ってしまって」


とリースが謝る


「今に始まったことじゃないだろう、それにお前には何度も助けられてきたからな」


「ね、ちょっと待って魔獣被害のほうを後回しにしてしまっていいの?」


カラムが質問をしてきたが当然か


「カラム、あっちは死人が出ているが冒険者がまだ何人も残ってるんだ、俺たちがいれば素早く問題が解決するだろうが辺境領に関しては誰かが調査をしているわけではない


それに辺境伯にも良からぬうわさがあるからな、もしそうなら調査すべきだ。だがそれが終わったらすぐにでもエドル地方に向かうつもりだ」


「そう、まあリーダーはあなただから、あなたの判断に従うわ」


そういうカラムに俺はうなずき返し


別の話題に移ることにした。


「お前たちに一つ伝えておくことがある。特にカラムはなにもしらないだろうからな」


「まさかあの公爵・・・!でも誰も帰ってこれないかもしれないあの魔帝国行きの任務だぞ!?」


「え、二人してなに・・・!?一体何があったの・・・」


俺とリースのやり取りをみてカラムが困惑する


本当に伝えづらいがこれから長旅をする以上話す以外ないだろう


「基本的にこのような、特に緊急を要する重要な任務の場合多額の支援金が支給されることになっている。話はその支援金のことなんだが・・・」


基本資金のいるような任務や特に重要な任務などでは国から(というか派閥からだが・・・)支援金が出ることになっている。


遠くへの遠征などであれば旅費や食費、現地では活動資金に使われ他組織に仕事を頼んだり賄賂を贈るためのものなのだが。


今回のような任務であるのならほとんどの場合が最低限。旅費になる程度はもらえるはずなのだが


「今回の任務・・・国からの支援金はいっさい支給されない」


「え?てことは旅費は自腹で払えってことなの!?」


「おい、そんなにひどいのか?」


カラムが驚きリースが俺に疑問を投げかけてくる。


「ああ・・・」


と俺はリースに対しそう答える。


「まって、リースはさっきから何の話をしてるの?」


少しリースが違う話をしていることにカラムは困惑する。


「ああ、すまん。カラムは何も知らなかったんだな。まあウィリアムは派閥外の人間だが公爵一番のお気に入りってのもあるし俺は貴族派・闇の一族両派閥に深い関係を持ってるから俺たち二人は知っている話なんだが・・・ウィリアム、説明してやれ」


リースは俺に説明を求めてきた。


まあ、俺のほうが詳しいのも事実だ


「カラム、だいたい任務の支援金は派閥から出ていることは知っているな?」


「そんなのほとんどの人が気づいてるわよ。それで?」






「貴族派は現在財政難に陥っていて派閥内の内部抗争も激化している・・・公爵様曰く『内部分裂一歩手前』だそうだ」






「うそでしょ・・・」


ここ最近の国内の情勢悪化により派閥争いが激化した、と多くのものはそう思っているらしいがそうではなく、エラリアル王国は数十年前に新王が王座を得た日からその当時存在していた派閥の新王派・貴族派・闇の一族はそれぞれの派閥同士がいがみあい


国内がまとまっていたことなどほぼないに等しい。しかしそんな状態であってもなお数十年の間エラリアル王国は国としてまともに機能しており、そこには二つの理由があった。


一つは貴族派・闇の一族の両派閥のトップが有能であったことだ。俺たちに任務を下した俺の恩人でもある貴族派のリーダー、マエストロ公爵。そして大陸最強、王国の英雄とも称された闇の一族のリーダー、『龍帝』レムルス・ラスタフ


公爵様が国内の大部分の内政を取り仕切り、レムルス様が国防・防諜を司り戦場では他国の侵攻を退けることで王不在のいがみあった派閥同士しか存在しないこの国が安定してしまった理由の一つ。


そしてもう一つは古くからエアリアル王国に影響力を持つカイザー家の当主となった『聖帝』シリウス・カイザーが『愛国派』という新たな派閥をおこしたことだ。


内輪もめで荒れていた王国騎士団内をまとめることに成功した当時騎士団長のシリウス様がカイザー家当主を引き継ぐとともに各派閥に属さない貴族や有力者、そして国内のまとまらない現状に不信感を持っていたものらを束ね


新たな派閥を生みだすのと同時にそれぞれ三つの派閥を間の関係を取り持つ懸け橋となり、国内の派閥同士の争いはシリウス様によってなくなりつつあったのだ。


しかしそのシリウス様も今はなく、派閥争いもどんどんと激化しておりなおかつ長年の敵国の侵攻により国自体が財政難に陥いっており、そして国を支えていた最大の功労者王国の英雄レムルス様もすでに高齢でありいつ死んでもおかしくない。


皆不安に思いいらだっているのだ。そしてその不安は貴族派派閥内でも派閥ができマエストロ公爵がいることでなんとか纏めることができているのだがもし公爵様がいなくなれば貴族派は分裂し影響力を失う。



「だが安心してくれ、公爵様さえ生きていれば派閥が分裂することはないだろう」


「生きてさえいれば、な・・・」


とリースがそう言う。


「まあ、今はこの話はいいんだ。したところでどうにかなる問題じゃないしな。話を戻すぞ」


少し脱線した話題を元に戻す。


「貴族派からの支援金は全くないが、公爵様から仕事はもらっている。各町で仕事が用意されている・・・というか、今は人手がいないから仕事はどこにいってもあるらしい


それとその町の問題を一つ解決することに依頼主からの報酬もでるかもということだから、それを旅費と活動費に充てていこう。」


「それまでは自腹か・・・」


「私は問題ないけども・・・」


二人とも少し気を悪くしたようだが仕方がない


「すまないな二人とも・・・まあワール辺境領につくまでまだかかるだろう。それまでは宿代は俺が出すよ」


「まじか!ありがとうジャック!やっぱり持つべきものは友だよなぁ」


「うれしいけどお金は大丈夫なの?」


カラムがちょっと心配してくれている。


「いいんだ、どうせ仕事をすれば稼げるしな」


「そうならいいんだけど」


とカラムが少し元気を取り戻したのか少しだけ微笑んでそういった。


二人を元気づけられたのなら宿代をおっごて正解だったな。


この先辛い旅が始まる。だが今だけは気楽な旅を楽しんでもいいだろう。


少なくとも二人には・・・

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