二人の仲間
魔帝討伐の任を受けた俺はすぐさま出発したい気持ちでいっぱいだったが今はもう昼時であったので明日王都を出ることにした。
本来この手の重大な任務には一週間、少なくとも数日は長たらしい謁見での説明や式典を行うのが国の定石なのだが、
もうそんなくだらないことをしている場合ではないのだ。
今、この一瞬を無駄にすればするほど、多くの人が死ぬことになるのだから。
だから俺は急ぐことにした。
旅立つ前、俺は王国騎士団本部に立ち寄った。
三つの手を取り合うエラリアル王国騎士団の紋章が描かれている騎士団本部だがここで俺たち、第12小隊に割り当てられた区画に来た。
「来たかウィリアム」
区画を遮る門を開けてすぐに俺に向かって声をかけてきた。
「リースか、きてくれたんだな」
「当然だ。任務の性質上全員というわけにはいかないが
なにがあろうとも、俺はお前についていく」
リース・オブリゲス、小隊結成以前からの戦友であり、今では第12小隊の副隊長でもあるが、それ以外にも
リースを含め2人が
この場に集まっていた。
「カラム…ほんとにいいんだね?」
「私は…あなたのためなら、命も家も惜しくはない」
彼女はカラム・ウェルナー
ウェルナー公爵家の唯一の跡取りだ。
ゆえに今回の任務に連れて行くのには抵抗がある。が、このさき彼女の力は間違いなく必要になってくる。ウェルナー公爵には悪いが使えるものはすべて使わねば勝てるものも勝てないだろう
「みんな、来てくれたことに感謝する」
「まずは兵舎に入ろう、話はそれからだ。」
俺たち四人は兵舎の扉を開け中に入ることにした。
まず見えたのが玄関と食堂が併設された広場にいる隊員たち、みな俺を見るやいなや立ち上がり全員一斉に敬礼して出迎えてくれた。
「おかえりなさい隊長!」
大きな広場にいる”数人の隊員達”がそう言った。
「ああ、今戻った。みんなの様子はどうだ?」
俺は隊員の一人にたいして質問するが・・・やはりというべきか暗い顔をしながら沈黙した。
それも当然か・・・
そしてついに隊員が沈黙を破りこう答えた。
「皆長期休暇をもらい体を休めてはいるものの・・・やはり先の戦争で失った仲間のことを思うとどうしても・・・」
隊員はいまにも泣き出しそうな勢いだった。そういう俺も唇をかみしめ涙を流すのを我慢していた。悲しみを感じると同時に力のない己に対し怒りもこみあげ絶望していた。
「ウィリアム」
唇をかみしめた俺に対しリースが語り掛けてくる。
「お前ひとりのせいじゃない、というか、あの劣勢で勝てたことすら奇跡だったんだ。お前が悪いわけじゃないんだ。」
「だが・・・それでも・・・!」
俺を含む指揮官および精鋭含め300人で編成された第12小隊
常に前線の突撃を担い多くの功を勝ち取ってきた俺たちだったが、
先の西側聖国戦線での防衛戦では5千対3万という圧倒的劣勢な状況で戦に臨んむことになった。
俺たち12小隊はいつものように前線を担い真っ先に敵に突撃し、他の部隊も俺たちに続いたのだが俺たち12小隊以外は圧倒的な数に耐えられず一瞬で壊滅、そのまま本陣に突撃され将軍を含めた
西側聖国戦線作戦本部も壊滅し、残ったのは俺たち第12小隊だけになった。このままでは負けると思った俺は敵の第二陣を突破し敵大将の首をはねとばしたのち、退却もできないので、そのまま聖国領へ逆進行し聖国軍の拠点となっている軍事都市を制圧。その都市の支配を行っていた上級貴族を誘拐。
その後敵軍に補足されないように奴らを迂回してから王国に帰還したのち捕まえた上級貴族を使って停戦交渉行い、何とか2年の停戦協定を得ることができたのだった。
勝つには勝った。だがこの戦争で俺たち以外は全員死に、生き残ったのは第12小隊でも俺、リース、カラム、3人を含めたった35人だけだったのだ。
「ウィリアム、あなたがそんな顔することはないわ、もしあなたがいなかったら王国は負けていた。それどころか王国は滅亡していた!
あなたがこの国を、民を、私たちを救ってくれたんだよ、だからこそ感謝はすれど責めようなんて誰も思ってないわ。少なくとも生き残った35人全員ね。」
「その通りだ。王国を、この国を救ってくれたこと礼を言う。ありがとうウィリアム。」
カラムとリースがそういってくれた。
「そうだな、ありがとう・・・」
二人がこう言ってくれているのだ。
口では感謝を伝えた。
だが俺自身納得できるはずもなかった。俺が265人を助けられなかったことには変わりなかったのだから。
そしてこの戦争で小隊のほとんどを全滅させてしまったのも俺が魔帝討伐を押し付けられた原因でもあるのだ。
しかし、今はそれを考えている時ではない。
「二人とも、俺の部屋に来てくれ、今回の任務について説明する。」
俺たち三人は俺の部屋、いわば簡易的な応接室に集まり俺が座ったのをみて二人は対面のソファーに座った。
「さて、おおまかな内容は聞いているな」
「ああ、魔帝だろ」
「少し話は聞いたけど私たちが知っているのはあなたが魔帝討伐の任をうけたことだけよ。」
「ああ、二人とも間違いじゃない。ただ俺たちにはそれ以外にもやるべきことがある。」
俺は空間魔法のアーティファクトを使い中に入れていた今回の任務の詳細が書かれた依頼書を出した。依頼書は一枚だけではなく十枚ほどだ。
「なるほど・・・こりゃ大量に押し付けられたな」
「魔帝討伐だけじゃなくほかにもこんなに・・・」
依頼書を読んだ二人が俺たちに任された大量の任務に愚痴をこぼし絶句する。
「全部やる必要はない。いや、俺たちだけじゃどうやったって無理だ。
まあ、その話はあとだ。まずは簡単に説明するからよく聞いてくれ」
俺は今回の任務のおおまかな内容について話し始める。
「まず最初に、半年後に行われる魔帝国侵攻作戦にて周辺領域を制圧し俺たち三人が魔帝国へ侵入し魔帝を討伐する。これが第一目標だ。」
「ちょっとまて」
リースが俺の話に待ったをかける。
「西側聖国戦線であれだけの死傷者が出たのにたった半年で魔帝国に侵攻するだって?魔物がほぼ無限に湧いてくるあの国に侵攻できる兵力なんてもうほとんど残ってないんだぞ?」
「そうだ、今のままでは戦力が足りない。ゆえに各地の問題の対応に当たっている予備兵力を集める必要がある。しかしそれには・・・」
「各地の問題を解決する必要がある・・・それがこの大量の依頼書ね・・・」
「その通りだ、だが半年でこれらすべてを解決することはできないから、公爵様からはどの問題を解決しどの問題を放置するかは俺自身が決めていいと言われた。これで二つ。そして最後に・・・」
俺は十枚の依頼書の中から一枚を取り出し二人にそれを見せる。
「エラリアル王国騎士団長 剣王序列第4位『聖帝』シリウス・カイザー捜索依頼書・・・」
カラムがそう読み上げる。
「公爵様からは他にも捜索して欲しい人物がいるといわれてはいるがそのほとんどは見つかる見込みはないだろう。だから俺は行方不明者の捜索にはシリウス様だけを限定して探そうと思う。」
「騎士団長さえ戻れば王国は、少なくとも騎士団は一つにまとまるだろう。あの人がいなくなってからは騎士団内の各派閥の対立が激化したからな・・・」
「そうだな、だが騎士団長に至っても、その消息は全くつかめていない。ゆく先々で聞き込みや情報収集をしていこう。」
俺はいったん話を区切る。
「今回の任務は主に三つだ。出立は明日の朝、最初の行き先ももうすでに決めてある。あとは・・・最後にもう一度だけ聞かせてほしい。」
俺は二人に問いかける。
「魔帝国にはいって出てきたものはいない。今回の任務で俺たちは間違いなく死ぬだろう・・・
断るなら今のうちだ。それでも・・・俺についてくるか?」
できることなら二人にはついてきてほしい。俺一人だと心細いからだ。
だが同時に二人には生きていてほしい。だから俺についてこずにここに残ってほしいという思いもある。
二つの相反した考えを持った今の俺は、いったいどんな顔をしているのだろうか
そう悩んでいた俺に二人はこう言ってくれた。
「行くにきまってるだろ。仮に死ぬとしても。俺はお前とともに死んでやるさ」
「私も・・・あなたのいない世界で生きていたくないわ・・・だからあなたについていく、何を言われようとも絶対についていくよ」
二人とも覚悟を決めたようだ。
「二人とも・・・わかった、もう何も言わない。明日は早いから今日一日はゆっくり休んでくれ。会議はここでおひらきにしよう。そして二人とも・・・」
「俺についてきてくれること、感謝する。
ありがとう」
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