式典

家を出た後、俺は大任の任命式のために王城まで赴き式典に参加した。


今回の任務は通常の任務とは違い達成することの難しさとそれをなした時に得る栄誉のデカさゆえに、今回は国が大々的に式典を行ったのだ。


しかしその式典は形式的にしか行われず、そなたに大任を任せる・・・と、公爵様がそれだけを言い式典は終了した。


あまりにもおかしな状況なのだ。本来なら式典というものはもっと時間をかけて行うものだが、ここ最近というか・・・もう長い間ずっとこんな簡素な感じで式典は終わらせているのだが


それも当然だ。


 


 


 


なぜならこの国に絶対的に必要な存在である国王が姿を現さないのだから・・・


 


 


式典が終わり


形式的ではありつつもそれに参加していた貴族や官僚が退出した後に俺も


玉座の間から出たが、少しばかり歩き続けた後、


「ウィリアム様、公爵がお呼びです」


と公爵様の執事の一人であろうものに呼び止められた。


「わかった、すぐ行く。」


そうして俺は公爵の部屋に赴きすぐさま部屋に通されたのだった。


そして部屋に入るや否や


「公爵様、先ほどの式典、あれは一体どういうことですか?」


とすぐさま聞いてしまった。


本来なら式典というものは王が進めるものだが今回は公爵様及び公爵様の派閥のものだけで行われた。そしてそれがただの前座かのように一瞬で終わった。式典はあくまでおまけ、詳細な説明はここでと、そういうことなのだろう。


「すまんなウィリアム。今回の話の一部は新王派閥の人間や他の者の前でするわけにはいかなかったのだ。先ほどの式典は形だけということになったがここで詳細を説明するため許せ」


「構いません。俺は新王様より公爵様に恩がありますから、それも返しきれないほどの」


「そう言ってくれると助かる」


と公爵様はそう言った。


 


この国には大まかに分けて現在四つの勢力が存在している。


10年前新たにこの国の王になった新王が率いる新王派、公爵様が大半の貴族や旧王族たちを率いる公爵派、英雄レムルス様排出したラスタフ家・イレイザー家の二大大家が連なる闇の一族、そしてエラリアル王国騎士団の騎士団長でありカイザー公爵家現当主でもあるシリウス・カイザー率いる愛国派。


各勢力の割合は2(新王派):4(公爵派):3(闇の一族):1(愛国派)とこのようになるだろう。


割合を見ればわかるが、


この国の国王である新王に実権はほとんどないのだ。


 


そして恐らく…


「今回の任務は公爵派の立案なのですか?」


少し間を置いた後公爵が言った。


「本当ならばここで話をぼかすべきなのであろうが君に嘘はつきたくないし、私は君に期待している。なので正直に言おう。その通りだ。」


王国における象徴たる王がのけ者にされ臣下である貴族が国を動かすなど普通ならありえない話だ。


だが


「ここ数年魔帝国が活発になり数十年ぶりに姿を現した魔帝が恐ろしく強く、現在剣王や魔帝国討伐軍がやっとの思いで足止めをしている状況だ。


なおかつ例年通り大国の侵略戦争で各地に戦力を均等に配分するだけで手いっぱいなのだ。王国は今苦境に立たされている…にもかかわらず!新王は対策しようともせずそれどころか我らの前に顔すら見せなくなったではないか、かつて天才とも呼ばれたもののはずなのだがこれではただの愚王ではないか!!」


公爵が怒りにまかせて机をたたく。


当たり前だ、10年前、この国で圧制を敷いていた当時の王族支配からの解放戦争で勝利を収め、エラリアル王国の国王となった新王。


しかししばらくするうちに新王は行方をくらませてしまったのだ。


側近の者たちからの話によれば、体調がすぐれないことや政務で忙しいという理由で姿を現さないみたいだが、あきらかに不自然すぎる。なかにはもう死んでいて裏で誰かが実権を握っているとも言われているが真相はいまでもわかっていない。


 


そんな公爵だが少し時間を置き冷静になったところで先ほどの行為を謝罪した。


「すまないウィリアム、だが王国は今それほど切羽詰まっているということだ。」


「いえ、構いません。俺も最近うすうす感じていたことですから。いや、俺のみならず民ですらも」


今までなら各国との戦争で東西に軍を配備し南方面に闇の一族たちをあたらせ王国内に小さく存在する魔帝国領へ討伐軍を送るだけでよかった。これを王国は70年続けていたのだ


だがそれは一人の台頭によってその均衡が潰え始めた。


魔帝国を治める魔帝本人が100年前の建国以来とうとう表舞台に出てきたのだ。


当初は剣王数人を派遣すれば何とかなるだろうと思っていたのだろう。なにせこの国は武闘国家といわれるほどいくつもの戦争を勝ち抜き、数多の屈強な魔戦士を生み出してきたのだ。


そんな魔戦士たちの中でも最強とうたわれる十代剣王。十人の称号を持つ魔戦士でありこの国で持てる最高の栄誉だ。


そんな十代剣王のうちの4人もの人数を魔帝国討伐軍に送り込んだのだ。王国の人間は王国最強の魔戦士、それを4人も送り出すのだから絶対に負けないだろうと誰もがそう思っていた。だがこの時、この世界に絶対などないことを思い知ったであろう。


王国に届いた第一報は魔帝国討伐軍の敗北、剣王の三人の死亡、そして将軍として全体の指揮をしていたエラリアル王国騎士団長であり剣王序列第4位の『聖帝』シリウス・カイザーが敗走後行方不明になったというものであった。


「剣王が実質四人もいなくなりただでさえ戦力が足らんのだ…ここで病などと言って隠居したラスタフの当主が出てきてくれれば話は別なのだが、あの男も何故か最近では滅多に表舞台には出てこん。それ以前に、私は病がどうこうという話すら疑わしく思っているのだがな」


公爵は現状の焦りをあらわにしていたがいったん冷静になりつつ話を続ける。


「帝国最強の盾であり最後の要であるコーネルを動かすことも考えたがあの男は大国の侵攻を受けている東部と西部の戦線、その両方で将軍として軍を指揮するために東から西を行ったり来たりしている。本来の王国宮廷魔術師団の筆頭としての役割すら果たせなくなっている。あまりにも人手が、いや…実力あるものの人数が足らんのだ…


すまないウィリアム、だがもうお前しかいないのだ…」


ウィリアムは深く考える、そして公爵に問いかけた。


「俺に死ねと…そう言うんですね?」


 


約100年もの間被害をもたらす魔帝国に対し王国はもちろんなにもしていないわけではなかった。多くのものが魔帝討伐を目指し魔帝国入りしたのだ。今までの歴史上、魔帝国軍の戦線を破り、魔帝国へと侵入した記録はいくつか残っていたのだが…


誰一人…帰ってくることはなかった…


その当時最強と言われたものでさえ


誰も魔帝国から出てくることはなかったのだ。


だが魔帝国への侵入は容易ではなく常に周りが結界が張られており、その結界の周りには魔獣や魔物が徘徊する暗き森があり簡単には入れないのだ。


それ故に魔帝国の内情を知ることすらできず、魔帝国入りしたものが生きているのか死んでいるのかも確認することができなかった。


「ああ、失敗すればお主も死ぬことになるかもしれん、だがここで魔帝を倒さなければ、王国は間違えなく滅ぶ…それを防ぐべく用意した最終手段もあともう少しで準備は整うのだがこれはあくまでも最終手段…これを実行に移せば今後数百年は王国は衰退、下手をすれば王国そのものがなくなるかもしれないが、魔帝国に侵略され、虐殺と侵略を待つよりかは幾分かましだ…」


そういって公爵は悲壮な顔で俺を見た。


そして最後の頼みの綱にしがみつくように、公爵は真剣な顔で心の底から俺に訴えかかてきた。


「ウィリアム、魔帝討伐の任、改めてお願いしたい…


王国のために…


世界のために…


そして民のために…


その命を懸けてはくれぬか…」


公爵はそうやって俺に頼み込んできたのだが、もちろん俺の答えは決まっている。


王国はギリギリ国としての均衡を保っている。


それを保つためにありとあらゆる策と労力を費やしているが、それ以上のことをする余力はないのだ。このままでは大国に蹂躙されるのが先か、魔帝国に虐殺されるのが先か…


そのどちらかしかないのだろう。王国の危機の片方である大国は多くの民、それをまとめる貴族、それらの上に立つ王がおり一人を暗殺しようが何も変わらない、ゆえに戦争で勝つか、工作員を送り込んで混乱させるかだが、こちらはあまりにも非現実的だしすぐに解決など不可能だ。


そしてもう片方の魔帝国、こちらも同様だろうと思うが少し違う。


魔帝国の強みは国を守る結界と圧倒的な強さを持つ魔帝、つまり魔帝さえ倒せばいいのだ。


片や大国を滅ぼすか、片や圧倒的な力を持つ一人を倒すか…


どちらか為さねばならない、


そしてそれがどれだけ困難であろうとも俺は…


王国と国民のために戦う。


「その話、改めて受けさせてもらいます。」


そういう俺の顔を見て一瞬安心した表情を見せたが、すぐに公爵は申し訳なさそうな顔をした。


「すまないウィリアム…そしてありがとう…」


公爵はまだ申し訳なさそうな顔をしているが、俺にとってはそんな心配や罪悪感など無用だ。俺は公爵にむかってこう言った。


「公爵、あなたはきっと私に困難な任務を与えたことに罪悪感をもっているのでしょうが、それは違う。俺は、死ぬつもりはありません。どんなに困難であろうとも、乗り越えて見せます。」


俺はそう宣言した。


「ありがとう…」


公爵は感謝の言葉を述べただけで次の話、任務の詳細について話を始めた。


もう俺に向かって言い訳やお願い、それに謝罪なんかもする必要がないと理解してくれたのだろう。


「半年後、魔帝国に対し大規模な一斉攻撃を仕掛ける、そのためには先の戦争で失った戦力の補充をせねばならない。君に頼みたいのは戦力の分散の原因になっている各地の問題を解決し半年後のための戦力を確保すること。


新たな人材及び行方不明の強者の探索、そしてかき集めた戦力とともに半年後の大規模攻勢に参加し少数精鋭で魔帝国に侵入し魔帝の討伐、君にやってもらいたいのはこの三つだ。」


大まかな目的はわかった。


だが…


「半年ですか…」


エラリアル王国は大国とまではいかないがそれなりの領土を持つ国だ。


そんな王国では多くの問題が起きている。


実力あるものの不足により脅威度の高い魔獣や稀にみる犯罪を犯した強者の対処ができていなかったり、


他国の工作員の潜入による奴隷狩りや内乱の扇動、他国に様々な情報を売り渡したという疑惑を持たれている力のある辺境の伯爵家、時々どこからともなく現れる魔帝国人による村や町の襲撃事件、大陸ほぼすべての主教と言われるレアンドロ教団の腐敗・・・


そんな多くの問題をたった半年で片づけることなど不可能なのだ。


なら優先順位をつければいいとそう思うのだが


この話の厄介な所は今あげたどの問題も真っ先にやるべき、早急に解決しなければいけないものばかりであった。


「半年でこれらすべての問題を片づけるなど不可能だろう。


なので、これらのどの問題を解決するのかは君にまかせる」


時間がない故すべてを解決することはできない、つまり…


「どの問題を解決してどの問題を放置するのか、誰を助け誰を見捨てるかは自分で選べと、そういうのですね…」


「ああ、もはやどれも重要故選ぼうとも選ばずとも意味はない。


君に死ねという以上、今回の件すべて君にまかせる」


「…わかりました」


「うむ、そしてもう一つ」


行方不明の強者の探索、だがおそらくはあの人のことだろう。


「騎士団長の捜索、ですね…」


エラリアル王国騎士団長シリウス・カイザー、彼は魔帝に敗北したものの、統率力や他者からの人望、若くしてカイザー公爵家の当主として、かたや王国騎士団の長として今までやってきたシリウス様のカリスマ性。


シリウス様さえ戻れば崩壊寸前の王国を立て直すことが容易になるだろう。


だがシリウス様を探す目的は他にもある。


「魔帝を目の前にし、その実力の一部を知りつつも魔帝から逃げ延びることができたたった一人の生き証人、奴さえ見つければ弱点とまでは言わずとも、数少ない魔帝の情報を知ることができるだろう。行方不明者の探索はシリウスを最優先で探してくれ、


他の奴に関してだが情報が少なく見つかる可能性はほぼ皆無ではあるだろうが…リストを用意した。そのリストの情報をもとに探索をしてほしい」


公爵からリストを受け取る。


ある程度量があるので…これは後で目を通すとして、


「任務の件はわかりました。ですが一つだけ聞きたいことがあります。」


「なんだ?」


俺が聞きたいこと、それは今回の任務を受けるのは俺一人ではないと、そう義理の祖母に聞いたからだ。


「俺のほかにこの任務受ける者がいると、祖母からそう聞いたのですが…」


「ふむ」


公爵は秘密にすることなく、そのまま話をつづけた。


「そうだな、あの男のことについても、ウィリアムになら話すとしようか」

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