2014年 8月17日
正義といえば人は何というのだろうか
それは他国の侵略から国を守る騎士
知恵と算術を用いて人が必要とするものを流通させることで国を栄えさせた商人
国に存在するすべてのものを用いて国に善政をひく政治家
それらのことを人は正義と呼ぶのだろう。
だが俺に言わせれば
絶対的な正義などこの世には存在しない。
他国に生きる者も必死で生きており家族や部下、臣民を養わせるために他国から土地を奪う必要があるのだろうが、そんな養わせるものがいる…大切なものがいる誰かを殺すのが騎士。
資産や人、自分の命ですら簡単に奪われるこの世界を生き抜くために人をあの手この手で騙し、そのものが必死で稼いだ金をむしり取るのが商人。
偉人たちが築き上げてきた国家をより長く生きながらえさせるために搾取しやすい弱きもの、力を持たないものたちから最低限のもの以外を奪いそれらを軍費にあて国を守る政治家
どれだけ清く優しく、正義に生きようとしても誰かから奪わないと生きていけない。
俺も昔は正義に生きようと、あこがれた英雄のように生きようと思っていたのだが、多くの戦場を見てきたせいでそんな考えはとうの昔に消えてしまった。
どの国に住もうとも常に戦争という恐怖に脅かされているというのも、俺がこうなった理由でもあるのだろう。
俺が住むこのエラリアル王国は80年も前から他の国々と戦争をしていたが、今ではデネアリア帝国とエミア聖国の二つの大国にほとんどの国が吸収、または属国化され、東西を大国に挟まれながらも王国は属国化を免れた数少ない国家なのだ。
正確には守り通したというほうがいいのだろう。
そしてこれからも守る為の戦いが続くだろう。
そしていまも、その戦いが続いている。
「報告します」
敵将の一人を殺し、物思いにふけっていた俺のもとに
伝令が話を続ける。
「敵将の敗走により右翼戦線は崩壊し右翼の全隊は中央の敵の殲滅を開始、勝利までは時間の問題かと」
「ああ、よくやった。こっちもついさっき敵将を倒したところだ、そろそろ中央の瓦解が始まると思うんだが…」
「ですが敵が…」
「まるで引く気配が全くないな」
馬鹿共め、右翼の戦線が崩壊したあたりで引けばいいものを、勝敗はすでに決している。
だが奴らが引かないのは…
左翼戦線の奥側にいるあいつか。
ジョージ・レオナルト将軍
現在戦争中であるデネアリア帝国において名のある名将、そして実績もあり部下からの信頼も厚い。そんな男が左翼全体を鼓舞して回っているせいであと一歩のところで戦争が終わらない。
「まったく…今引けば死人も減らせるだろうに」
ただ奴さえ消えればあとは烏合の衆、そうなるのに時間はかからないだろう。
となればやることは一つ
俺は駆け足で戦場をかいくぐり、敵側では唯一軍馬にまたがり味方を鼓舞するレオナルト将軍のもとに向かうことにした。
「誇り高きデネアリアの兵士たちよ!!戦え!勝つのだ!我らにはもはや負けることすら許されぬ!お前たちの背にはこのジョージ・レオナルトがついているぞ!」
将軍に鼓舞され士気を持ち直した敵兵士たちともう少しで接敵しようとしている。
そしてその後ろにはまだ多くの兵士が将軍を守って敵の攻撃を待ち構えている。
普段の俺ならこれを突破するのにはかなり時間をかけるだろう。だが今残る主力は奴だけだ。
ゆえに、狙うは短期決戦。
のこる魔力をすべて、奴を殺すためだけに使う!
「死神だ!死神がきたぞ!!」
そういうと兵士たちは俺に向かって走り出した。
その数は10、20…
今見えるだけでそれくらいか。
そう雄叫びをあげながら向かってくるところ悪いが俺はお前らに用はない。
俺は体内に魔力を貯めながら走った。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
一番に俺に向かい、
槍を持った敵兵士が一歩、また一歩と進むと同時に、俺が槍に貫かれて死ぬ未来が近づいていた。
そしてついに
俺の頭の目の前に槍があり誰もが俺を殺せると、そう思っていたのだろう。
だが…
「なに!すり抜k…!」
すり抜けたのだ。
残念だったな
闇魔法・死霊術(霊体化)
この世ではない異界に己の実体を送り、こちらでは実体を形どった霊体となってこの世に具現化する魔法だ。まあ要するに発動中は物理攻撃は効かないわけだ。もっと詳しく説明することもできるが今はこれくらいでいいだろう。
俺はすれ違いざまに一番に向かってきた兵士の首を切り落とし
何も手にしていない左手で
ポーチにあった爆弾を
切り落とした首の口の中に器用に突っこみ、それを将軍に向かって
投げた
多くの人間がなにがおきたのかわからなかっただろう。
ただ頭のおかしい奴がなぜか頭を投げつけてきたと、そう感じているだろう、しかしその頭に爆弾が仕掛けられているとは夢にも思わない。
普通の人間には想像もつかないこと、だからこそそれをやることによって一瞬の隙が生まれるのだ。
首が将軍の目の前まで行くと予定通り将軍に切り払われる前に爆発した
頭が爆発したことによりあたりには血が飛び散った。
「くっ…!このような鬼畜な真似をよくもぉぉ!!」
将軍は怒りをあらわにし激昂した。
「ああああああ!!」
「よくもぉぉぉ!」
「ひぃっ!」
一部の気骨のある兵士が将軍のように激昂したがその他の兵士は飛び散った血と肉片、さらにそれを平然とやってのける敵に恐怖したのだった。
その間に敵を二人切り殺しあと数回似たような手を使って将軍のもとまでたどり着く予定だった。
だがそんなこともつかの間
「死ねぇぇぇ!!」
斬!
俺は将軍に切られてしまったのだった。
奴は戦場に残った最後の将であったのにもかかわらずなにをとち狂ったのか。直接俺を斬り殺しにきたのだ。
そして当然ながら背中から致死量の血が噴き出した。
まあそれは俺ではなく将軍なわけだが・・・
「ああああああああああ!!なぜ私があああ・・・!」
そういって将軍は馬から滑り落ちそこから動き出すことはなかった。
「将軍!!!」
「将軍がやられたぞ…!」
「もうだめだ…」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!」
終わりだな
唯一この敗色濃厚な戦場を維持していた将軍が死んだ。それだけ十分戦意を喪失するのだがそれだけではなく、突然背中から血を吹き出し何が起きたのかわからないまま唯一の頼みの綱であった将軍が死んだ。
この恐怖と疑念によりさっきまで勇敢に戦っていたデネアリア帝国軍のほとんどの兵士が敗走を始めたのだった。
一部気骨のある経験豊富な魔戦士でさえもはや戦うそぶりを見せることはなかった。
最初周囲には俺が切られたように見えたのだが
あれは闇魔法・幻惑魔術で生み出した俺の幻像だ。
そしてその幻像に気を取られているうちに背後を突き殺したというわけだ。
レオナルト将軍、奴が将軍という立場にありながら激昂して俺を殺しに来た時点で
奴は、デネアリア帝国軍は負けていたのだ。
もっと時間がかかるかとも思ったが、奴がまともな人間だったおかげであの程度の事で怒ってこちらに向かってきてくれた。これが冷酷無慈悲の男なら、物事を冷静に判断し自らの重要性も考えず敵に突っ込もうなどとは思わなかっただろうに、
この世界ではまともな人間ほどすぐに死んでいくのさ
ほどなくして中央の本隊と右翼にいた軍が帝国軍に一斉に押し寄せ今回の戦争はあっけなく終わってしまった。
俺たちは今年も王国を守り抜くことができたのだった。
エラリアル王国は80年、戦争が始まって以来多くの国から侵攻を受けてきたが歴代の英雄たちがそれを退けてきた。
最近では闇の一族内やその他からも、俺もその英雄たちに名を連ねているという声が上がってきてはいるが、俺自身としてはそうであるとは思わない。
何故なら俺は王国のために戦っているわけではないからだ。俺はただ、俺の大切な家族や友人、同じ闇の一族のものや親友たちのため戦っている。
見ず知らずの人間のためになど戦えるわけがない。だから俺は自分を英雄だとは思っていない。自分のためだけに戦う奴が英雄などと呼ばれてたまるか。俺にとっては同じ国の住人であろうとも赤の他人のことなどはどうでもいい。
だが、もし俺たちの一族や友人などが害されるというのであれば
俺はその人たちのために戦う。
俺の名はジャック・ラスタフ
この命ある限り
俺は大切なもののために戦い続ける・・・
例え死神や外道と蔑まれ様とも・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます