光と闇の境界線

Raymond R

運命の始まり

それは突然の事だった。


一人の魔族が突然あたりの人間を容赦なく殺し始めた。


それも一人や二人ではなくも何十人も何百人も何千人も、それどころか


村、町、そして国ですら亡ぼす勢いで人を殺し続けた。


その者は悪魔のような姿かたちをしており、どんな魔族よりも大きく、強く、そして残虐的に人を殺すその様から魔の神、『魔神』と呼ばれすべての人間がこの怪物に恐れおののいたという。


もちろん各国はこの災厄の権化とも言えるこの怪物を止めようとありとあらゆる手段を用いたが、魔神はあまりにも強く剣や弓はもちろん、どんなに強力な魔法であっても魔神には効かず名のある騎士や魔戦士達が次々と殺され、国がいくつも滅んでいくうちに人類は次第に『魔神』に抗うことを諦めていった。


だがそんな時、災厄の権化であったこの怪物に対抗するために一人の騎士と一人の盗賊が立ち上がった。


騎士は名をローレンスといい、通常二つまでしか得ることができない魔法属性のうち五大属性全てを扱うことができその力をもってして剣と魔法で戦った。盗賊は名をワルターと言い、盗みが得意であったもののそれ以上にあらゆる手を使い人を欺き、騙し、陥れ、殺すことに長けておりその力をもってして戦った。


一人の騎士と一人の盗賊はその当時誰よりも強く二人に並ぶものがいなかったのだが、そんな二人でさえどんな手を使っても魔神を殺すことはできなかった。


だがここで奇跡が起きた。二人は魔神を倒すことはできなくても魔神そのものを封印することに成功したのだ。


ついにあの怪物の脅威を恐れる心配がなくなった人類は喜びに満ち溢れ、各国すべての人間が協力し合い各々の町は徐々に復興を果たしていくのであった。


皆平和の時代がやってきたと誰もがそう安心した。


だが魔神は封印される前に己の体を分けることにより分体を生み出し、かろうじて生き延びてしまったのだ。


その魔神の分体は大陸北部に逃げ延び、後に魔族を束ね魔帝国という国を作り、自身も魔帝と名を改め、何十年も人類への反撃の機会を待つことになった。


だが人間というものはどこまで行っても愚かなもので、魔神という脅威がなくなってから20年もたたないうちにまた人間同士での戦争が始まったのだ。そしてその戦争終わることなく80年がたったころ頃だった


魔帝国がついに反撃を開始したのだ。


醜く争っていた人類同士の間をまるで漁夫の利を得るかの如く魔帝国はすさまじい勢いで台頭したのだ。そんな魔帝国の近くに存在したエラリアル王国は東と西に敵国が、さらに北に魔帝国という脅威が生まれたことでこの国は滅亡の危機に追いやられていた。


しかしそんな絶望しかないこの国にかつての騎士と盗賊を彷彿とさせる二人の若者が現れた。二人は性格や立場が違おうとも国のため、そこに住む民のため、戦いを始めるのであった。二人がこの暗く冷え切った世界を変えてくれることを


そして運命に縛られたこの間違った世界を動かしてくれることを切に願う。


なぜなら己と世界の運命を変えられるのは、お前たちしかいないのだから・・・


 


 


 


 


 


 


 


「朝か…」


そう思い俺はベッドから体を起こした。


俺の名はウィリアム・ブラックス


俺が誰なのか、簡単に説明するのなら若くして一兵卒から成り上がった騎士というのが正しいだろう。正式にはエラリアル王国騎士団第12小隊小隊長。そしてこの国で10人しか得ることのできない剣王の称号も持っているのだが、だからといって支給される給金が増えたりいきなり領地がもらえたりすることもないので今は実家で義母マリーと一緒に可もなく不可もない木製の二階建てに住んでいる。


俺はベッドから離れるとすぐそこにある窓を開け外の様子を眺めることにした。


いい景色だ


今日は雲一つない快晴で呼吸をするたびに清々しい空気が寝ぼけたこの体を目覚めさせてくれる。


町を見ればいつもと変わらない情景がそこにあり店の開店準備をする人や朝ごはん待ちの子供が時間つぶしに遊ぶ様子があり、皆喜びに満ち溢れていた。


当たり前だ。ここまでの快晴を見るのはずいぶんと久しぶりだし、みんなが喜ぶのは当然だ。しかし俺だけはどうしてもそんな気持ちにはなれなかった。


何故なら俺は、これから国のために死んでいくのだから・・・


魔帝を殺しに・・・


 


暗くなってしまった気持ちを振り払い、一通り朝の準備をしてから服を着替えることにした。部屋着から鎧に着替えや装備一式を整え終えた矢先に下の階から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「ウィリアムー、ご飯できたわよー」


俺が起きていることに気が付いた義理の母であるマリーおばさんが俺を呼んだ。いつものように朝早くから起きてご飯を作ってくれているのだろう。


しかしこれから魔帝討伐に行くといっても


やはり義母との最後の時間になるかもしれないと思うととても切なく感じてしまう。


「わかった、今いくよ」


 


がそれでも絶対帰ってこれない旅ではない。


今まで誰も帰ってきたものがいないだけであって頑張りしだいではまたここに帰ってこれるかもしれないのだ。それまでの間、長年過ごしてきたこの部屋とはしばらくお別れだ。


 


俺は二階の寝室を後にし、祖母の待つ一回の居間に顔を出した。


「おはようおばさん」


「おはようウィリアム、今日からまた新しい任務が始まるから、朝だけどいっぱいごちそう作ったよ!しばらく帰ってこない分いっぱい食べなさい!」


「ほんとだ!ありがとうおばさん」


そこには俺の好物が並んでいた


どれもうまそうだ


俺は席に着き一番近くにあったシチューを食べる。


「おいしいかい?」


「ああ、この牛肉のシチュー本当においしいよ」


ぼろ屋のテーブルの前に広がる朝ご飯でありごちそうでもある食事を堪能していた。


普段ならこんな高級な肉を使った料理なんて食べないのだがこれから任務にでる俺のことがやっぱり心配なのだろう。


ある程度食べ進めたところに


おばさんが不安そうな顔で話を切り出した。


「ねえウィリアム、いまからでもおそくないわ、公爵様に直談判してこの魔帝討伐の任務なかったことにはできないの?いくらあなたがこの国でものすごく強い騎士だとしても、ウィリアムが例の件を受けることはなかったんじゃない?」


と祖母マリーが心配そうに言った。


「あのねおばさん、俺は人を守る騎士であり、この国に10人しかいない剣王でもあるんだ。この国が危機に瀕しているのにそれを見過ごせるわけがないし、剣王の称号を持つものであれば、この国を救う義務だってあるんだ。」


「それならほかの人は…」


「他の剣王様達なら騎士団長は今王都にいないし、国の英雄ラスタフ様も今では半分隠居されてるようなものだ。コーネルさんに至っては宮廷魔術師団長や西部戦線の将軍やら、いくつもの役職を兼任していてとてもじゃないけど無理だよ、他の人たちはお抱え貴族の許可はおりないだろうしね」


そう、武力を第一に優先し武力国家とまで言われるエラリアル王国には約10年おきに行われる剣王闘技会というものがありその上位10名に『剣王』という称号が与えられ、それとともに各個人に贈られる称号もある。


俺に贈られた称号は”光王”


圧倒的な魔力量からなる光の剣技と光の魔術を駆使し敵を打ち倒す様から贈られたものだ。


他にも称号を贈られた剣王達もいるのだがそのほとんどが重要な要職についていたり家の格を高めるために雇われる貴族お抱えの用心棒や顧問だったりするのだ。


当然、”剣王を抱え込んでいる貴族たちが許可を出すはずもなかった”。


だから今回、若くして成り上がってまもないせいでこれといって重要な要職についておらず、貴族にも雇われていない俺に話が回ってきたのだ。


 


「でもつい数日前に戦争から帰ってきたばかりなのにもう新しい任務だなんて・・・もう少しゆっくりしていくことはできないのかしら?・・・」


とおばさんが続ける。


もちろん俺だってできることなら休みたい。


が、そうゆっくりもしていられない。


なぜならこの国は一見平和に見えるが実際のところは内部分裂がおき始めている。


ほとんどの人間は各派閥に所属しているのだが


王国が一つにまとまっているとは言い切れないこの状況でどの派閥にも属していない俺の存在はとても珍しく貴重なのだ。まあ一応各派閥の人とそれなりに接点があり、その中の一人に借りや恩があったりもするのだが、俺個人はどの派閥にも所属していないしするつもりもない。俺はあくまで王国民の一人。


ゆえに今回俺が選ばれたわけだ。今回の任務を受けるの俺は派閥の争いに全く関係なく各派閥との禍根も残すことはないからだ。


しかし、この国のほぼすべての人間は自分たちの利益と利権にしか目が行っていない。


国をもとのあるべき状態に戻すには、俺が何とかしないといけないんだ・・・


 


「俺しかいないんだ・・・この国を一つにまとめ上げ他国に滅ぼされない国を一から作り治すには・・・それにはまず地位と功績がいる。そのためには、できるだけ早く行動して多くの人を助けないといけない。」


しかしおばさんは不安そうな顔が変わることがない。


「そんな顔しないでおばさん。必ず帰ってくるから」


「必ず・・・絶対よ?私はもうこれ以上誰も失いたくないもの・・・」


「わかってる、約束するよ」


そういうとおばさんの顔から不安はなくなり俺に対し微笑みかけてくれた。


おばさんが目の前にあったご飯を一度見てからこちらを見た。


「ご飯が少し冷めちゃったわね、気が沈む話をしちゃってごめんなさい。」


「いいよ、気にしないで」                                                            


俺はおばさんに笑顔を向けてそう返した。


「ただついさっき見た新聞の知らせと今のあなたの話を聞いて少し安心したわウィリアムの他にも同じ任務を受ける剣王様がいるみたいだしねぇ。」


ん?


聞いていた話と違うぞ。


「俺のほかにもう一人いるのか?」


「ええ、たしか闇の一族の…」

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