鎌をかける死神

天獄橋蔵

第1話鎌をかける死神

鎌をかける死神


『死神ってこの世にいるのかい?』


真っ暗な公園でブランコに座ってる影が一つ、影は語る。いつも同じ質問を何度も聞き飽きているのに、繰り返し聞いてくる。


悪夢から覚めた。僕は、この夢を繰り返し見てる。目覚まし時計が、けたたましく鳴り響くのを止める。

目覚ましの横に見覚えないライターがある。何これ?

だが、そんな事は気にしてられないから準備にかかる。


「遅刻するな、急がないと。」


パジャマから制服に着替えて、食パンをかじりダッシュで学校に行く。

目覚まし時計は2018/07/03 08:00で鳴り止んでいた。



登校途中に河川敷でホームレスが不良に絡まれてる。助けたい気持ちも無く、助ける必要も感じないし、助ける力も持ち合わせていない。ホームレスの老人は涙目でこちらをチラ見するが、期待に応えられるほど、僕は強くも無く、義理も無く、僕は冷たい人間だな、と思った。仕方ない僕は正義の味方では無い。遠目にホームレスが暴行を受けるのを素通りするただの一介の高校生の身だ。


「助けて……」

「お前みたいなホームレスでも、俺達未来ある若者の憂さ晴らしになるんだから、もっと楽しませるんだぞ?」

「やめてくれ、死んでしまう。」

「だから何?死んだって良いだろ?楽しみとかあるのか?」


不良達に絡まれるホームレスは可哀想だが、自分には何の関係も無い。目を合わせない様にスルーして学校に行く。


『死神ってこの世にいるのかい?』


声がする。夢で繰り返し聞いていた声だ。周りを見渡すと、ホームレスの老人と目が合った。バツが悪いと思うより、嫌な予感がした。


『死神になる資格が君にはある、死神になってみないかい?』


僕の日常が崩れる音がした。異変は起こった。ホームレスの老人が何か話したと思った時だ。


「ぐぁ!」

「いてぇ!」


不良達4人中の2人の手首があらぬ方向を向いてる。残りの不良は手首が折れてる2人を連れて逃げようとした。


「君達の様なクズが未来ある若者とは嘆かわしい。」

「やめてくれ!もうしないから、勘弁してくれ。」

「君達は私がやめてと言ってやめたかい?」


不良達に異変が起きた。みんないきなり橋桁から、川に飛び込み溺れながら助けを求めている。

怪異の発信元は明らかにホームレスの老人だが、怪異が僕の方に迫ってきた。逃げ出す僕。



チャイムの音が鳴り響く、当然の如く遅刻だ。僕は閉められている校門で唖然としてるが、家に引き返すにしても、さっきの恐怖から帰るに帰れない。


かと言って校門は閉ざされたまま。誰か教師が来るのを待つか、そう考えながら木陰のベンチで、スマホで暇を潰す事にした。

流行りのゲームをするだけである。友達も数えるほどしかいないし、向こうが友達にカウントしてるかは微妙な感じである。ゲーム仲間のネッ友の方が、よほど仲良しな有様。


「何だったのかな?あの声。死神にならないかって。」


死神って訳の分からないワードが頭をよぎり、夢の事を考えてしまう。

それにあのホームレスは何だったのか、不良達が何故川に飛び込んだのか、謎ばかりが増える。

スマホゲームも飽きてきたどころか、そもそも手が震えるし、それどころじゃない。


暇だからって理由で、死神をキーワードで検索をかけるが、どうもしっくりこない。

だが、一つ言えるのは、あのホームレスに何か不思議な力があり、不思議な力で不良達をやつけた……様に見えた。


「あの力があったら、魔法みたいなモノだから、何をやっても法律で裁く事は不可能なんじゃ?」


考えるのが怖くなった。魔法だとしたら、法律では裁く事は出来ない。当たり前だが、魔法で罪を犯したとしても無罪である。


罪に問うには、魔法を裁く法律が必要で、そんな法律を作ったら世界から爪弾きどころか、そもそも魔法を認めたら科学で成り立つ世界の常識は覆る。それを国が認める訳にはいかない。


「あのホームレスが、僕に危害を加える可能性が高い気がするけど、会わない保証はどこにも無い……」


お先に真っ暗な時に、声をかけられた。教師では無く、この学校の有名人の一番星。生徒会長だ。と言っても顔見知りの仲ではある。


「書記じゃないか?また遅刻か?」

「会長また遅刻です。はい。」

「もうすぐ夏休みなのに、たるんでないか?」

「ちょっとトラブルがあって。」


また言い訳って思われるかな?でも話さない訳にもいかないし……


「何があったんだ?また言い訳か?」

「言い訳って訳じゃないんですが、河川敷でホームレスがウチの高校の不良達から絡まれていて、その……」


この時だ。言いかけて、これが気の所為やら何かの悪い夢ならいいのになぁって思ってしまった。


「河川敷って駄菓子屋の近くの?」

「はい、そうです。ダンボール小屋にホームレスがたまっているじゃないですか?」

「ダンボール小屋?ホームレス?何だそりゃ?嘘ならマシな嘘つけよ?」

「へ?」


何だ?何か変だな。生徒会長は嘘を言ったりしない人だし、この反応何か変だけど?


「あ、あの、何で嘘って思ったんですか?」

「だって、あの河川敷4月にホームレス達は、撤去命令で姿消したじゃん?忘れた?」


4月ってか、ほんの1時間前まで、確かに居たのに……嘘なんかついてないし、どうしたモノか、どうせなら遅刻も無かった事にならないかな?


「ホームレス達撤去したの知らなかったです。すいません。遅刻の理由は単純に寝坊しただけです」

「ん?遅刻?今日はもう授業無いぞ?日が高いから気づかないかも知れないが、もう夕方近い授業は全部終わったぞ?」

「は?」


慌ててスマホを確認した。2018/07/04水曜日16:00だ。何事だ?時間が進んでいる。というか日付が進んでいる。今日は2018/07/03火曜日のはずだけど?何で?ってか誕生日だし。


「とりあえず帰るか、何事か分からないが、意味も無く叱責したみたいだし、すまない。」

「いや、そんな頭を上げてください。」


何事か分からないが、遅刻にならなかったのが、時間が進んでいたからだと認識できた。

生徒会長はボーっとした感じで帰っていった。ホームレスが居ないかも?とも思えたから家に帰る事にした。



原因不明で(次の日)になってしまった学校からの下校途中といっても、時間が進んだのかはかなり怪しかったのだが、生徒会長が帰ってしまったから、まぁいいや状態である。


何かのドッキリなのか?とも思ったが、生徒会長の反応を見る限り、よく分からないってのが本当のところ。


ただ河川敷を通れば一目で分かりはする。河川敷の近くに来た。遠目からはダンボールが無い。


生徒会長の言った通りならダンボールは無いが、未だに訳が分からない上に疑ぐり深い性格なので、ドッキリか何かでダンボールだけ片付けただけで、ホームレスはいるかも知れない。


「おや?あのホームレスは今朝の……」


なんだ、何かのやらせか。生徒会長も人が悪い。だが、嘘をつく理由は微塵も無いのが気になりはする。

気になってスマホを確認しようと鞄から出してみたはいいものを、バッテリー切れだった。


朝の事もあり。あのホームレスが滅茶苦茶怖い。こっちに気付かれない様に河川敷から目を逸らして早足で立ち去る。

ホームレスは何も反応しなかった。梨?を食べてる様に見えたが、だいぶ窶れてる。


(あの若いの、次の死神だな。若い割に魔力が桁違いだの、俺の後輩になるのかな?しかし正義感のカケラも無いな)



家に着いた。どうか悪い夢か、やらせか、ドッキリで日付が朝起きた時の2018/07/03である様に願いながら寝室の目覚まし時計を確認する。やはり今日の日付は2018/07/03だった。


安堵して、力が抜けた。スマホを充電器に繋げてニュースサイトを見て回る。普段は見る事は無いのだが、朝の河川敷で川に飛び込んでいった不良達の安否は気になる。


あの時自分に勇気があれば、正義の味方の様な力があったら、せめて非力なりに魔法でも使えればな、と願った。


願ったという程の強い気持ちは無い。単に軽く思った。

それだけであった。そうただ軽い気持ちだった。


『死神はこの世にいるのかい?』


悪夢で繰り返し聴いている声が、脳内に響いた。耳を慌てて塞いだ。だが、あまりにも明瞭に脳内に響き渡る。


『これは珍しい。誕生日前日に死神になる奴なんてこの世界、いや、人類の進化の過程で初めてだな。しかもまだ17歳とは、普通は天才的な死神でも31歳から覚醒するんだがな?明日から18歳か楽しい人生はここで終いだぜ?』


何か分からないが、頭の中から中年のおじさんらしき声がする。

慌てていたが、混乱する頭を鎮める為に何となくだが質問を投げてみる。


「あなた誰ですか?人の頭の中に入ってきて。」

『俺か?お前が今朝助けなかったホームレスだよ?お前さんみたいな冷たい人間のクズが死神になれるとはな、世の中腐ってるって言いたいが、お前さん、さっき俺を助けられたらって願っただろ?だから俺は助かった事になった。正確には、助けようって願ったお前さんの良心が認められて、お前さんが死神に覚醒して、教育係になったってだけだ。』


「助かった事になった?意味が良く分かりませんけど?」

『教育係は明日までの決まりだ。聞きたい事はじゃんじゃん聞け、お前には魔力が宿っている。しかも歴代最高だ。ぶっちぎりにな。』


何か分からないが、魔法が使える様になったとは、はっきりと認識できた。何の魔法が使えるんだろうか?


「もしかしてですけど、僕の魔法って願いや空想を叶える類ですか?」

『飲み込みが早いな、その通りだ。応用も自在まさに無敵に等しい魔法。』


「使い方は自分で考えた方が得ですよね?それって何でも出来るのと同じですよね?」

『ただし、思っているよりは万能では無い。人間の身体的な事しか魔法は効果が及ばない』


「じゃあ?時間は?操れないんですか?」

『お前は今日の朝何日だと認識した?』

「7月3日です。」

『今日は何日だ?』

「あれ?7月3日ですね。」


確かに魔法を得た万能感はあった。時間を操作してるんじゃないか?と思ってしまった。

だが見落としは?一つは生徒会長だ。ただこの死神を名乗ってる男の話なら魔法で人間の身体的な事……つまり脳内情報も身体の一部なら干渉可能である事。


それにあの時の違和感は間違いなく僕自身から出たモノ。

都合良く出来てる事に、僕が時間を歪めた妄想に生徒会長が影響を受けたらしく。生徒会長が7/4だと言った時に僕自身が自己暗示にかかり。僕自身でスマホの画面を見ていたが、幻視だったのだろう。


『そう頭を巡らせる癖がかなり大事になる、お前は人類史最強の魔力を秘めている使い方次第で、この世界を変えられる。しかもどんなに悪さしても魔法での悪事は無罪だ。お前の武器は、お前が作るんだ。』


それでは?何の為の教育係なんだ?最もな疑問である。


「明日一日中で何か、死神の仕事を教えてくれるんですか?」

『まあ、そんなところだ。』



誕生日前日が終わり。僕は疲れてクタクタの身体をベッドに預けた。

明日は2018/07/04誕生日だから、学校休んで死神の勉強した後遊びまくろう。グウタラ人間なので仕方無い。

もう人間じゃ無いらしいけど、それでも身体は人間の身である。疲れたから電気を消して寝る。


ジリリリリー!


疲れてるのに目覚ましが鳴った。時刻は0:00だ。誕生日なのだが?身体怠いよ。


部屋の電気を点けた。が、知らない男でも無い人が立っている。ホームレスの老人?だよね?顔似てるがかなり若くなってるぞ?


「よお!ハッピーバースデー後輩ちゃん。」

「何ですか?明日から死神の仕事教えるって深夜またぎからですか?」


僕は少しむくれた。身体は今までに無いくらい疲れてるのに、0時丁度に起こされるとか何の罰ゲームなんだ?


「何だ?疲れなんて念じるだけで消えるだろ?お前は人類史最強の魔法使いで、無敵に等しい死神なんだからな?」

「疲れよ消えよ!こうですか?こんな簡単に疲れ……が?」


みるみる疲労感が消えた。どころか、力が湧いてくる。


「お前は特別なんだよ、ちゃんと学習しろ頭に叩き込め。身体的特徴に関する事に干渉し、自在に操る事が可能な能力だ。応用次第では世界を征服する事すら可能なんだよ?ようは使い方次第なんだ。」

「は、はい。わ、分かりました」


ついつい敬語になってしまったが、元から相手は歳上である。ただのホームレスって馬鹿にはしていたのは、ごめんなさいではあるが。


今は死神?魔法使い?の先輩で1日だけ教師?コーチ?してくれるから、少しは敬うかな?と思った。


「分かればいい。お前は才能の塊だ。言い方を変えたら何も努力せずに莫大な能力を手に入れた危険な存在でもある。手に入れたおもちゃで遊びたがる子供と同じだ。だが、幸いな事にお前は頭はまあまあだ。お前に足りないモノは沢山あるが、時間内に教えられるのは僅かだ。少しでも吸収するんだぞ?」


ここで疑問も出た。何故時間が1日だけなんだろ?延ばせないのかな?


「今の願いは届かない。上からの指示だから上と直で会わない限り指導時間は増えない。」

「え?何で僕が思った事分かるんですか?何も声に出してませんけど?」

「そこまで強力な能力には対価が付き物だ。お前の思考は現実化する力も秘めてるが?丸裸だぞ?」


ん?ちょっと分かんないや?思考が現実化するのは、ピンときてる。


だけど?丸裸?んー何かの例え話で、念じる能力を使う時だけ何かが透けてるのかな?

念じる関係だから、思考が一時的に透けるとかかな?


「自分本意に考えるな!常時透け透け何だよ……」

「えー?はぁ!嘘!」

「残念ながらな。」

「それって死神?や魔法使い?の人限定とかですか?普通の能力じゃないから、まさか普通の人には……」

「自分本意に考えるな……お前の能力は普通の人間は効果が無いのか?」


力が抜けた。足で体重を支えきれず。へたり込んだ。

嘘だろ。学校行けないどころか、買い物にも行けないし、友達全滅。就職結婚全部無し。人生詰んだ。いや、もう人間じゃないんだ僕……


「落ち込むな、方法を探すしかない。」

「これってアレですよね?今日1日頑張ったら、魔法のアイテムとかで、制限やオンオフする便利なのくれるクエストですよね!」


「自分本意に考えるな!お前は頭はまあまあは取り消しな。そんな便利なアイテムあったら、とっくに違う便利道具出来てて、ドラ○もんのスポンサーから殺し屋来るだろ?常識的に考えろ!」

「魔法使いや死神は非常識じゃないですか?」


何の討論してるかは、僕は分からない。考えたくない。

だって、好きな人も諦めるの?辛いよ。あんまりだよ?

それでも言い負ける事確定の話は進む。


「お前は最強の魔法使いで、無敵に等しい死神だ。ただチカラにはそれ相応の対価がいるこれが常識だ。俺達は非常識な存在だ。科学すら超えてる。ただ科学で成り立つ世界……例えばお前のチカラで河川敷の橋を一撃なり念じるなりで壊せるか?」

「やってみないと、分からないんじゃ無いんですか?例えば、どこかの建設会社の社長さんの脳内にアクセスして橋を爆破して貰うなら一撃ではあります。」


こう言う時にだけ頭を使っても意味無いが、理論的に勝てただろうな。って無駄に考えてる。


「お前はそれを今すぐ出来るか?お前の脳みそは透けてるんだぞ?今何時か分かって言ってるのか?今すぐに出来るのか?」

「……無理です。」

「お前の武器は諸刃の剣だ。他人を攻撃するには、自分の受けるダメージを知る必要がある。」


だけど、これなら普通の人間だった時がマシだ。何の為のチカラなんだ?いらないよ!こんなチカラ!


「一つだけ、脳内の透ける現象を止める手がある。」

「自分のチカラを自分に向けたら消える?で、合ってます?」

「それが最終的に出来たらの話だ。全ての魔力を使い切った時だけだと思う。さっきからいらないって言ってるが、全然垂れ流しだ。」


「僕に選択肢は無いって事ですよね?」

「それはお前が決める事だ。チカラに溺れたら、垂れ流しでも構わないと闇に堕ちるかもしれない。」


どういう意味だ?こんなチカラ要らないから早く元に……


「気付いたみたいだな。お前は人類史最強の魔法使いで大量の魔力がある。お前が人間の内に使い切れるかは、少し厳し目に見積もると、無理だ。沢山魔法を使い続けて、能力解除するにしても、まあ、かなり魔力を消費して甘目に見積もっても、まあ50年くらいだろな。かなり甘目にだがな。」


「それって自殺したらどうなりますか?」

「強がるな、死ぬ勇気があるのか?」

「ありません……」


途方も無いチカラの対価があまりにも高い。だが?何を指導するんだろ?


「お前が死神として仕事をこなす前提なら、方法が無い事も無いんだがな?」

「はぁ!それ先に言ってよ!絶望して損したわ!何かアイテム的なのがあるんですか?」


「自分本意で考えるな!さっきも言ったが、そんな御都合主義アイテムあったらドラ○もんから、じゃなくて色々な方面から魔法使いや死神が迫害されるんだよ!道具では無く技法だ。」

「あの、技法だけ伝授して、帰って下さい。」


「それやったら、上から俺殺されるから無理だよ?」

「僕最強の魔法使いで、無敵に等しい死神なんで、良かったら技法だけ伝授して下さい。お願いします。」

「俺帰るわ、お前は世界救うらしかったが、こんなに器小さいとはな、お前の片想い相手も明日ってか今日新聞に載るから覚悟しなよ。」


え?何それ、ずっこい。


「え?何て?ずるい?お前がな、帰るわ。」

「待って待って待って、考え直します。勘弁して下さい!」

「遅い。もう無理だから、後は1人で考えろよ?お前の好きな相手には手は出さないから、そこだけは信じろ。俺はもう知らん!お前は手に入れたおもちゃで遊びたがる子供だよ、いや子供以下だな!」


こうして、死神は帰って行った。後悔しか無かった。このチカラの制御方法は無くて、魔力が尽きた時しか、能力解除されないって、魔法を使う機会も沢山貰えたはずなのに、それも失った。


当分引きこもるしかなさそうだな。最悪の誕生日だ。

僕は、朝までわんわん喚きながら泣き叫んだ。



朝が来た。というか朝まで泣いてた。

お腹空いたから、リビングに下り冷蔵庫を漁る。両親は何か、よそよそしい。


「アナタあの子何でさっきから独り言言ってるの?しかも何か声低いし、目が赤いし。」

「こう言う時は、そっとしとけ、それと今日の外食は止める。あの調子なら無理だろう。」


冷蔵庫からペットボトルのミルクティーとチョコミントのアイスを取り出し「おはよう。」と短く挨拶して自分の部屋に戻る。


どうしよう学校休むのはいいけど、学校生活無理だよ。


解決する策は魔法を沢山使って短くても50年後に解除。

もしくは死ぬ、死んだら何もならないけど、このまま生きるのも辛い。


僕はどうしたらいいの?ダメ元で河川敷に行ったら都合良く死神の先輩がいて、許してくれるって無いかな?河川敷行くかな。


僕は学校に行くフリをして、制服に着替えて河川敷に向かった。



河川敷に行ったが、死神の先輩は、居なかった。近くの駄菓子屋に足を運んでみた。きなこ棒やらうまい棒やチョコバットを買い漁って、河川敷の橋の下で食べ出した。


「あ、きなこ棒当たりだ。」

「良かったね。」


ん?誰かいるのかな?

周りを見てってか、すぐ隣に人が居た。ピンク色の髪の姫カットの子が煙草を吸ってる。


「あげないよ?」

「いらないよ?」

「煙草吸ってるなんて不良なの?」

「周りがやっていないようなことをやりたかったの。それがたまたま煙草だったってわけ。別に深い意味なんてないよ、たまたまだよ。」

「煙草吸って不良なの?なんなの?」


するとこの子は、ギクリとした表情で、視線を彷徨わせて、虚空を仰ぎ。


「人間隠し事の1つ2つあるものさ、ぷかぷかー。」


謎な感じで煙草吸いながら去って行った。


「えっ?なんなんだ?逃げってったな。」


すると、昨日の不良達が何食わぬ顔で橋の下に集まってきた。生きていたんだ。手首も包帯とか巻いてないし、無事だったのね。何だろう?1人が近づいてくる。


「俺達さ?今金無いんだよね?貸してくんない?」

「はぁ?嫌だよ!」

「何だと?」


その時に強く願った。コイツら川に飛び込ませたら何も証拠残らないし、魔法で殺しても無罪だ。


「さっきから何変な声で分からん事言ってるんだ?」

「もうすぐ夏休みだけど?川冷たくて泳ぐの辛そうだからさ?泳いでみたら?」


すると不良達は川に飛び込みだした。寒いながらも、楽しそうにそうだな、あぁ可哀想。


「助けてくれ死にそうだ!俺泳げないのに何で川なんかに!」


流石に殺しても無罪とは言え、気分が悪い。念じて泳げる様にしよう。


「泳げたらいいのにね!」


強く念じたし大丈夫だろう。


「俺泳げないんだ助けてくれ!ってか、俺達の中で泳げる奴いないんだ!助けて!」


あれ?これはやばく無いか?え?魔法が効かない?もしや?僕は人殺しになっちゃうの?


「……」

「ちょっと待ってて今119番して救急車呼ぶから!」


119番をコールする為にスマホを取り出す。

しかし、スマホを取り出す前に空中に何かウィンドウが表示された。空間に浮かんだ窓に何かが表示されてる。


魂×4獲得。対象から吸収出来る能力を選択してください。選び直しは効きませんので注意してください。対象が複数人なので、対象1人につき1つ能力を獲得可能です。


対象1 野球ピッチャー カナヅチ

対象2 スケートボード カナヅチ

対象3 無し カナヅチ

対象4 無し カナヅチ


選択しないのも選択です。好きな能力を選択してください。


何だこれ?まるでRPGのリザルト画面だ。というかまんまだ。


もし能力を選択したら、その能力を獲得出来るのか?能力の野球、スケートボードはまだ分かるが、カナヅチって能力なのか?


「ってか、うん、僕は何もしてないんだ。大丈夫なんだ……」


冷静に考えながら人の身体的な事なら何だって叶うはずだろ?何で泳ぐはダメだったんだ?


今までを振り返ると、時間や感覚の誤認識と疲労回復は出来たのに、身体的なら運動能力にだって……カナヅチがリザルト画面に表示されてる以上泳ぎは別枠か。


なるほどな、リザルト画面に表示されてる中には欲しい能力は無い。


獲得した魂×4ってのは、単に殺した人数では無さそうな気もするが、僕は間違いなく人殺しになった。18歳の誕生日に人を4人も殺してしまった。


「最悪の誕生日だな……」


だが、このままここに居たら色々ヤバそうだから、家に帰ろう。



帰り道ラインが飛んで来た。誕生日おめでとうってだが、返事を出す気力は無い。


カラオケ店で集まってるから、主役なんだから来なさいって書いてる。行きたくないのでスルーする。ってかコイツら学校は?不真面目だよ?


すると別な誘いがきてしまう。同級生のカップルとすれ違って嫌な予感がした。お茶に誘われてしまった。


「お茶しよ、お茶。」とばかり言われて、面倒だし声を出すのが億劫で、頭の中で断る様に言葉を選び、唱える。そんな気分じゃないからパス。と唱えた。これでいいだろ。


しかし、ぐいぐい来られる「何怖い顔してるんだ?行こうぜ?」何か変だ。

流されるままに、喫茶店に行く事になった。困ったな。



喫茶店のテーブルについて注文を取られる。カップルは同じのを頼んだコーラ2つだ。


僕は少しこの状態である事を試した。さっきの魔法での殺人の影響で思考垂れ流しが一定時間止まったのかも?ってのと、根本的に治ってたらいいなぁが1番だが、それは多分無理がある。本命は……


「お決まりですか?」

「……」


オレンジジュースって念じる。頭の中でこんなに真剣にオレンジジュースって念じたのは生まれて初めてだ。


「オレンジジュースお1つですね。」


決まりだな。聴こえる人間と、聴こえない人間が居る。ウエイトレスには聴こえている。カップルには聴こえてない。


条件は不明。ただ、このカップルには聴こえてないから観察対象だな。この場合聴こえない方に対してなら手の内はバレないし、実験にはもってこいだ。


イケメンカップルなのに、互いに見た目で選ばないって豪語してる嫌な感じの馬鹿共なんだが、使える。


「え、コイツ何も言って無くね?」

「え?」

「すいませんコーラで。」

「かしこまりましたコーラ3つですね。少々お待ちください。」


ウェイトレスは伝票を置いて奥に下がった。


「誕生日おめでとう。」「ありがとう。」って普通に返す。


疑問はまだある。テレパシーが届かない相手に能力が発動するか試したい。

すぐに目に見える結果が欲しくて、何が良いか考える。


いや、考える間も無く思いつくのが1つしかない。このイケメンカップルをブサイクにしたらどうなるんだ?


強く念じる。コイツらがブサイクになります様に。

人として最低なんだが、今は人間を辞めた身だから仕方無い。


「どうしたんだ?怖い顔してるぞ?」

「明るく笑顔じゃないとシワ出来てブサイクなるよ?」


コイツらブサイクなんないのか?顔は能力適応外?それかテレパシー届かない対象には効果無し?


「おまたせしました。コーラ3つです。」


ウェイトレスがコーラ3つ運んできて、下がっていった。


「誕生日おめでとう乾杯!」


コーラを飲みながら色々考えた。試す価値がある無いではなく。武器は自分で見つけるしか無いのである。試せるモノは全てやるしかない。


「2人ってよくさ、人は外見じゃないって言ってるじゃん?それって内面に惚れたから付き合ったの?」

「そうだよ内面が大事なんだよ。」

「中身がイケメンだから好きになったんだよ。」


相変わらず作り込み激しいなぁ。畳むか。


「じゃあ?内面に一目惚れしたんだ?」

「そうだよ。」×2

「一目惚れなんだ?内面ってどうやって見た目に出るの?」


コイツら顔は良くても頭悪いから簡単に誘導できた。


「内面ってほら、あれだよ最初話した時に中身に一目惚れしたんだよ?」

「でも内面が顔に出るって言うよね?」

「それもあるけど、中身が可愛いから、中身で選んだんだ」


そろそろフィニッシュブローかな?


「内面で選んだから、顔は関係無いなら、お互いにブサイクな顔って思ってるの?」

「それは無いけど……」


これは、ヤバいモノ見てしまった。危ない危険だ。僕は奢るからって言ってレジに向かった。罪悪感。


「なんだ?アイツ……え?」

「え?アナタ誰?」


魔法の発動は明らかだ。さっきまでのイケメンカップルはブサイクカップルになってしまった。


コーラ1杯で、人生詰ませた。悪い事したな。

その後の2人は多分別れると思う。


トドメ刺す意地悪なパターンも想定していたが、あまりにも不憫だったから辞めた。


人として正しい判断だったが、やった本人は僕だ。人間のする事じゃない。もう人間辞めてたな。



家に帰り自室に戻った。お母さんが不審そうに理由を聞いてきたが、気分が悪かったと言ったら、すんなり納得してくれた。


コーラを飲んだせいか分からないが満腹感と、今まで感じた事が無い幸福感が湧いてきた。


今日は色々あった誕生日だな。目覚まし時計を見たら時刻は11:30分だ。もうそろそろお昼ご飯の時間だ。


リビングに行くとお母さんが料理を皿に盛り付けていた。手伝いをして、ご飯にする。オムライスだ。

ハッピーバースデーとケチャップで書いてある。「いただきます。」を言ってから、食べたら美味し過ぎた。


何か味蕾が変わったくらい美味さの度合いが違う。誕生日だから気合入れてあるというか、根本的に違う。

自分自身の方が変わっている?何故かそう思った。


お母さんが「痩せた?」と聞いてきて、何の話なんだろ?と首を傾げながら「何も変わってないけど?」「そう?」こんな感じで、お昼ご飯を済ませた。


「晩ご飯まで時間あるから適当に時間潰しなさい。今日はゲーム何時間しても怒らないからね。」

「ありがとう。」



自室に戻ってみたが、ゲームはする気になれない。今は現実がゲームみたいなモノだ。


ゲームする子供は現実が見えなくなると何かで見たが、あれは事実だろう。僕なんて現実がゲームだ。


鏡を見てビックリだが、痩せてるじゃんか?魔法でイケメンカップルをやっつけた?からかな?報酬みたいなモノかな?まあサンプルが1つだから断言は出来ないから、考えるより行動しよう。


家に居ても暇だから出かけよう。さっきラインくれた子達の待ってるカラオケボックスに混ざれるなら混ざりたい。ライン飛ばしたら即OKだった。



カラオケボックスには僕合わせて男女4人。テレパシーが聴こえてる人を確認する為に、適当な事を考える。


みんなの反応を見ると、あらかさまに1人居る。あまり仲良くないメガネの子が、キョドってる。


聴こえるのと聴こえないのとの空間で何をしたらいいのか考えた。カラオケ店の近くの文具屋でトランプを購入してみた。


死神の仕事ってのは聞かなかったけど、魔法は僕が使える武器なんだ。武器の性能は把握しなきゃ。


みんなが一しきり歌い終わりカラオケも飽きたなという頃合いで、トランプを取り出して「メガネ君が透視出来たら凄いって思う?」かを聞いて「楽しそうだからやってみよう。」という流れを作った。


メガネ君には悪いがこの中で1番立場弱いし、イジメから庇ってあげた事もあるから、まあギブアンドテイクだよね?


「じゃあこれは?」「スペードのエース。」「すげーメガネの癖にエスパー並みの的中率じゃん?」


こんな感じで、僕がメガネ君以外の人の隣に座り見えた図柄をテレパシー垂れ流しでメガネ君に伝わるって繰り返した。


これが現金1万円の識別番号なら、番号当てゲームで1プレイ1万円でボロ稼ぎじゃん?


途中から馬鹿らしくなり、お先にと言って現金を置いて出た。


僕が帰った後のメガネ君の事は知らない。多分またトランプ当てやってと言われてやらされるだろうが、僕が居ないと成立しない手品だから、多分イジメられるだろ。人間のやる事じゃないな。あー人間辞めてたわ。



カラオケ店から出たら生活指導の体育教師から、学校までしょっぴかれた。何人も街でウロウロする学校だ。日常的な光景である。


抜き打ちテストを教室でさせられる。しかも夏休み前だからテストは3枚って言われた。


しかし希望は潰えていない。幸いな事に、しょっぴかれた僕含む6人には、テレパシーが聴こえている。教師には聴こえてないみたい。


「じゃあテストを開始する。」

「これが全員100点だったら、夏休みの宿題無しにしてください。」


このエサに食い付くか?気になった。


「お前らみたいな、たるんでるヤツらが100点取れたらな先生は嬉しくて裸でグラウンド100周するぞ?」


あら、この人やっちゃったな。可哀想だが非情に徹するか、数学の小テスト3枚とか、僕は楽勝だから、他の人も答え全部分かる。勝ち確だな。


「分かりました。みんなで100点取りますね。」


小テスト3枚楽勝だったが、異変が起きた。返ってきたテストに1人だけ98点がいた。そして、食ってかかってる。


「答えを消しゴムで消したろ!掠れてるぞ!裸でグラウンド100周する言ったのを豪語してたよな?早く服脱いで走れや!」

「先生はそんな事はしない。お前が100点取れなかったからってイチャモンつけるな!」


気になったから、98点のテストの問題部分を見た。


すると、頭から声がした。先輩の声では無い。紛れも無く僕自身の声だが、コントロールを離れて独立可動している感じの声が流れてきた。


『死神は真実を食む。』


なんだ?死神は真実を食む?


『嘘吐きには代償を払わせろ。』


代償ってまさかな?


『死神は真実を食む。この一言でケリがつく。ただ、相手は普通の人間だ。言い回しは考えろ。ただ嘘か聞けばいい。裁くのはお前だ。』


分かった。嘘か聞いたらいいんだよね?シンプルでもいいんだよね?


『何でもいい。』


こうして、僕は聞いてみた。


「先生嘘ついてませんか?」

「嘘はついてないぞ?」


その時筋骨隆々の体育教師の身体が萎んでいった。筋肉が細くなっている。異変に気付いた全員は何故が恐慌状態に落ちた。体育教師含む全員が廊下を走り逃げ出した。なんだ?



みんなが去っていった後に見覚えのある人が教室に入ってきた。怪異はこの人のせいか?


「おー死神の仕事を教えても無いのに順調にやってるな関心するな。」

「え?先輩?何で?もう会えないって思いましたけど?」


「お前が働き者だから上からのお達しがあってな、まあ、俺もお前には一目置いてるからな。」

「仕事って何の事ですか?魔法を使う事?ですか?」


「さっき聴いたろ?死神は真実を食む。」

「死神は真実を食むって何ですか?」


「相手に嘘をつかせて、それが大きな収穫になる。」

「嘘をつかせたら、自分が本当の事を言ってるから、死神は真実を食むって事ですか?」


「その通りだ。死神の仕事は、この世から嘘を無くす事だ。全てでは無いがな。」


何の話なのかな?嘘つきを減らすって事だよね?何のために?


「何故ですか?それって最後どうなるんですか?」

「それはまだ分からないが、この世界に嘘つきばかりになったら、どうなる?自分なりに考えろな?」

「分かりました。少し時間ください。」


嘘つきにみんながなったら?それだと何も本当が無くなる?でも右を左って言ったら逆を考えたら本当って判別できるし?


実は全員が同じ思考になる?ただ、法律とかは機能しなくなるんじゃ?そしたら?


「お前の考えは、だいたい合ってる。そうだ単純に言うと嘘つきが増えたらそうなるが、もっと現実的に言う……」



先輩が語る事は納得がいった。

知らない事もあるもんだなって思った。


嘘の効果は至ってシンプルだ。

嘘つきから人は離れていく。

人が離れたら友達も作れない。

信用が無くなって誰からも相手にされない。

信用無い人は就職困難になる。

精神的に病む。

肉体的にも弱くなる。

つまるところダメ人間が量産される。

国家規模での貧困のタネの元凶である。

嘘つきは穀潰しの始まり。


「死神は穀潰しを食らう為に存在する。」

「でも僕はこのチカラの所為で、就職絶望視してますが?」

「まあ、無理だわな。だが死神としての能力がある限りお前は飢えない。」

「死神は真実を食むからですか?」


たしか、イケメンカップルをブサイクカップルにした後に食べたオムライスは美味かったし、気分の満たされ方が今までになかった。


それに、死神は真実を食むの幸福感は半端ない。


「そうだ。死神は真実を食む限り。飢えも渇きも無い。お前は知らないだろうが、人間が煙草や酒で一時的に楽しみを獲る事より高次な快楽だ。」


煙草も酒も飲んだ事無いけど、これに似た感覚なのか。


「それってもしかして?魔力が減らなさそうですが?」

「それは、それぞれ違いが出る。望みを叶えるチカラを持つお前が、真実を食む事で、魔力の減少を望むなら、そうなるかもしれないとだけは言える。」


確信した事がある。確か、世界を救うとか言っていたのは、多分……


「世界を救うって要はこの国の財政の為ですよね?」

「その通りだ。死神はどの国にもいるとは思うが、国家単位でしかない。死神の存在を守ってくれているから、持ちつ持たれずの関係だ。」


「死神を守る?」

「そうだ、俺達は科学を超えているが、科学にはまだ勝てない部分が多い。例えば拳銃は科学の力で完成したと大袈裟だが間違いでは無い。俺は拳銃には勝てない。そういう事だ。」


「法律では捌けないけど、悪事は出来ないって事ですよね?」

「その通りだ。魔法使いだろうが死神だろうが、やってはならない事はある。常識的に考えたら分かりそうだがな。」

「……」


僕は4人も殺してしまった。魔法でした事とはいえ、人の命は重い。制裁が待ってるの?


「僕はもうダメなんですか?」

「取引に乗らない場合にはな、世界規模のマジシャンズサークル全員を敵に回し、更にこの国の死神全員から無視される。」


「乗るしかないじゃないですか?」

「その通りだ。取引は単純に死神の代紋を引き継ぐ事だ。今の代紋はもう長くない。」


「それって?好きな人以外と結婚って事ですか?」

「簡単に言うとそうなる。時間は与える。後悔の無い選択をするんだな……」

「分かりました……」



僕はトボトボと学校から帰る。

河川敷で見覚えのあるピンク色の髪の姫カットの子を見つけた。寂しさがあったのか、話しかけてみた。


「あのさ、いつも煙草吸ってるの?」

「欲しいの?」

「ううん、たださ。もしも世界中から煙草無くなったら、どうする?」

「さあ?なくならないから現実的に。」

「だよね……」

「ねぇ。失恋でもしたの?」

「そんなところ。」

「可哀想だけど煙草あげないよ?」

「いらないよ。」


この子と話してたら、お巡りさんが歩いてきた。ヤバい。


「こらー!そこの非行少女2人!」

「やばい。逃げるよ。ぷかぷかー。」

「何処に逃げるの?駅の方に逃げる?」

「どこだっていいから、逃げる。ぷかぷかー。」



駅前の公園について一息ついた。なんか楽しい。周りを見るのも忘れてた。


「煙草吸ってる割に足速いね。」

「私は、煙草たまにしか吸わないからね。」

「そうなんだ。僕は今日は散々な誕生日だったよ。」

「誕生日なんだ。おめでとう。」

「ありがとう。」

「誕生日なのに失恋したの?」


痛いところだけど事実だからなあ。この子に聞いてみるのも出会ったのは最近どころの騒ぎじゃ無いけど。テレパシーも聴こえてないみたいだから、気楽だから。


「そうみたい。聞きたかったんだ。煙草好きな人が煙草の無い世界ならどうするか。」

「煙草はたまにだからね。分かんない。」

「分かんないよね。」


煙草に火をつけて吸い始めた。何回か煙を出しながら、虚空を見つめながら、語りかけてくる。


「私は煙草をフカさない。自分の気持ちに正直になってみたら?失恋したらそこで終わりなの?」

「相手を諦めないと、僕死んじゃうんだ。」

「それって好きな人に好きって伝えたの?」

「まだだよ、伝えれるわけ無いじゃん。重たいし迷惑かけるだけだよ。」

「自分の気持ちにフカシこくなよ?またな?ぷかぷかー。」


あの子はなんだったんだろ?フカシこくなよって、嘘つくなって意味だよね。好きな人に会いたいな。勇気出して突撃するかな?


好きな人って言っても会った事は無い。顔も知らない。声も聞いた事無い。今時流行りのネット恋愛だ。


ネット恋愛で見た事無い相手と、死神の代紋の後継者の男を天秤にかかってるって、普通は変な事だけど、命が大事なら死神の代紋を継ぐしか無い。


だけど初めて僕は恋心を、両想いになった人がネットの人だった。顔も声も知らずにチャットだけで好きになってしまい。他に何も無いそれだけが理由で、その人はずっと僕を大事にしてくれるし、付き合ったとしてもずっと大事にしてくれるって信じれる。


思い切ってチャットを飛ばしてみた。会いたいです。と短く済ませた。



駅前の公園で返事を待っていたけれど、中々返事が来ない。仕方無く近くのハンバーガーショップへ足を運んでみた。


店内で食べていたら、知らないおじさんが「相席いい?」と聞いてきたが、この時間帯は席はガラガラ空いている。


しかもこのおじさんは見た目ブサイクだから、相席などしたら周囲からあらぬ偏見と好奇な目で見られる。


「他の席空いてますよ?」と、あっち行けオーラ全開で対処してみたが、おじさんはスマホを弄りだした。不思議に思ったし、嫌な予感がした。


「これでもダメかい?会いたいってチャット来たから飛んできたのにさ?」

「え?もしかして?」

「チャットみたくお兄ちゃんって呼んでもいいよ?」


僕は泣いた。ネット恋愛の対象のお兄ちゃんがあまりにもブサイクだったからだ。無いわー。


「どうしたの?何かあったみたいな感じだったけど?泣かないで?」

「ううん、何でも無いよ。お兄ちゃんに会ったらちょっと緊張の糸解けただけ。」


緊張の糸どころか、掛かってた恋の魔法も解けたけどな。


「会いたいって何か用事あったろ?相談事?」

「ううん、ちょっとね。」


早く帰りたい。


「今日誕生日だったよね?おめでとう!」

「ありがとうお兄ちゃん。」


困った。


「食事って訳にもいかないし、カラオケでも行かない?」

「うーん、早く家に帰らないと、お兄ちゃん来るの早かったら行けたんだけどね。」


カラオケとか恐怖感MAXだわ。ないわ。


「うーん、じゃあここで、お話しよう。」

「そうだね。」


まあ、このくらいはしゃーないわな。ハンバーガー速く食べてバイバイやな。


「ズバリ当てようか?悩みがあるんだろ?」

「あるよ。」


それは、いきなり会いたいってチャットに書いてるから、当てるもクソも無いだろ?


「悩みは話せない感じ?」

「うーん、僕が失恋した話だよ。」


面倒くさくから、正直に話して命が大事だから、お兄ちゃんのことを諦めるって流れに持って行こう。


「失恋したって誰に?お兄ちゃんまだフッてないよ?誰からフラれたの?」

「その、ある権力者から結婚?申し込まれて、それ断われ無いんだ。お兄ちゃんと結婚したかったけど出来なくなったんだ。だからごめんねお兄ちゃん。」

「そんな、お兄ちゃんじゃチカラになれない?嫌だよ君を諦められ無いよ。」

「ダメみたい。ごめんね、お兄ちゃん。」


するとお兄ちゃんは、悲しそうな声で語る。顔の表情が変わって無いから、半分くらい演技だろう。


「その男は最低だよ?権力を嵩にきて、女の子を独り占めしたいクソ野郎だよ?きっと異常なまでの変態だよ?僕はそんな事しないし、君を大事にする僕の方が良いよ?」

「うん、お兄ちゃんの気持ちは分かった。でもそうなったら、2人とも殺されるよ?お兄ちゃんは死ぬの怖く無いの?」

「怖いけど……でも諦めたくないよ。」


まあ、この程度だから気持ち完全に冷めたわ。あー寒いわ。


「死ぬのが怖いなら、ここでお別れ。ごめんね。」

「お兄ちゃんって呼んでくれないね。」

「ごめんね。」


こうして、別れた。なんか色々傷付いた。

死神の代紋の話受けよう。妙な事で決心付いた。権力あるくらいなら、アレよりは流石にマシだろう。



家に帰ったら、誕生日会の準備をしていた。ケーキを食べるのキツかったが、まあ誕生日会って言っても普段より豪華なご飯ってだけで、家族団欒って訳でも無く。自室に戻っていた。


戻って早々に死神の先輩から呼び出された。頭の中に直接伝達事項というか、集合場所が伝わった。


「場所が駅前のラブホって情緒もクソも無いな。」


両親に買い物行くって言って家を出た。時間は20:43だ。



ホテル前に着いた。周囲を見渡したら、あまり人はいない。見覚えのある人物がいた。ピンク色の姫カットちゃんだ。何してるんだ?まさか?


「こんな時間にホテル前にいるって非行少女だな?煙草吸う?あげるよ?」

「僕は吸わないよ?」

「いいから、事情は分からないが余程のことだろうから、煙草に逃げたくなったら逃げてもいいんだよ。」

「煙草に逃げる?」

「これから、嫌な事されそうなんでしょ?」


涙出てきた。この子優しい。


「ありがとう。貰っとく。」

「じゃあ、私は帰るよ。ぷかぷかー。」


泣いても仕方無い。涙を拭いていたら、次の伝達事項が来た。部屋番号だ。番号は201号と言われた。



ホテルに入りエレベーターで201号室がある2階に上がった。


201号室の扉をノックした。中に入ったら、夕方会ったネット恋愛していたブサイクなお兄ちゃんがいて、死にたくなった。


帰ろうとして、ドアノブに手を回したらロックが掛かっていた。逃げたいよ……


「夕方は失恋気分だったよ?あの時僕を選んでくれていたら、ね?」


お兄ちゃんが全裸で椅子に座ってる。確か、相手の男が異常なまでの変態って言ってて、僕はそんな事しないって……血の気が引いた。


「……」

「相手の男は異常なまでの変態だよ?って言って忠告したのにさ?僕を選んでくれてたらな、あーあ傷付いたなー。」

「やめて、嫌な事しないで、お兄ちゃん。」

「お兄ちゃんって呼んでも遅いかなー。」

「……嫌、やめて!」

「誕生日プレゼントだよ?沢山味わって食べるんだよ?今までで最高の誕生日だよね?」

「最低!」

「人を4人も殺したのに?罪を償うか〇〇〇を食らうか選ぶんだよ?選ぶのは自由だからね?」

「人間のする事じゃない!変態!」

「だって人間じゃないもん。奴隷として可愛がってあげるから、沢山お食べ。」

「嫌!」

「あの時言ったよね?相手の男は権力を嵩にきたクソ野朗だって!」

「死にたい!」



初めてだったのに、言葉に出来ないくらい酷い事された。人間のする事じゃないよ……


「ほら、酒でも飲んで機嫌治しなさい。」

「僕は煙草を吸うからほっといて!最低だよ!ケダモノ!僕の大切な初めてを返して!」


僕は煙草を吸ってみた。煙たいけど、胸がスーッとした。なんかボーってして、嫌な事忘れたいから逃げるってこういう事かって思う。


「初めてを返すか、それでもいいよ?ただし後悔するよ?いいのかい?」


煙草を吸い終わっていた。すると、何やらこのケダモノがスマホを弄ってる。


「次は、後悔の無い選択をするんだよ?」

「なんなの?次って何?」


何か思わせぶりな事を言っていたが、何も無くすんなりと帰してはくれた。


嫌な予感がしたが、早く帰らないと、両親から怒られる。



家に帰りベッドを涙で濡らす。最低最悪な誕生日だった。


目覚まし時計を見たら2018/07/05 0:00だ。


あんまりだよ……人間のする事じゃないよ……

あの声が聴こえる。また悪夢の日々が続くの?


『死神はこの世にいるのかい?』



目覚ましが、けたたましく鳴った。時刻を見ると愕然とした。またあの夢だ。目覚まし時計の横にはライターがある。

日付を見ると……


2020/07/04土曜日


僕にとって特別な日だ。

僕はこの日が来るのを心待ちにしてた。


「煙草を買ってみるか、酒も買おう。」


河川敷で煙草を吸いながら酒を飲む。


「死神は真実を食むってこんな感覚だったかな?」


あれから魔法は使わなくなっていた。というか使えなくなった。


あの最低最悪な夜を境に魔力が消えてしまって、お払い箱になった僕は解放された。


一体何で魔力が消えたのかは分からない。


河川敷で煙草を吸ってたあの子は見かけ無くなった。あの時以来の煙草は旨かった。


『嫌な事あったら煙草に逃げろよ?ぷかぷかー。』


橋の上から懐かしい声が聞こえた気がした。


-fin-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鎌をかける死神 天獄橋蔵 @hashizho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ