第65話 伝えたいこと
*
「なんの用だよ」
と言いながらも、彼女は部屋まで入れてくれた。
思わず俺は部屋中を見渡す。
「さすがはお金持ちのお嬢様だな......寮の部屋の広さの何倍だよ」
「フィッツジェラルドバンクの社長令嬢だからね。当然だと思うよ」
「つっても、あーしんちは商人の家だ。学級委員長の家はもっとスゲーだろ」
エマは面倒くさそうに言いながら、使用人へ向かって退室するようジャスチャーする。
部屋は俺たちだけになる。
エマが口を切った。
「で、わざわざミャーミャーから住所聞いて家まで来て、あーしに謝罪でも求めに来たってわけ?」
「お前にそんなもん期待していない」
俺は返す刀で言った。
「俺がお前に言いたいことはそうじゃない」
「じゃ、なんだよ」
エマが挑むような眼つきで睨んでくる。
この期に及んで生意気な態度。
でも今となっては彼女のそれも、自らの弱さをひた隠そうとする姿に見える。
俺は学校でのミアの状況をエマに伝えた。
「そうなんだ......」
エマは視線を落として顔を
「それをあーしに教えに来たんだな......」
「ああ。でも、俺が本当に言いたいこと、伝えておきたいことはそれだけじゃない」
「??」
「エマ。お前はこのままでいいのか?」
「......あーしに責任取れってことか?」
「というより...」
「じゃ、なんだよ?」
「エマとミアは友達じゃないのか?」
「......もうあっちは、そう思ってねーだろ」
「じゃあお前はどうなんだ」
「あーしは......」
「お前、このままじゃ一生後悔するぞ」
「な、なんでオマエにそんなことわかんだよ......」
「俺みたいに」
「えっ??」
「お前がジェットレディに憧れて国家魔術師を目指してたってことはわかってる。それは本気だったんだろ?」
「は?なんだよそれ?なにが言いたいの?」
「言いたいことはそれだけだ。フェエル、もう行こう」
呆気に取られるエマを置いて俺はそそくさと席を立ち、そのままフェエルを伴ってフィッツジェラルド家を後にした。
「ねえヤソみん。もういいの?」
帰り道、フェエルが戸惑いながら
「ああ。ついて来てくれてありがとな」
「そ、そんなのは、たいしたことじゃないけど」
「イナバも黙っててくれてありがとな」
「ふんっ。オイラが口出すことはもうないわ。しかし、本当にこれで良いのか?」
「なにが本当に正解なのかはわからないけど......でも、あいつが自分で動いて、自分自身でやるべきことなんじゃないかって。そう思ったから」
かつての俺みたいに、ならないために......。
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