第64話 罰

 *


 翌日。

 俺の予想は的中した。


「ネコミミビッチ」

「淫乱猫娘」

「盛り過ぎたメスネコ」


 いつの間にかそんなあだ名がつけられ、クラス内外でささやかれていた。

 ミアはミアで、相変わらず誰とも挨拶すら交わしていない。

 俺もフェエルもいよいよ陰鬱いんうつとしてくる。


「フェエル」

「うん。行こう」


 一日の授業が終わると、いそいそと帰り支度をするミアのもとへいった。

 ミアは俺たちを見てびくんとする。


「ふ、ふたりとも、なに?」


「ミア。話がある」


「ミアちゃん。気まずいとは思うけど、ちょっと話そう?」


「わ、わたしには、べつに話はないよ」


 ミアは鞄を抱えて逃げるように教室から出ていく。


「わたし、帰る」


「お、おい」


 俺たちが追いかけていくに従い、ミアは小走りになる。


「ミア!」


「だからわたしは帰るって!」


 走りだすミア。


「待てって!」


 ダメだ。

 追いつけない。

 

「こうなったら...」


 俺は白兎の首根っこをむんずと掴み、

 

「ラビットキャノン!」


 ブンッ!とミアに向かって全力で投げつけた。

 白兎はぴょーんと見事な弾道を描き、一瞬ふり向いたミアの顔面にガバッと着弾する。


「きゃあぁぁ!!」


 ミアが廊下にずべんと転倒した。

 俺たちはすかさず追いつく。


「小僧......」


 イナバの眼がギラッと光る。


「何さらしとるんじゃあぁぁぁ!!」


 今度は俺の顔面に白兎が飛びかかってくる。


「痛い痛い痛い痛い!」


「この罰当たりがぁ!神使の白兎に何をするんじゃタワケがぁ!」


 俺と白兎がギャーギャーやっている中、むくりとミアが頭を起こした。


「な、なんで、わたしを追ってくるの」


「そ、そんなの」


 間髪入れずにフェエルが応える。


「ミアちゃんのことを放っておけないからだよ」


「なんで?べつに友達でもなんでもないのに」


「ぼくは......楽しかったんだ」


「は?なんのハナシ?」


「ヤソみんとミアちゃんと三人で過ごした日、あったでしょ?すごく楽しかったんだ。たとえみたいなものだったとしても、ぼくには本当に楽しかったんだよ」


 フェエルの屈託のない言葉に、ミアは複雑な表情を浮かべる。


「だ、だから、なに」


「短い時間のことだけど、悪い思い出にしたくないなって」


 フェエルは切なそうにはにかんだ。


「ぼくのわがままかな」


 ミアの顔が一瞬困惑する。

 そこに俺が何かを言おうとすると、遮断するようにミアが大声を上げた。

 

「わたしのことは放っておいてよ!!」


 必死さがあふれるミアの声。

 彼女がそこまでかたくなになるのは、ただの感情の問題だろうか。


「ミア」


「放っておいてって言ってるでしょ!?」


「今はひとりになりたいって意味か?」


「ちがう!これは罰なんだ!」


 言ってからミアはハッとして口を塞いだ。

 言いたくないことを言ってしまったのか。


「やっぱり......悪い噂が立っていることは知っているんだな?」


「うん......」


「じゃあ、罰というのはどういう意味なんだ?」


「......悪いことをしたから」


「俺を貶めようとしたことか」


「うん」


「エマにやらされていただけじゃないのか?」


「でも、ヤソガミくんなんかいなくなればいいって、本気で思ったのは事実だよ」


「そ、そうなのか」


「この罰は受け入れなきゃいけないんだ。じゃないと国家魔術師を目指すことも許されない。わたしはエマちゃんの魔法を利用してヤソガミくんを傷つけてしまったから......」


 ......ミアの気持ちがわかってしまった。

 もちろん俺の中学時代の話とは全然違う。

 ただ、思う。

 俺の中学校生活はそのまま終わってしまった。

 ミアもそうなってしまうのか?

 わからない。

 わからないけど......。


「フェエル。行こう」


「ヤソみん?」


「行くぞ」


「行くぞって、ミアちゃんのことはもういいの?」


 当惑するフェエルをよそに、俺はミアへたずねる。


「ミア。ひとつ教えて欲しいことがある」


「わたしが言うことはもうないよ......」


「違う。そうじゃない。行きたい場所があるんだ」


「え??」


 そのあと。

 俺とフェエルはすぐに目的地へ向かった。

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