第58話 愚か

 ふたりの告白で、ふたりの関係性も含め、今回の事件の経緯がよくわかった。

 だからといって、言うべき言葉は思いつかない。

 同情はする。

 だけど、俺からしたら今回の事件は一方的なもらい事故のようなもの。

 トッパーたちと一緒にフェエルをからかっていたことも許せない。


「愚かじゃな」


 重い空気の中、イナバが辛辣しんらつに切り出した。


「エマ女子も、ミア女子も」


「イナバ?」


 おいおい。神使の白兎はいったい何を言い出す気だ?


「なにを...」


「小僧は黙っておれ。いいか?まずはエマとやら。お主はなぜ学校を辞めん?」


「は??」


「国家魔術師を目指すのを諦めたのなら、さっさと魔法学園など辞めて転校でもなんでもすればよかろう」


「そ、それは」


「本当はまだ諦めきれない。違うか?」


「!!」


「だからこそ、友であるはずのミア女子が気に食わず、ヤソガミ少年も貶めてやりたい。気持ちはわからんでもないが、本当の自分の気持ちと現実を受け入れられない者の甘えじゃな。違うか?」


「あ、あーしは...」


「それとも他にも何かお主を歪めた理由があるのか?」


「それは...!」


「お主はもうよい。次にミアとやら。お主はエマ女子と友達だったんじゃろ?」


「そ、そうだよ」


「ならばなぜエマ女子を、踏み外した道から引き戻してやろうとしない?」


「!!」


「お主の優しい性格もあるんじゃろうが、少なくともそれは優しさではない。お主もお主で自らの弱さに甘えとるんじゃ」


 ここでイナバが俺の頭にぴょーんと飛び乗ってくる。


「ヤソガミ少年は、自分を貶めようとしたお主らを助けた。それだけではない」


 今度はフェエルの肩にぴょーんと飛び移る。


「フェエル少年は、誰も味方がいない状況でもヤソガミ少年を信じて行動を起こした」


 再びイナバは俺の頭にぴょーんと戻ってくる。


「あとは自らの頭と心で考えるがよい」


 ......イナバの言葉は俺にも響いた。

 エマもミアも、イナバの言うとおり愚かだったんだろう。

 だけど俺だって、一歩間違えばどうなっていたかはわからない。

 また昔みたいな失敗を繰り返さないとは限らない。

 今回だって、フェエルが俺を信じて来てくれたからなんとかなったんだ。

 だからフェエルには本当に感謝したい。


「神使の白兎様はずいぶんと手厳しいね。幸いぼくたちはお褒めにあずかったけど」


 フェエルが小声でささやいてきた。


「そうだな。ところでさ」


「ん?」


「ありがとな」


「え?なんのこと??」


「いや、なんでもない」


「ええ?教えてよ」


「だからなんでもないって」


「なんかズルいよそれ!」


 そんなやり取りをする俺たちへ向けられたエマとミアの眼差しは、どこかとても寂しそうだった。

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