第57話 理由②

「えっ??」


 俺もフェエルも思わず面食らう。

 ギャルお嬢のエマがジェットレディに憧れて国家魔術師を目指していただって?

 いやそれはギャルへの偏見だ。

 それに大事なのはそこじゃない。

 

「目指していたってことは、今は目指していないのか?」

 

 ミアは気まずそうにエマへ視線を向けながらうなずく。


「そうだよね?エマちゃん」


「あーしは......」


 エマは目を伏せながら独り言のように口をひらく。


「挫折したんだ」


「何かあったのか?」


「ヤソガミ。オマエは知らねーだろーけど、あーしはもともと特別クラスの生徒だったんだ」


「!」


「でも、すぐにまわりのレベルについていけなくなって、特異クラスで拾ってもらったんだ」


「そうだったのか......」


「特異クラスは不良クラスって聞いていたから、ガチで不安だった。けど、レベルが低い分あーしでもやれんじゃないかって、頑張ろうって思ってた。最初は」


 エマが顔を上げる。


「なのになんでだよ?学級委員長とかセリクとか、なんであんなヤツらまでいんだよ?あいつらの魔法を見てたら、一気にやる気が失せてった。あーしには才能がないんだって」


 再びエマはこうべを垂れた。


「あーしの魔法は珍しいらしいけど、珍しいってだけだ。リュケイオンに入る前から薄々気づいてはいたけど、入学してから完全に思い知らされた。あーしには国家魔術師になるのは無理だって。ちっちゃい頃からの憧れだった、あーしのヒーローだった、ジェットレディ様のようになるのは絶対に無理だって」


 くっと下唇を噛むエマ。

 そんな彼女にミアが言う。


「だから、ジェットレディのスカウトで入学してきた特待生のヤソガミくんが憎かったんだよね」


「......そーだよ」


 そういうことか。

 やっと合点がいった。

 トッパーたちとは仲間っていうより、利害が一致したって感じか。


「そして憎かったのはヤソガミくんだけじゃない」


 さらにミアは哀しそうな目をして言った。


「わたしもだよね?エマちゃん」


「......」


「国家魔術師になる夢を諦めないわたしのこと、気に入らないんだよね?」


「......」


「友達になったばかりの頃のエマちゃんは、今とはまったく違ってた。明るくて優しくて前向きで、わたしの大好きなエマちゃん......。でも、いつからかエマちゃんは全然変わっちゃった。授業はサボるし、来てもまともに受けようとしない。気がつけばトッパーくんたちと仲良くなっていて、一緒にフェエルくんをからかって笑ってた」


 ミアはうっすらと悲しい笑みを浮かべる。


「わたしにも自分と同じようにグレて欲しかったんだよね?国家魔術師の夢なんか諦めて。でも、いくら一緒に授業をサボらせようと、わたしは国家魔術師を目指すことをやめなかった」


「あーしは......そんなミャーミャーのことがムカついてたまらなかった。だから、ミャーミャーんちのパン屋の経営が困ってるって聞いて、利用できるって思った。あーしに逆らえなくさせることができるって」

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