第54話 ヤソミ③

「あんな巨大な魔物を、たった一撃で......」


 ミアが唖然として言った。

 ジェットレディは銃を下げてクルッと振り向くと、

「加減はしたから、ヤツら落下してまだ生きているだろう。下に警察も来てるから、あとはそっちに任せる」

 短く説明してからニコッと微笑んで、懐からナイフを取り出す。


「大丈夫か?」


 ジェットレディに縄が切られ、ミアとエマが解放された。


「あ、ありがとうございます!」


 感激の面持ちで感謝するミア。

 国民的スター魔術師に救われ、さっきまでの恐怖も忘れたかのよう。


「まさか貴女に助けてもらえるなんて!」


「アタシは自分の仕事をしたまでだ。それに感謝ならまずそっちの小さい娘にした方がいい」


 ジェットレディは俺に視線を投げてきた。


「あの状況でも他者の身を思って行動する。中々できるもんじゃない。立派だぞ」


 いきなりジェットレディに褒められてしまった。

 嬉しいけど、どうしていいかわからない。


「あっ、い、いえ、そんな」


「リュケイオンの学生だよな?名前は?」


「えっ??」


「なんだ?教えてくれないのか?」


 あっ!そういえば今の俺はヤソミだったんだ。

 ヤソミとしては、ジェットレディとは初対面だ。

 

「あ、あたしはヤソミです」


「ヤソミ...か。アタシはジェット・リボルバー。て、知ってるよな」


 ジェットレディはアハハと快活に笑った。

 とその時。


「あ、あああの...!」


 いきなりエマが震える声を上げた。

 彼女の顔は、なぜか赤く火照ほてっている。


「どうした?」


 エマに顔を向けるジェットレディ。


「どっか痛いのか?」


「たたた助けていただき、あああありがとうございますぅ!こ、こここ光栄ですぅ!」


 懸命に感動を表すエマ。

 おおよそ生意気なギャルお嬢の彼女らしくもない様相。

 こいつ、本当にエマか?


「ジェットレディ様の魔法......すすすスゴかったですぅ!」


「キミもリュケイオンの学生だよな?」


「は、はい!ま、魔法科の一年生のエマ・フィッツジェラルドです!」


「国家魔術師の卵ってわけだな。なら一応母校のOGとして忠告だ」


 ジェットレディが人差し指を立てた。


「魔法は、使い方を間違えれば簡単に人を傷つけるものになる。エトケテラのようにな。強力な正義の力にもなれば危険な悪魔の力にもなる、それが魔法だ」


 彼女は胸にとんと拳を当てる。


「いいか?国家魔術師レース・マグスを目指すなら、絶対に忘れるな」


 それから再びチラッと俺を見る。


「さっきのヤソミのように、人を守るために力を使うのがイイな」


 ジェットレディはカッコよくウインクした。

 俺はあたふたと恐縮しながら、改めて思う。

 この人は本当に、強く優しくカッコイイ、みんなの頼れるヒーローなんだなあと。

 マジで惹かれるし、憧れてしまう。

 そんな中。


「そ、そう、ですよね......」


 途端にエマは表情を暗くして目を伏せた。


「エマちゃん......」


 その横でミアも同じようにうつむいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る