第52話 ヤソミ

「お前は何者だ!小娘ひとりで何しにきた!?」


 悪人たちが俺に向かって叫んだ。

 小娘と言いながらも警戒している。

 それはそうだろう。

 いきなり外から五階の窓をブチ破って侵入してきたんだ。

 どう考えても普通じゃない。


「まさか、このガキふたりを助けにきたのか?」


「ミアとエマを返せ。悪党ども」


「その制服......そうか。お前も魔法学園の生徒か。正義の魔術師にでもなったつもりか?」


 悪党どもは余裕ぶってあざけり笑った。


「たま〜にいるんだ。こういうヒーロー気取りのバカが」


 ヤツらからすればそう見えるかもな。

 そもそもこれはどう考えても警察案件。

 少なくとも直ちに学校へ知らせなければならない事案。

 なのに、気がつけば俺は、車を追って突っ走って単独でここまで来た。

 正義のヒーローを気取ったから?

 違う。

 ヤソミとなった俺の中の、猛々たけだけしい何かが抑えられなかったから。

 それはまるで、倭建命ヤマトタケルのように燃えさかる。


「ヤソミ!なんであなたがここに??」


 ミアが俺に向かって声を上げた。


「本当に一人で追って来たの!?」


「ミアたちが出ていったあと、あたしとフェエルも追いかけていったんだ。やっと視界の先にふたりを見つけたとき、ミアとエマはそいつらに車に連れ込まれていた。次の瞬間、あたしは車を追って飛び出したんだ」


「小娘!お前、走って魔導車を追いかけて来たのか!?」


 悪党のひとりが驚いて口を挟んできた。


「どんな脚力してやがるんだ!」


「それに関してはあたし自身もびっくりしてるけどね」


「なんなんだコイツは......」


「そんなわけで、ミアとエマを返してもらうぞ!」


 といって悪党があっさり解放してくれるわけがないだろう。

 

「小娘が。しつけが必要だな」

「ロテスコ様。コイツ痛めつけてやりましょう」


 案の定、悪党どもは武器を構えた。

 ロテスコという名のチョビ髭の男はステッキを持ち、残りの部下らしき二人は銃を構えている。

 あのステッキのほうは、おそらく〔魔法媒介装置アルマ〕。

 ヤツも魔術師なのか。


「ヤソミ!」


 ミアが心配に駆られて俺の名を叫んだ時、ヤツらが動き出した。

 男二人の銃が俺に向かって火を吹く。


 バーン!バーン!


 その刹那。

 瞬時に跳び上がった俺は天井に着地。


「なっ!?」


 面喰らう悪党ども。

 そりゃそうだ。

 やっている自分でも理解できない。

 ありえない俊敏さとアクロバットな動き。

 

「ハァァァッ!!」


 ダンッ!と天井を蹴って弾丸のように悪党へ襲いかかる。


「ぐはぁっ!!」


 ロテスコ以外の二人を、次の引き金を引く間も与えることなく蹴散らした。


「な、なんだその動きは!?」


 咄嗟とっさにロテスコはさっと跳び退く。


「ち、調子に乗るなよ!小娘!」


「つぎはおまえだ」


「そううまくいくか!」


 ロテスコがステッキを振りかざす。


「喰らえ!〔稲妻フルメン〕」


 ピカァッ!と閃光がまたたくと同時に、ステッキから放たれた魔法の雷撃が俺に直撃する。

 

「!!」


 全身にビリビリビリ!と電流が走る。

 ああ。程よい電気の刺激により、血流が促進され、筋肉のコリがほぐされ、き、き、きききキモチいい......!


「なっ!?効いていないのか!?」


「あああ!イイ!イイ〜!」


「クソッ!火力を上げてやる!」


「そう!もっと!もっとぉぉぉ!」


「この変態小娘がぁぁぁ!!」


 いったい何分何秒続いたのか。

 やがてステッキから放たれる電撃はガス欠になったのか、プスッと途切れた。


「ま、魔力切れだとぉ!?」


「あれ?もうおわり?」


「なっ!?お、お前はバケモノか!?」」


 ロテスコは完全にうろたえてステッキを下ろすと、横たわる部下たちへ怒鳴る。

 

「クソッ!オイお前ら!起きろ!」


「ろ、ロテスコ様......?」


「退却するぞ!」


「......えっ??まだ人質もいますしなんとか...」


「退却すると言ってるんだ!こういうイカれた女は相手にしても損するだけだ!」


「わ、わかりました!」


 ロテスコはダメージにフラつく部下たちを引き連れてドアへ駆けだす。

 悪党め。逃げる気か。それと美少女になった俺をイカれた女呼ばわりするな。

 

「逃がさない!」


 風のような素早さで扉へ回りこむ。


「お前たちは国家魔術師へ突きだす!」


「クッ!ならば」


 ロテスコは反対方向をチラッと見た。


「アレを使うか」


「ロテスコ様!窓からですか!?」


「やるぞ!」


 なぜか悪党三人はクルッときびすを返し、窓へ駆け寄っていった。


 飛び降りる気か?

 ここは五階だぞ?

 著しく身体能力の強化されたヤソミならともかく、フツーは大怪我するぞ?


「小娘!この借りは必ず返すからな!」


 ロテスコは窓から外に向かってステッキを伸ばした。


「〔召喚インヴォカーレ〕」


 次の瞬間、窓から見える空中の空間上に、幾何学的きかがくてきな円形模様がブゥーンと浮かび上がる。

 あれは...魔法陣だ!

 ロテスコはさらに続ける。


「エベニーレ!プテラス」


 今度は魔法陣からズズズズゥッと巨大な何かが出現する。

 それは、翼の生えた全長七、八メートルはあろう鳥獣。


「大怪鳥プテラスだ!」


 思わず叫んでしまった。

 俺はアレを見たことがある。

 そう。この世界に来て間もない頃、ヤソジマで見たヤツだ!

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