第51話 ミア・キャットレー⑥

「なんか言えよ!オイ!」


 エマちゃんはさらにわたしへきつく迫ってくる。

 その時。


「ぎゃーぎゃーうるさいな」


 おじさんが手に持ったステッキをエマちゃんに当てた。


「少し大人しくしてろ」


 次の瞬間。

 バチバチバチィッ!という音とともに、

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 エマちゃんの痛烈な悲鳴が部屋に響き渡った。


「大袈裟な声を上げるな。ロテスコ様の雷魔法で軽くしびれさせただけだ。お前は大事な人質だからな」


 後ろの部下のひとりが言った。


「ステッキはロテスコ様のアルマだ。本気を出したらこんなもんじゃない。痛い目を見たくなかったら余計な口はきくな」


「そんなわけだ。そっちのネコミミお嬢ちゃんも気をつけな」


 ロテスコがわたしを冷たく一瞥いちべつした。

 背筋がゾッとする。

 面と向かって犯罪者に睨まれたことなんてこれまでの人生で一度もない。


「あ、あ、あ......」


 エマちゃんは苦しそうにうめきながらぐったりとしている。

 ロテスコは濁った薄ら笑いを浮かべた。

 

「オイオイこんな程度で気絶するなよ?フィッツジェラルドの娘には脅迫の材料になってもらう必要がある。父親に向かって悲鳴ぐらいは聞かせてもらわんと困る」


「エマちゃん!」


「ネコミミお嬢ちゃんは良い商品になりそうだ。若い亜人の娘は買い手が多いからな」


 ......もうダメだ。

 目の前にいるのは本物の犯罪人。

 もうどうすることもできない。

 なんでわたしたちがこんな目に......いや違う。

 きっとわたしたち、罰が当たったんだ。

 これは悪いことをした罰なんだ......と、すべてを諦めかけた時。



 ドガァァァァン!!



 突然の爆音とともに信じられないことが起こる。

 板で固く閉ざされていた開かずの窓が、外からブチ抜かれた?


「な、なにが起こった!?」


 わたしたちだけじゃない。

 ロテスコたちも動揺を隠せない。

 やがて巻き上がる塵煙じんえんの中から......ひとりの姿が浮かび上がる。

 それは、リュケイオン魔法学園の制服を着た、黒い長髪をなびかせる小柄な女の子。


「あのは......ヤソミ!?」


 ヤソガミの元カノ、ヤソミが窓をブチ破って部屋に侵入してきた!?


「誰だお前は!本当に学生なのか!?ここは五階だぞ!?」


 途端にロテスコたちが血相を変えて警戒する。


国家魔術師レース・マグスなのか!?」


 ヤソミは、わたしとエマちゃんを一瞥してから、ぬらりとして口をひらいた。


「み〜つけた」

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