第41話/海上を飛んでⅡ
「向こう岸見えないけど……ほんとに行けるのこれ」
「わ、私を信じてください……多分……大丈夫です」
「多分って……まぁ後には引けないからいいけど」
スカカイラ村を後にした一行は海が見える崖へと歩いてきた。思ったよりも海は広く、向こう岸は全く見えない綺麗な水平線。
いや、目を凝らせばうっすらと対岸があるのが見えるがそれでもやはり遠い。
だからこそ、ルーシャの案で海上を飛び運んで貰うことを決断したにもかかわらず疑ってしまう。
無茶にも程がある距離なのだ。鳥ならばともかく彼女は翼を持つだけの魔族。飛べたとして三度海上を飛ばなければならないのにそんな体力が少女の身体にあるように見えないのだ。
しかしここまで来て最初の予定に戻すと言い出せばルーシャをがっかりさせるか、再び引き止められるか。
もう少女を信用するしかなさそうだ。
「はぁ……それじゃあまずはダイヤから連れて行って」
「え、ここはシルヴィが先じゃないの!?」
「私が先に行ったらダイヤに認識阻害魔法かけられないけど……まぁ遠くから見つけられて撃ち抜かれたいなら――」
「よしルーシャ! 私を連れてって!」
ダイヤを先に行かせるための理由を全て話すことなく、まるで自ら望んでいくようにルーシャの手を掴んで言った。
その顔には焦りが出ていた。もしもシルヴィが先に行った後に自分が海の上で襲撃でもされたらと考えたのだろう。
急に手を取られびくりと身体を震わせたルーシャだが、シルヴィの言葉を聞きダイヤを先に連れて行った方が良いと判断し何も言わずにいた。
いや、それもあるが少女はダイヤに聞きたいことがある。シルヴィがいる前では聞けないことのため、これを機に聞いてしまいたいと思っているのだ。故にダイヤの目を見て小さく頷いた後、後ろから抱き着くような形で抱えると隠していた翼を大きく広げ一瞬にして大空へと飛び立った。
おおっと一驚したシルヴィは直ぐに空を泳ぐように浮遊する二人に、周りから殆ど認識できなくなる魔法を付与する。
「そ、それじゃあ行ってきます」
その魔法の効果は術者と付与された本人たちにはわからないが、シルヴィの魔法を信用しなければ進めない。
口に溜まる生唾を飲み込むとダイヤを落とさないよう強めに抱え直し海上を飛んだ。
「あの、ダイヤさん。聞きたいことがあるのですが……」
空気を掴むように翼をはためかせて空を飛ぶルーシャは抱きかかえていたダイヤにぼそっと言った。
翼が空を切る音がうるさいものの、至近距離の声は流石に聞こえるようでルーシャの顔を見上げてどうしたのかと逆に尋ねる。
「その、ダイヤさんって昔シルヴィさんと一緒にいたんですよね……?」
「そうだよ。千年とちょっと前だけどね。それがどうかした?」
「い、いえ……そのシルヴィさんが大切な仲間って言った時びっくりしてたみたいなので……なにかあったのかなと……あ、すみません。おこがましいですよね……何も知らない私には関係ないことですし」
ルーシャが気になっていたのはドワーフの国でみたもの。シルヴィがダイヤのことを大切な仲間と言った際、実は驚いた顔を浮かべていたのだ。シルヴィには気づかれていなかったが、ルーシャはしっかりとそれを目撃していたらしく、過去に何かあったのか知りたくなったのだろう。
だがルーシャは当時のことを一切知らない。今は仲間であれダイヤとシルヴィのことも詳しくは知らない。そのためか、聞いて直ぐに怖気付いて聞かなかったことにしてと言わんばかりに謝った。
「そこまで言ってないんだけどなぁ……でもまあそうだね。向こう岸にたどり着くまで教えてあげる」
過去を話し始めるダイヤの負担にならないように、そして話を長く聞きたいという思いからなるべくゆっくりと空を泳ぐルーシャ。しかしただ話を聞くだけではなく、念のため周りを警戒している。認識阻害の魔法が付与されているとはいえ警戒を怠る理由はなく、仮に何か変化があったならばすぐにでも引き返す必要があるからだ。
「……で……しが……てる? ルーシャ大丈夫? 聞いてる? てかどんどんと高度落ちてない!?」
「す、すみません……警戒しながら空飛んでるので、話を聞こうとするとうまく飛べなくなるみたいです……」
翼で空気を掴み気を使いながら空を飛び、周囲の警戒。加えて人の話し。と相当頭を使う状況にダイヤの口から紡がれるシルヴィの話は当然入ってこない。ならばと聞き耳に集中すると翼を動かすことが疎かになってしまうようだ。
「あはは……マルチタスク苦手なんだね。まあ警戒に関しては私に任せて。あと気を使ってるみたいだけど、全然自分のペースで飛んでいいからね。それなら話も入ってくるでしょう?」
「は、はい……ありがとうございます」
逆に気を使われ恐縮する少女だったが、どうしてもシルヴィのことを知りたいのか彼女の言う通り自分のペースで飛ぶことだけに集中することにした。
「じゃあ、最初から話すね。私とシルヴィの――最期の時を」
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