第40話/海上を飛んでⅠ

「この後はその魔王を追うってことでいいよね」


「そうだね。フレアを助けたいし、ダイヤの力だって取り戻さなきゃだし……それになんで魔王になったのか聞かなきゃ。ただ……」


 一旦日を改め翌日。一夜で廃村と化したスカカイラ村の入り口に立つ三人はこの後の予定を相談していた。といっても昨日の出来事から既にどこへ向かうべきか、何をするべきかは決まっていた。


「ただあの後どこに向かったのかはわからないからまずは手がかりを探そうと思ってる。そのために先にフレアが学校を卒業した後に向かった魔術研究所に行こうかなって」


「そこって……」


「うん。前の私が行ってたところ。正直、反吐が出るけど……でも友達のためだから」


「そっか。でもそうなると結構長い道のりになるね。ドワーフの国には戻れないし……」


「ドワーフの国を経由しないならかなり遠回りになるからね。次の港はここからかなり遠いし」


 クリムアル大陸に入った際の港があるのはドワーフの国を経由しなければたどり着かない場所にある。ドワーフの国に戻ることのできない三人にとってそこに行くことは不可能に近い。となれば海沿いに歩き、次の港へ行く必要があるため研究所がある場所へと向かうならばかなりの道のりになる。


 更にその港町までは休まず歩けば一ヶ月ほどでたどり着くが、旅においてそう簡単にたどり着くことはない。


「早速出発しよう。ゆっくりもしてられないし」


 シルヴィが足を進めた途端ぐいっと後ろに引っ張られる。振り向くと小さな手で服を摘まんでいるルーシャが俯いていた。


 何か言いたげに上目遣いでシルヴィを見つめ、しかしいざって時に言葉が出ないのか口をパクパクと動かしては目を泳がせて困った表情を浮かべている。


 しゃがんで少女と目線を合わせてゆっくりでいいと言わんばかりに軽く頭を撫でてやると、考えを纏めたであろうルーシャはようやく言葉を発した。


「あ、あの……海の向こうですよね……それなら私が運べば……行けると思います。ほ、ほら私、翼あるから飛べると……思いますし」


「そういえば翼あるんだもんね。でも結構な距離あるから大変だと思うよ? 船なら早く着くだろうけど、人を抱えながら飛ぶとなると相当時間も掛かるだろうし」


「ですが! ……えっと、その、お友達を助けたいんですよね!?」


 シルヴィの言うことは確かに一理ある。船ならば揺れるため体調が悪くなる人も中にはいるが、それを除けば楽に海を渡ることができる。それに陸を歩くよりは全然早く目的地にたどり着くことだってできるのだ。そのため次の目的地は港町で今からそこに向かおうとしていたのだ。

 

 無論それは殆ど知識のないルーシャにだってなんとなく理解していることだ。それでも珍しく大声を出すほど少女は彼女たちを引き留めて必死に海を渡ることを勧めてくる。


 確かにルーシャが言うように空を飛べるルーシャが彼女たちを運べばわざわざ次の港町へ行くこともなければ、早くて数時間、遅くても数日で向こう岸までたどり着けるだろう。だがそれはルーシャが本当に飛べて、なおかつ人一人を抱えて空を飛ぶほど体力があればの話。もしも海上で力尽きれば誰も助からないのが目に見えている。くわえて向こう岸まで飛べたとしてもあまりにも目立ちすぎる。万が一にも船が近くを通り目撃者がでれば、ドワーフの国だけでなく様々な人から狙われることになるだろう。それだけ人は魔族を敵対視してるのだから。


 だが、目立つことも大変であることだってルーシャは理解している。自分が周りの人とは違って魔族であり狙われることがあることもここ数日シルヴィと共に行動してわかりきっていることなのだ。それでも自分のことを考えず彼女の友人のためにと体を張ろうとしている。


 内気な少女が自身に降りかかるであろう危険を知っていてもなお、こうして勇気を出して提案を持ちかけてきたのだから無下にはできない。だからこそシルヴィは確認のために聞いた。


「本当にできるの? 海上を飛ぶのはかなり危険だし、見られたら狙われるんだよ」


「わ、わかってます……ですが、シルヴィさんの友人を放ってはおけませんし……時間を掛ければ掛けるほど手に負えなくなって後悔することになるかもしれませんし……その、私が犠牲になれば友人さんが助かる可能性があるんですから」


「……わかった。そこまで言うならお願いするね。でもこれだけは言わせて」


 確認をして正解だった。そう思わざるを得ない言葉がルーシャから放たれて息を吐くシルヴィ。少女の勇気に重んじてルーシャの力を借りることを決断したのち、むっと頬を膨らませると唐突に少女の額にデコピンを喰らわせた。


「今度からは『自分が犠牲になれば』なんて思わないこと。君は魔族だけど、それ以前に私たちの仲間。君が犠牲になったところで君の変わりはこの世に誰一人として存在しないんだ。だから自分のことを絶対に軽んじないで」


「わ、わかりました……すみません……」


「わかればよろしい。さてと、今勝手に話を勧めちゃったけど、ダイヤもルーシャに運んでもらうでいいよね? 嫌ならダイヤだけ歩きになるけれど」


「今の流れで拒否する人なんていると思う? てか置いてかれると私だけ何日も歩くことになるじゃん! それは不公平すぎるよー!」

 

 仲間であるダイヤを置いていくなんてことは絶対にしない彼女だが、しんみりとした空気を和ませるためにわざと冗談を言って和ませ、海が見える場所まで移動するのだった。

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