第37話/さよなら。私の憧れの人
「ヴァルルクは手を出さないで。あとこれ持ってて」
「魔王様の仰せのままに」
戦うにしてはあまりにも狭すぎると、一度村のみんなとルーシャ、ダイヤを置いて村の外へと出る。フレアにとっては村などどうでもよかったが、せめてもシルヴィが戦いやすいようにと思ってのことだろう。
村から少し離れたところで、ダイヤから抜き取った力たる石を店主こと、ヴァルルクへと渡し戦闘には手を出すなと命じる。やはり彼はフレアの部下で間違いなさそうだ。とはいえ彼から感じる異様な魔力以外は人としか認識できず、部下だとわかったところでも彼が魔族であるとは思えない。
不思議に思っていると、フレアがそれに気づいたのかヴァルルクに指を指して口を開いた。
「ああ、彼はヴァルルク。あれを含めて村の人は全部
「ゴーレム!? まるで人なのに……それに村の人全員……?」
ゴーレムを作る魔法は昔から存在する。かといってまるで人そのものを生成することは今でも不可能な技術だ。せめて作れても形が悪かったり、人形のように関節や腕、足などがパーツとして別々に存在し形を作っているものになる。また言葉を理解し、話すことも自我を持つことも絶対にないのだ。
なのに村の人を含め、ヴァルルグは自分の意思で動いているようにしか見えない。そう思わざるを得ないのだから、シルヴィにはまず再現が不可能の魔法であると決定づける発言だった。
「まあわからなくて当然よ。さて、始めましょうか」
フレアがとんでもなく強く、そして自分でも至らない場所まで行ってしまったことに戸惑いを隠せないシルヴィ。その戸惑いによって彼女の言葉にワンテンポ反応が遅れ、自分が
「ぁ……く、一体、何が……」
起き上がろうとしたところで腹部に強烈な痛みが走った。起き上がって手を添えてみればぬるっとした感覚が手に伝わる。何が起きたのか未だに理解できていなくとも、それが何かなど嫌でもわかる。けれど確認するまではそれが血なのかはわからず、体を震えさせて恐る恐る手を見てみれば案の定赤く染まっていた。
一瞬で腹部を切られたことに自然と息が上がり、嫌な汗がじわりと全身から噴き出して服が肌に張り付く。だがそんなのは気にならないほど今の現状の整理が追い付かず、されど傷を、血を、痛みだけは認識できる。刹那今度は強い衝撃が全身に響き、再び地面に吸い寄せられるように倒れこんだ。
「まさか一回目耐えるとは思ってなかったけど、今ので最後みたいね」
「あ……く……」
今度は体に力を入れずとも走る激痛が全身に突き刺さり、痛みのせいで殆ど身動きが取れなくなっていた。特に足の感覚は無く、呼吸を苦しそうにしていることから足とあばらの骨が折れているのは間違いないだろう。
そんな重体のシルヴィを何食わぬで淡々と見下ろしてくるフレア。一体彼女が何をしたのか見当もつかないが、こうなってしまってはもはやフレアに勝てる気が湧いてこない。
「い、一体……何をしたの……」
「シルヴィも良く知るものよ。そうね、貴女が使う魔法でいうと……【
「時空魔法……!? そんな、だってあれは魔力の消費が……それに使える人なんて」
「ええ、貴女を除いてその魔法を使える人はいないわ。でもそれは魔法ならの話」
フレアがやっていたのは、時を操ってその隙に魔法で攻撃していただけだった。だが時の魔法は膨大な魔力を消費する。そのため学生の頃のフレアならば絶対に扱えるはずもない魔法で、仮に魔力が上がり使えるようになったとしても連続で使用するのは無理に等しくあり得るはずがない。
ならばどうやって彼女は時を止めてシルヴィに攻撃したのか。その答えは未だにシルヴィを見下ろすフレアの口から放たれた。
「魔族語で
「まさか……魔族語で時を……」
「ええ。でもこんなのもわからないなんてね。……だから言ったのに、私の方が強いって」
原理を知ったからこそ起き上がったとしても再び時を止められて攻撃される可能性が高い。かといってシルヴィが時を止めようとしたところで、発動までの時間で反撃される。つまりどう転んでもシルヴィが負ける状況だったと知らしめられた。
別に魔王になったフレアのことを舐めていたわけではない。むしろ魔王になったのならばこそ本気で挑んで彼女を止めようとしていた。しかしその志は儚く散り残ったのは悔しさだけ。
「……それじゃあ、今日はこの辺にしてあげるけど、もし次邪魔したらその時は遠慮しないで殺すから」
「待って……待ってよ、フレア……!!!!」
無情にもかつての親友を負かした彼女は踵を返し、激痛の走る体に鞭を打って手を伸ばすシルヴィの声を無視して歩き出す。ヴァルルクの下にたどり着くと「さよなら
「くそ……くそ……! フレアなんで……うっ、あぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして誰もいなくなった荒野に残されたシルヴィは、仲間の力を取り戻せなかった悔しさと、フレアが魔王になり自身が負けてしまった悔しさで何度も地面に手を打ち付ける。悔しさのあまり空を仰ぐ彼女の目からは涙が絶え間なく流れ、泣き叫ぶ声だけが
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