第29話/大切な仲間のためなら

 数分前。カラットがルーシャに連れられてシルヴィから離れたあとのこと。


「シルヴィ……武器ないのにどうやって戦うつもり? ただでさえ媒体の剣もないのに……死ぬ気なの?」


「そ、その……シルヴィさんのことわかってるんですか?」


「まあね。さっきちらっと話してたけど、私たちは転生してここにいるの。で、転生する前、私はシルヴィと他の仲間と共に一緒に旅をしていたんだ。その時もシルヴィは剣を媒体とする魔法剣士として戦ってたけど……」


 住人が周りにいないことを確認しながらカラットは過去の話を何の躊躇いもなくルーシャに語る。シルヴィと一緒にいたから信頼しているのだ。最も口が多少軽いことも理由の一つにあるが。


 カラットとシルヴィの過去を聞いたところで、シルヴィがピンチであることはよくわからない。聞いたのが間違いのように小首を傾げるルーシャは別の質問をする。


「ま、魔法使いなら、その武器とかなくても」

 

「いやそうでもないんだ。魔法使い魔みんな何かしらを媒体にして魔法を使うんだ。偶に武器なしで魔法使う人もいるけど、自分の身体を媒体とする魔法使いで……っと話がそれたね。まあそんな感じで、シルヴィは今、剣を持ってないから魔法は実質的に使えない。使えても殆ど効果が出ないんだ」


「不便ですね……」


 彼女の言う通り、現在シルヴィは武器を持っていない状態で魔法は使えていない。そのためか重たい攻撃を繰り出す巨体の兵士サインズの攻撃を避けるように逃げている。傍から見ていても彼女が追いやられているようにしか見えず、反撃もできない状態に苦しんでいるのも目に見えるほど。もって三分だろう。


 どうにか隙ができれば或いは。とは考えるが隙ができたところで魔法が使えない状態では意味がない。


 どうする。どうするどうするどうする。


 シルヴィの体力が続く少ない時間がない中でカラットは親指の爪を噛み考える。


 自身がダイヤであることを完全に公にして捕まれば、シルヴィは少なくとも助かるかと考えても、本当に見逃してくれる確証はない。ダイヤの知るサインズは仕事熱心ゆえ、一度決めたことは絶対に曲げないのだ。脅しをかければその場はやり過ごせるだろうが、その後のことはどうなるか不明。


 回収してきた素材で剣を作ることはもちろん、折れた剣をつなぎ直すことは耐久以前に時間的に間に合わない。そもそも工房に辿り着いて引き返すまでには決着が付いているだろう。


 だが、かといって皆殺しには出来ない。お世辞だとしても大切な仲間と未だに思ってくれている彼女を、死なせたくはない。そう思っていても見るだけしかできない今がとてもむずがゆく、仲間を救えない自分に苛立ちを覚える。

 

「あの、その……あの兵士の剣に付いてるあれって何ですか……?」


 突然ルーシャが申し訳なさそうに聞いてくる。視線をシルヴィからサインズの大剣に向ければ、確かに柄の部分にきらめく何かがあった。

 

「あれは魔石。自分の力が増す身体強化の魔法が刻まれた魔石。でも今そんなの気にしている場合じゃ……」


 大剣に嵌められていたのは白く輝く魔石だった。その剣自体作ったのはカラットだからこそ、その魔石の中に入っている魔法のことをよく知っている。この戦闘でサインズが圧倒的な強さで優勢になっている原因の一つだ。だがたったそれだけでこの戦況を変えられるものではなく気にするものではない。


 はずだった。


「ルーシャって言ったっけ」


「え、は、はい」


「ありがとう! 大事なこと思い出せたよ!」


 隣にいたルーシャの肩を掴み笑みを浮かべて礼を言うカラット。その後カラットは自身の工房へと走り始めた。


 今から迎えば確実に間に合うことはないが、それは普通に向かったらの話。だが、何らかの方法で大幅に時間短縮することができるなら。


 そう、それこそ彼女が思い出した大切なこと。


 洞窟で採取しポケットにしまい込んでいたカーバンクルの無色宝石を一つ取り出して魔力を込める。


 カーバンクルの宝石には属性毎の魔法が刻まれており、その魔法は一度きりかつ発動するまで何が発動するかは不明。それでも、彼女が取った無色は身体能力系がメインである無属性。そのため一か八かではあるが足が早くなる魔法を発動できれば工房にある武器取ってくることは可能だと考えたのだ。


 工房へと走りながら速度系の魔法が来ることを願った直後、握った魔石がバキンと砕け魔法が発動する。


 しかし発動したのは残念ながら身体能力強化系ではなかった。それでもカラットの想いはしっかりと届いていたのか、落胆しそうになった彼女の前に、大きな空間の歪みが生成された。


 発動したのは転移門という転移魔法の上位にあたる空間魔法の一つ。

 

 転移魔法同様に移動限界距離こそあるが、制限時間以内ならば何度でも確実に行こうとしたところに繋いでくれる魔法。その確実に行けるというメリットの分、門を潜ると転移酔いしやすいというデメリットがある。そのためこちらも使う人はいないが、今ここで彼女の力となった。


 門の時間制限は約十秒。発動した最初は固まってしまいロスしていたが、直ぐに門を通り手頃な剣を片手に取ると、再び行先を思い描いて門を潜る。


 流石にギリギリだったためか多少誤差が生じ、現れたのはシルヴィ達の真上。それもシルヴィが尻もちをつき、もうすぐで決着がつくという場面の真上に現れたのだ。


 しかしカラットとしては実に都合のいい場面。サインズに気づかれずにシルヴィの前に立って守ることができるのだから。たとえそれで周りにカラットはダイヤであると知られてしまっても、構わない。


 サインズが大剣を振り下ろした刹那、カラットはその攻撃を受ける形で大地に足をつける。瞬間周囲が見えなくなるほどの土煙と攻撃のとてつもない重たい衝撃が身体に響くが、彼女は何事もなかったかのように立ったままだ。


 少ししてサインズの攻撃により舞い上がった土埃が薄くなると丁度振り返ったサインズと目が合う。その顔はまるで化け物でも見たかのような顔でカラットが、いやダイヤがそこに立ちなおかつシルヴィを無傷で守って見せたことに驚愕しているのがよくわかる。


 そんな彼の質問で何故そこにいるのかを問われ、ドヤ顔で返答を返し現在に至る。


 フードが脱げ、サインズの問いに答えたことで自分がダイヤであると証明をしてしまった。そのためか、ドワーフの民がより一層騒がしくなる。それでもダイヤは仲間を助けることを優先し、周りの声など気にしない。


「シルヴィ。反撃の時間だよ」

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