第27話/大切な仲間は渡さないから
直ぐに追いかけて来たのはルーシャ。暫くしてカラットがシルヴィの元へと駆けつけた。
外に出て気分を落ち着かせたことでカラットが戻ってくるまでには体調は回復しているようだった。しかし思い出してしまったトラウマは直ぐに消える訳ではなく、げっそりとしたまま洞窟の入口付近で座り込んでいた。
「見ないうちに随分とやつれたね……本当に大丈夫? 死臭そんなに無理だっけ」
「大丈夫……じゃあない……無理」
「まあ大丈夫だったらそうなってないよね……とりあえず素材は取ってきたからもう大丈夫だよ。とはいえ……その調子だと今後の旅辛いものになると思うけど」
カラットの言い分は確かに一理あるもの。たとえ人ではなく魔物の死臭であってもトラウマが蘇るのならば今後の活動に支障がでるのは間違いは無い。シルヴィ自身もまさかあの光景が蘇るとは思っていなかったようで非常にまずい状況であることは自覚している。
「そうだね……自分でもまさかこうなるとは思ってなかったよ……きっとそれだけ……」
ぽつりと呟く少女。その言葉を聞けた者はいない。
少しして体調が回復したシルヴィはすっと立ち上がる。改めて自分の失態に詫びを告げて一行はドワーフの国へと戻った。
「ダイヤ様! ようやく見つけましたよ!!?」
「うぇ!? ひ、ひひひひひ人違いじゃないかな」
ドワーフの国へたどり着いて早々に鎧を着た大男が彼女たちの前に立ちふさがりカラットの腕を掴む。初めてドワーフの国に入った時よりも兵士の数は増えており、慌ただしさが増しているのが垣間見える。住人もなにやらざわついており、何かしらの問題が発生しているのは確かだろう。だが明らかに兵士はカラットを指名して捕まえている。彼女と関係しているとするならば国規模の問題としか考えられない。
国規模だとしても彼女からすると面倒な物。だからか焦りながら人違いであると主張している。けれど焦りすぎである意味隠せていない。
「それは無理がありますよダイヤ様!? さ、
「人違いだってば!」
「何を言いますか! フードで隠していても
隠せていないとはいえ半ば強引に手を引いているように見える。ガタイ的にも大男の方が力が強く痛みでカラットが自棄になっているように見える。だが大男がカラットの細い腕を力一杯引いているのに彼女は微動だにせず、まるで地面に力強く根を張ったように動かない。
いやカラットの力は本気を出せば大地を砕くことくらい余裕なほど。その力を持っているのに兵士に振るわず拒んでいるのは力を出せば自ずと自身がダイヤである証明を、ドワーフの民の前で証明してしまうと。そして一人の兵士が大勢の前で死ぬ可能性があると考えているためだ。第一彼女がダイヤであることを隠して町の中に潜んでいたのは、大工房を開くためではない。ドワーフの人々が感じている上の立場に対する不満を同じ立場で聞くためだ。
実際皇女であると知らせ不満を聞けば間違いなく虚偽の話がでたり、殺意を持ったものに狙われる可能性が非常に高くなる。それらを考慮して身分を隠し、工房を持つことで広がる交流からドワーフの国の修繕点を洗い出していたのである。
カラットがそんな民思いで心の優しい人物であることをシルヴィはよくわかっている。対して兵士は何年も見てきたと主張しているにも関わらず民衆の場でその力任せな行為だ。カラットのことをよく理解していないと言っても過言ではないだろう。なにせ民衆を利用して反論できない形でこの行動をしているのだから。
「兵士さん。それ以上は見過ごせないよ。人違いって言ってるんだし痛がっているように見えるけど」
「なんだ君たちは! これはドワーフの国の問題だ。関係のない人間は
「だとしても一国の兵士が慌てて人様の腕を思い切り引っ張るのはどうかと思うんだけれど。それもこんな民衆の前で」
「そんなものは知ったものか! さ、ダイヤ様! こんなものは放っておいて早くいきましょう! お父様がお待ちですよ!」
「人の話は聞いた方がいいよ」
自分勝手にも程がある大男の腕を強くつかみ、彼の手を離そうと睨みながらカラットが痛がっていることや人違いだという設定に乗っかるが、相当な自信があるのかシルヴィの話は一切聴く気はないようだ。
そこで今一度彼の手を強くつかみ、微弱ながら電流を流したことで怯ませることに成功していた。
「貴様……! 今何をしたのかわかっているのか! 一国の兵に手を出してただで済むと思うなよ!?」
「あのさぁ私が悪人みたいに言うけど、今のこの状況を見たらどっちが悪いかわからない?」
「もちろん貴様だ! この方はダイヤ様、この国の皇女でありドワーフの国を救える唯一の英雄なのだぞ!」
あまりにも話にならない。先程から聞いていれば言葉が足りなさ過ぎて彼が何を伝えようとし、そして何故カラットに紛したダイヤを連れ戻そうとしているのか理由がなさすぎる。
兵士の方は自分の方がこの場で立場が一番上だから下の者に説明など不要だとでも思っているのだろう。もしそうならばカラットや民衆の気持ちを踏みにじっているとしか思えない。
「はぁ話にならない。カラット行くよ」
逆にシルヴィがカラットの腕を引いてその場から離れようとする。大男の引きとは違いすんなりと少女の歩みに合わせるカラット。フードを被っていてわかりにくいがシルヴィに手を引かれたことに驚いており一瞬足取りがおぼついていた。
しかしそれがどうにも気に食わないのか、大男はその場を去ろうとする彼女たちの前に立ちふさがり、腰に据えていた重そうな剣を抜き取ると、顔を覆っている兜の隙間からでもわかるほど鋭い目でこう言い放った。
「どこの馬の骨とも知らないが、大人しく眺めていればいいものの、まさか一国の兵の前で皇女を攫うとはな! 兵に手を出すだけではなく皇女を攫おうとした。これは極刑に値する! この
「市民の前で物騒な物抜くってどんな教育受けてきたのこの兵は……はいはいわかったよ。でも
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