第13話/転生の証

「その瞳は君の魔力を増幅させる力、魔法を書き換える力がある。覚えがあるだろう? 例えば発動した魔法が強化されていたりとか、別のものになっていたりとか。」


 確かに少女は一度、発動した魔法が強化され大変なことになった経験がある。だがそれはもちろん親意外に誰にも言っていない。なのにまるで見てきたかのように言い当てられてぎくりと体が反応し、硬直する。


 しかし、その頃から眼帯はつけていた。もし視覚で捉えている状態でそれが発動するのならば、矛盾が発生する。


「まさか」


「気づいたみたいだね。そう、この眼帯はだ」


 矛盾が発生する。ならば矛盾を潰すように思考を変更して考えてみると、答えは至って簡単だった。


 目で捉えているものではなく、身体の中に流れる魔力による変化。そう考えれば目で捉えなくとも効果はでる上、その力の副作用で目の色が変わっていると考えることも出来る。


 それに気づいた様子を見てニコニコしている彼は、ポケットから蒼色の宝石があしらわれたネックレスを取り出した。

 

「そこで君にこれを授けよう。魔力制御のネックレス。これをつければ制御しやすくなるはずだよ」


「は、はあ……でもなんでその、わかったんですか?」


「ああ、オレは触れた人の魔力とか能力とかが当日中ならわかるんだ。ほら、今朝君に触れただろう? だからミス・ディレクトも看破したってこと。まぁ流石に五重の拘束魔法を同時行使してくるとは思ってなかったけどね」


 それはクラスに突然現れて決闘を申し込んできた時。シルヴィの秘密をボソリと言ってきた時だ。シルヴィは全く気づいていなかったが、その際に少女の手に触れていてその後秘密をあばいた。という訳だ。


「ちなみに他にも転生した人がいるみたいなんだ。それも決まって何かしらの力を得て、オレの能力もそれだからね」


「ってことは、もしかして」


「あー君が言わんとしてることはわかるけど、あいにく誰が転生しているのかどこにいるのかはわからないんだ」


 他にも転生者がいることを話し、知っている範囲でもその人物たちの名を言った。しかしシルヴィが知る名は彼の口からは聞き出すことはできなかった。けれど転生者を見分ける方法としてあることを教えてくれていた。


 彼が踵を返しうなじを見せてくる。そこにはナイフで切ったように綺麗な傷があった。だがえぐれている様子はなく、傷のような痣は鮮明な青さを保っていた。まさにシルヴィの目と同じ色。

 

 そしてその色が体のどこかにあるのならば、転生してきた人で間違いないと彼は言ってきた。


「とにかく、今後君の知り合いを探すなら今の体に刻まれた蒼茨天啓印エンドブルーを探すといいよ」


「エンドブルー……」


「ああ、オレが勝手に言ってるだけだよ。一度死んで、青色の印がついて転生した。だからエンドブルー。まあ何事にも名前は必要だろう?」


 再び踵を返して少女の疑問に、にへっと軽く笑みを浮かべるハベル。確かに名前を付けることで認識を深くすることができ、話し合う時も意思疎通しやすいもの。だからといってなんでもかんでも名前を付けることはないようだが。


「さてと、ネックレスつけてあげるからじっとしてて」


 話しが弾んだのち、握ったままだったネックレスをつけるため、屈んだハベルがシルヴィの後ろへと腕を回した瞬間。


「な、なな、何やってるのよ変態ッ!?」

 

「不純異性交友は許可した覚えがありませんが!」


 なんといいタイミングでルミナとフレアが待機所にやってきてはそう叫んでいた。

 

 事情を説明しようにもできないうえ、今シルヴィは眼帯を。幸いシルヴィからみて横に二人がいるからいいものの近づかれるとかなりまずい。


 だがそんな状況でも揺るがずに手を動かすハベル。ネックレスをつけ終えたところで変な勘違いをしているフレア達にこう言った。


「シルヴィは魔法の制御がまだ未熟だったから、それを補助できるネックレスをつけてあげただけですよ」


 シルヴィを隠すように立ち上がった彼は密かに取った眼帯を返却し、何をしていたのかについて答えていた。


 彼の言葉の裏で時間稼ぎをしようとしているのを感じ取った少女は、急いで眼帯を受け取り身につける。


 その瞬間、間をかいくぐってシルヴィの元へと歩み寄って来たフレア。一歩遅かったら目を見られていたと思うほど心臓が嫌なくらいに高鳴った。


 そんなことは知らずにフレアは尋ねる。


「シルヴィ本当に何もされてない? 穢されてない? 大丈夫?」


「心配が過剰だなぁ……大丈夫だよ先輩が言ってたとおりだし。でもそう言われるほどのことを先輩は犯したんですね」


 鼻で笑うように、しかしゴミか何かを見るように引きながら言うと、慌ててハベルがそれを否定する。とはいえただ冗談で言ったものだからか、焦る彼の様子に直ぐに笑いが起きて、ネックレスをつけていたことや話していたことは聞かれないまま解散となった。


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