第14話/魔族語Ⅰ
「これは……」
翌日、登校して直ぐ机の中に一枚の紙切れが入っていた。魔法を覚える学校故、たくさんの教科書はなく入れても魔導書。だが大体机の上に置きがちのため机の収納スペースはほぼ活用されていない。
だからこそシルヴィは見知らぬ物をすぐに取り出して、それの正体を確認していた。
と言っても一見するとただの紙でしかなく、折りたたまれていることに気づき丁寧に開く。するとそこには紙切れいっぱいに魔法陣が描かれていた。みたところ魔法陣を構成する文字と模様意外は何も書いていない。
しかしその魔法陣は精密に描かれているのに構成文のうち一小節が抜け落ちていた。
「なにそれ。シルヴィが描いたの?」
「わぁっ!!」
「なにもそんなに驚かなくても……」
一体何が抜けているのかと頭を悩ませていると突然背後から声を掛けられる。声の主は隣の席のフレアだ。
いつもはシルヴィよりも先に登校していたフレアだったが、今回はシルヴィよりも後だからこそか完全に不意を突かれている様子だ。
「それで、それはなに?」
「あー……うん、誰かのいたずらだと思う」
紙に書かれていた魔法陣は特殊なもの、そうとは知らない人が見てはいけない代物なのだ。だからこそ即座に隠してしまう。
「え、隠さないで見せてよ」
「ダメ」
「なんでよー、むぅ」
「見てもわからないだろうし……」
頑なに見せずにいると小さく頬を膨らませて不機嫌になり、そのまま横に座った。しばらくむすっとした調子が続いているが割と直ぐに機嫌が直ったようだ。
可愛らしい横顔だが不機嫌なのは正直気まずく、機嫌が回復したのは幸いだった。
だが、昼休みに彼女は再び頬を膨らませることとなる。
「シルヴィ! 食堂行きましょう!」
「ごめん。今日は無理。この後用あるからパンで済ませる予定だし」
「むぅ……今朝から連れないわねシルヴィ」
「それじゃあまた後で」
「あ、ちょっ! ……もう……」
フレアから離れて購買のパンを片手に向かったのは屋上。そこで待っていたのは先日シルヴィに決闘を申し込み負けたハベルだった。
「やぁ、来てくれたんだね」
「来てくれたもなにも、これ師匠のですよね。この魔法陣の構成文は【シュヴァイゲン・フェー・ヒンメル】だけど、フェーはガイスト、最後にフォーアラードゥングじゃないです?」
彼女が言った構成文は、普通
「ご明察通り! いやぁ衰えてないねぇ。さすが魔法の申し子とも呼ばれたシルヴィだ。でもその魔法陣が何を召喚しようとしているのか、そしてどうしてオレがここにいるってわかったのかまでは――」
「これは
「そこまで読まれると怖いね?」
とはいえ何故シルヴィが読めているのかといえば昔ハベルに魔法と共に魔族の言葉を叩き込まれたため、知識があり耐性もあるからである。彼女自身の目的を達成するためには必要だったからこその賜物だ。最も転生した際にその耐性が無くなっている可能性はあったが。
「それで? なんでわざわざ回りくどい方法で、しかもバレると割と面倒なものを私の机の中に入れたんですか? というか下級生の女子の机に変な物入れるとか正気の沙汰じゃないですよね、通報していいですか?」
「待て待て待て。君というやつは本当にオレに対してあたりがきつい時あるよね。どうにかした方がいいと思うよ本当に……」
「今更だと思いますけど、それに割と貶しても喜んでいるのは誰ですか」
彼女自身いつものように元師である彼を貶しつつも話をすると、いきなり態度を改めろと言われるとは思っていないだろう。昔から彼に対してはこれくらいの距離感だったからこそ、その言葉に溜息を吐いた。
ハベルもハベルで、そこで言い返せばいいものの言い返さずに何のことかさっぱりと言わんばかりに目を泳がせて焦りながら話題を元に戻した。
「そ、そうだ。オレが君の机の中にそれを入れて呼び出した理由だったね……情報交換したいのさ。オレからは今の魔族の情勢。オレは今は人間だけど、魔族の知識を使えば魔族のこと知れるからね。そして君はオレが死んだあとに起きた情報。君だって知りたいだろう?」
「まぁ……アデルがまだ生きてるのは何となく感じますけど、どうなってるのかはわからないですからね」
「……本当に魔王様をそうやって呼ぶの君くらいだと思うよ。言うなれば王様と市民だから馴れ馴れしく話せば誰だろうと死ぬのに……まぁいいや交渉成立ということで」
それから限られた時間でいくつか情報を交換する。
ハベルはアデルキアが今、魔族の驚異になり得る者を始末しようと動きつつあること。そしてもう時期魔王の世代が変わるということ。
対してシルヴィは魔王との戦いで起きたことや、アデルキアも共存を望んでいたということ、またこれだけの時がたち、色々と魔法が研究されている今でも恐らく人側の勝算はないということ。
それら以外にも話し合いお互いの知識を共有する。そうすることで争いがなくなる未来を切り開ける可能性があったからだ。とはいえお互いの知る知識はかなりの量で一週間もの時間を費やした。
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