第12話/グングニル
そこからは少女が宣言した通り圧倒的な速さでハベルを押し始めた。小さな身体であることを利用して小回りを聞かせて手数を増やしているのだ。
だがただ単に物理的にやっている訳ではなく、魔法の力もある。身体能力強化を足の傷を治すときに付与したのだ。
それでも全ての斬撃を見切っているかのように弾くハベル。だが同時にシルヴィに反撃の隙は一切なく守りしかできていない様子だ。
「やっぱりこうでないと面白くないね!」
それでもなお苦の表情を見せず、逆に活き活きと目を輝かせていた。
戦いが激しくなる一方、安全な場所で『立会人』をこなすフレアは少しの間口を開けながら驚愕していた。
何せシルヴィが消えた瞬間、ハベルの懐に入っており攻防は殆ど見えないに等しい状態で見えていたのだから。
「あのシルヴィと互角に戦うなんてハベル先輩って一体何者なの……」
次元の違う戦いを前にして、まず思ったのはそこだった。フレアが体験した時よりも遥かに強く、激戦を何度も経験してきた面影があるほどシルヴィの実力を感じているのに、それを易々と受け流しているように見えているからだ。
それもただ単に戦闘慣れしているというレベルでは無い動き。だからか傍から冷静に見て何者なのかという予想のひとつに、ハベルもシルヴィと同じく転生してきた可能性を導き出した。
だが証拠がない以上、その可能性が確信になることはなかった。
とはいえこのままでは『立会人』としての役目などほぼ無意味。ならばとフレアはその時が来るまで二人を観察し、速さになれることを心がけ始めた。
だが次の瞬間、一際大きな衝撃音が鳴り響き2人の動きがピタリと止まる。完全に鍔迫り合いの状態で力比べになっていた。しかしその状態も長くは続かず、先に硬直を抜け仕掛けたのはシルヴィ。剣を弾いた衝撃を利用して後ろへと飛ぶとハベルに向かって持っていた剣を投げた。
しかしそれは彼に傷を負わせることはなく、寧ろ弾き飛ばされ更に遠くへと転がっていく。どう見てももう打つ手がなくなったやけくそ混じりな投擲かのようにしか捉えられないが、そう思ったのならば彼女の手中で転がされていると言えるだろう。なにせそれは剣を弾くという
「おっと……これは不味い」
彼がそれに気づいた時にはもう遅く、地面や空中から伸びる拘束魔法がいくつも複雑に絡み身体を捕縛されていた。
一種だけなら彼の実力を持ってすれば脱出することは可能。しかしこの短時間で五種類の魔法で拘束となればそう簡単に脱出などできない。足掻いて一つ解除したとて、さらに重ねられる可能性も、拘束を破ることで発動される魔法がある可能性もあり完全に身動きを封られたのだ。その事実に漸く焦りを見せるハベルだがまだ試合は終わっていない。
「空は曇天に空気を震わせ
後ろへと飛びつつ複雑な拘束魔法を行使した少女は、休む暇なくその長い詠唱を唱え再び投擲の構えを行う。すると投擲のために掲げた右手からバチバチと弾ける音が鳴り、やがて白い稲妻で構築された槍が手中に収められていた。
そしてそれが勢いよく放たれるやいなや、雷鳴が耳を劈いて、まして瞬きの暇なく、ハベルの頬をかするようにして壁に突き刺さった。
「は……ははは! なるほどそう来たか……うん、降参だよ」
グングニルを外したのは、わざとである。流石に命中させると行動不能どころの話ではなくなるからだ。
それにはハベルもお手上げ。完全に拘束され身動きができない中でもしも貫かれていたらと考え直ぐに降参の言葉がでたようだ。
「しょ、勝者シルヴィ!」
一瞬の出来事で思考が停止していたフレアが言った。観客がいればここでワッと歓声やらどよめきやらで盛りあがっていただろう。
「にしても本当に強くなったものだね」
戦闘が終わり、お互いが待機所の中心にある椅子に座って身体を休めているとハベルがそう問いを投げてきた。
「まぁあなたと同じで転生してきてますし」
「ははっ! やっぱり気づいていたんだね」
「……魔王アデルキアの幹部であり、私の師ハーベルト。魔王討伐任務、通称魔法戦争で死んだ……ですよね」
「大正解! でも気づくの遅すぎてオレ傷ついちゃった」
「相変わらず大袈裟すぎて気持ち悪いですね……」
フレアが先生の元へと報告に行っている間にその話を繰り広げる二人。
シルヴィが言った通り、ハベルは昔シルヴィに魔法を教えていた
といってもその時は魔族であることをシルヴィは知らず、ハベル自身はシルヴィを利用しようと考え育成していた。無論それは失敗に終わり、魔王に戦争を挑んでいた時に死を体験。そして今に至る。
ちなみに失敗に終わったのは長らく魔法を教えていたことで、シルヴィのことを特別な弟子として大切に思ったために利用することをやめたのだ。
そしてシルヴィが彼の元を去った後に人の手で殺された。
という悲惨な歴史が彼にある。それでも人を恨まずこうして人として生きているのは、人に化けて過ごしていて人の良さを知り、温もりを知ったからである。もっとも今は魔族ではなく完全に人だが。
「さて、答えがわかったところでもう一つ君に教えておこうか。あの子が戻ってくる前にね」
彼がシルヴィの前に立つと、すっと手を伸ばすと少女の眼帯を外した。直ぐに何をされたのか理解した少女は彼の手を掴む。それでも手を止めることはなく少女のか細い腕を払うように眼帯を奪う。
すると少女の眼帯が隠していた宝石のように輝く蒼色の瞳が露わになり、まるで秘部を見られたかのように目を隠し顔を赤らめるシルヴィ。今まで見せるべきではないとして隠してきたからこそ恥ずかしさが押し寄せてきたのだ。
「いや、見ないで……」
「いや、別に恥ずかしがることはないよ。その目のことを君に知っていてほしいからね」
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