4-7 コルゴエ崩壊
一体どうしてこんなことに……。
点々としながらも存在していたはずの民家などは潰されていて、地面も焼け野原のように黒ずみ、硬いところにはヒビが入っている。
町はまさに壊滅状態。町の人々は逃げられたのだろうか、それともこの被害で……嫌な予感がよぎる。
「確かギルドはこの辺に……」
ツデレンは小走りで、元々ギルドがあったと思われる場所へ向かった。大きな施設だったためか、周囲より土がわずかに盛り上がっているように見える。
「グゲン……フルス!」
盛り上がった地面に杖を向け、ツデレンの呪文が唱えられる。ギルドをかたどっていた破片や屑物が徐々に再生していき、ギルドは建物としての形を取り戻した。
「中に誰かが下敷きになっているかも。私は他の家を直すから、2人は中に人がいないか探してみて」
いつになくはきはきとして、ツデレンは俺たちじ指示を出す。
「おう! ジョーマーサ、手分けして探すぞ。ツデレンの呪文だと建物を復元しても多分もろくなっているから、あんまり走ったりしないように」
前に武器を復元した時、一度呪文を使うだけで再び壊れるほど、もろくなっていた。今回もきっとそうである。建物が元に戻ったからといって安心はできない。
「わかりましたわ。お任せください」
ジョーマーサはこくりとうなずいた。
***
音を立てないように静かに歩きながら、二手に分かれてギルドの中を観察する。夜が近づき、だいぶ薄暗くなっていたが、全く見えないわけではなかった。
建物内の備品や資料などは黒こげのままである。ツデレンの呪文は、大きな規模のものを完全に治せるわけではないようだ。
緊急時であるため、普段は見られない受付の奥をのぞいた。すると1人の女性が倒れていた。
「ユチルス!」
「う、うう……。あれ、ここは……?」
すぐさま回復させると、女性は意識を取り戻す。頭を押さえながら上体を起こして、俺のほうを見た。
「大丈夫ですか?」
受付の台を乗り越え、改めて安否を確認した。
「ええ、ドラゴンみたいなのに襲われて……ギルドに逃げて……、その後覚えてないけど、今は平気よ」
受け答えはできている。もともとは埋もれていたはずだが、重症ではないようだ。
「それは良かったです。ドラゴンについて詳しく教えてくれませんか?」
「あなたプレイヤーさんね。鮮やかな色で、虹のようなドラゴンだったよ。すっごい大きくて、それがなぜか突然ギルドの前で現れたの」
「虹みたい、すごく大きい、突然現れる……リリロイト・ドラゴンか」
リリロイト・ドラゴンは、表面が7色のウロコで覆われたモンスターである。ウロコの色合いは飾りではなく、光を上手に反射することで、自身を隠すことができる。この能力により、モンスターの中では最大級の大きさであるにも関わらず、周囲から気付かれることが少ない。
「でも、あくまで姿が見えなくなるだけだからギルドに来る前に気づくはずか……」
さすがに近くにいたら音や地響きで存在を察知できるだろう。ギルドに来るまで誰も気付かないなんてあるのだろうか、ギルド付近は比較的人が多いのに。
「とにかく、俺と俺の仲間でこの辺に逃げ遅れた人がいないか調べます。他の町で助けを呼ぶことをお願いできますか?」
不可思議な状況ではあるが、考えても答えが出るわけでない。俺は避難を優先した。
***
ギルドで見つけられた人間は彼女だけだった。他の建物も探したが人はいない。
辺りはすっかり暗くなり、これ以上の捜索が難しくなったため、ツデレン、ジョーマーサと合流した。2人から話を聞いたところ、共に他の人は見なかったという。
「その人の話だと、リリロイト・ドラゴンの可能性が高いと思う」
俺は女性から聞いた話を端的に伝え、今回の騒動を起こしたと思われるモンスターの名前を出す。
「リ、リリ……!」
モンスター名前を出した途端、ツデレンの顔が引きつった。
「どうした?」
「いや……別に。それなら人を食べちゃったのかも」
顔を青くしたまま、ツデレンは顔を下に向ける。
「ええっ!? この町の人を全て……?」
「中にゆっくり消化するからまだ希望は……希望は……」
ツデレンの体が震え続けていた。あからさまに恐怖を感じている。確かに話だけでも恐ろしいが、異様な恐れようである。
「ではそのモンスターを見つけましょう! 勝って他の方々を助けるのです!」
ジョーマーサは拳を胸の前に出して気合を入れる。
その時、地面が揺れた。
「なんだ!?」
一定の間隔で地響きは続く。それはどんどん大きくなり、自分たちの何倍もの重量を持つ生物が近づいていると分かる。
「リュウウウウウ……」
低く重々しい声が聞こえた。見上げると7色のウロコを身にまとう、翼の生えたモンスター。
まさしくリリロイト・ドラゴンである。ウロコの輝きの共鳴するように、黒く染まっていた空も、淡い7色の光を帯びていた。
「リュウウウウウ!!」
ドラゴンは首を下げ、俺たちに向かって雄叫びを上げた。吐いた息の風圧は凄まじく、吹き飛ばされそうになる。
「マナダン!」
足に力を入れてふんばり、魔球を放った。
「リュウウウウウッ!!」
攻撃が……当たらない……!
風合に押されて、攻撃が届くことすらなかった。
「リュウウウ……!」
俺たちの存在を察知したようで、ドラゴンはその場で足踏みを始めた。地面に足が着くたびに爪が光り、横に広がる衝撃波が飛んできた。
「ぐああああああああああっっ……!」
「きゃあああああ!!」
「ぐっ!? うぐうううぅぅぅ……ぁ!」
なされるがまま衝撃波を受け、俺たちは吹っ飛ばされる。硬い地面を転がり、全身に打撲の痛みが走る。
「ユチルス!」
「リュウウ!!」
回復をした直後、今度は手の先の爪から衝撃波が飛んでくる。攻撃自体が素早く、攻撃範囲も広い。避けることは不可能だった。
「うわああああああああああっ!!」
再度さなれるがまま、攻撃を受けることとなった。衝撃波に押しつぶされ、うつ伏せに倒れる。
「ぐはっ……! あ、ああ……! ユチルス!」
背中が焼けるように熱い……! 回復で手一杯だ……攻撃に転じられそうにない……。
「ダメだ……いくらなんでも分が悪すぎる……。ここは一旦退くぞ!」
「無理だ……逃げきれない……」
ツデレンは膝を地面につけたままぼう然としていた。戦意どころか逃げる気力すら失っていた。確かに桁違いの強さではあるが、少しでも生き残る可能性を模索しないなんて彼女らしくない。
「ではわたくしがおとりになりますわ!」
ツデレンの不自然さに困惑していた間に、ジョーマーサが走り出してしまった。
「第1の術、ユチダン!」
再び上から来た衝撃波に対し、ジョーマーサはあらかじめ回復用の球体を出すことで対抗した。
「ううっ……! この程度では、負けません……!」
しかし相手の攻撃は強かった。ジョーマーサはよろめき、杖が手から離れてしまう。回復はできたが、その後の衝撃の余波がダメージにつながったと思われる。
「マズい! ユ……」
「リュウウウウウッッッ!!」
回復しようとした時、ドラゴンは耳から緑色の液体を噴射した。
「うううううぅっっっ!! あ、あああっ! て、手があぁ!?」
液体のかかったジョーマーサの手がドロドロと溶けていった。痛みはないようで苦しんではいないが、顔が恐怖でゆがんでいる。これまでのジョーマーサらしくない慌てようだった。
「なんじゃありゃ……ツデレン! 頼む!」
俺の呪文はあくまで代謝を向上させて傷を急速で直しているだけ。失った腕を再生するのはツデレンの呪文でないとできない。
「…………」
しかし、ツデレンは顔を青くして固まっていた。
「ど、どうした……?」
「ごめんなさい……、ごめんなさい……!」
ツデレンは弱々しくつぶやく。頭を抱えて体を丸め、尋常ではない汗が湧き上がっていた。
相手は確かに恐ろしいが、何故ここまでおびえているのか……ただ強い相手に対する恐怖ではない、もっと別の何かがツデレンを支配しているのだろうか?
「あ、ああ……! あああ……!」
大粒の涙を落としながら、ツデレンが人差し指を前に出す。
差した指の先を見ると、ジョーマーサがドラゴンに食べられていた。
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