3-7 服装一新!
豪華な屋敷で一夜を過ごし、翌朝。
イロエとミカジキから、戦いのお礼に服と武器を弁償したいと言われた。モンスターに壊された装備はツデレンの呪文で元通りにし、1日置けば問題なく使える。
断る選択肢もあったが今の俺たちは服も武器も安物だ。どうせならこの機にもっと良いものに変えようと決めた。
買う場所はブキルー装堂。俺とツデレンが初めてジョーマーサたちと会った場所である。開店直後のあまり人がいない時間帯にジョーマーサを含めた5人で建物に入った。
入ってすぐのところに服売り場がある。肌着から上着までそろっていて、その商品数はかなりのものだ。
この職で戦うならこの服、なんて決まりは特にないので、ここから選び放題である。
「うん。これ、なんかいい感じだ」
ロープ売り場にあった白いローブが俺の心をつかむ。前の服と見た目は酷似しているが、ところどころに金色の模様が入っていてやや豪華だ。何より頭巾が付いていて、頭への攻撃を守れるのが魅力的に思えた。
触り心地も良い。きっと一流の加工職人が作ったのだろう。
「でもこれ……やっぱ高いんじゃ……」
値札を見ると案の定だ。質を考えたら安いかもしれないが、庶民には手を出しづらい。プレイヤーは大量の報酬を得られる高所得者と言われるが、出費も多い職業なのでそういった実感はそうそう湧かない。
「気にすんな。遠慮されるとむしろアタイらの気が済まない。これまでかなり稼いでいるから金はある」
俺の小言に対し、ミカジキが肩をたたいた。
「じゃあ、これで……」
別に高いものを選ぶつもりはないが、気に入ったのでこのローブに決定した。
白い服を着ていると落ち着く。何か理由があるわけではなく、無性に心が温かく包まれる気分になる。
早いところ武器も買い替えてギルドに向かいたい。せっかく3人目の仲間ができたのだから、前回拝めなかったジョーマーサの実力を確認したい。
待ち遠しくて体がソワソワする。
「ツデレンはどんな感じだ?」
「う~ん。ちょっと悩んでて……」
気になったと思われる服を何着も壁に掛けて並べ、ツデレンが口をとがらせている。
「相性の差を少しでも埋めるために、土属性攻撃の耐性が欲しいけど、なんかねぇ……」
対モンスター用の服には、受ける攻撃の得意・不得意が存在する。セッカケラの加工の仕方によってその相性が変わるらしい。
「水属性の服……ダサい」
ツデレンが手に取ったのは、青と白とワンピース型の服だった。土に耐性を持てる水属性の服である。
肝心の見た目だが、横の縞模様が安っぽいというか、幼稚な印象を受ける。小柄なツデレンにとっては、子供っぽく見える格好は余計気に入らないのだろう。
「あーあ、どうしよ」
「同じ水でもこういうのあるじゃん。これなら似合うんじゃないか?」
縞模様のワンピースの隣には、少し大人びた黒を基調としたスーツがる。いかにもツデレンが好みそうなものであり、俺はそれを手に取った。
「それは大きさが合わない」
「あ、そっか……」
スーツはツデレンの体格よりひと回りほど大きかった。好み、機能、大きさ……服装選びには様々な制限がある。簡単に決められた自分は運が良かったかもしれない。
「シジューコさん。わたくしの格好はいかがでしょうか?」
ジョーマーサに声を掛けられる。彼女も2人から服と武器をもらうらしい。
「どおっ……!」
ゴクりと、唾をのんでしまった。
光沢のある赤いドレスは胸元がかなり開いていて、中身が今にもこぼれ落ちそうだった。スカート部分も大きな切れ目があり、脚がきわどい位置まで露出している。
「わたくし……他人より胸囲が大きめでして、似合っていますか? 気に入っていただけましたか?」
腋を絞めるとより一層、胸部が強調される。
奥底から不純な気持ちが湧き上がっていく。仲間をいかがわしい目で見るわけにはいかない……! グっと歯を食いしばって気持ちを抑える。
「わたくし……シジューコさんの望む格好がしたいです」
理性がもう負けそうになる。強い……今まで戦って来たどんなモンスターより強敵だ。
「いいにゅ! 素晴らしいにゅ! こっちの方が男受けいいにゅ!」
イロエが俺とジョーマーサの間に割って入った。手に持ってきたのは布面積の小さい、上下に分かれた水着のような服だった。
確かにこれを着たジョーマーサを見てみたい、でも……これで旅は無理だろう……。
「……バッカみたい。バカバカ」
さすがに実用性に乏しすぎると思ったのか、ツデレンも口を出した。
「まぁ、どうしたのですか? ツデレンさん。似合う服がないからといって、わたくしに当たられても困ります」
ジョーマーサは胸を張り、得意げな顔をする。
「はぁ? こっちは性能も含めて考えているんだ。何も考えなければ似合う服なんていくらでもある!」
ムキになったツデレンは走って奥のほうまで行ってしまった。
少しして、ツデレンは動きづらそうなドレスと共に戻ってきた。
「どう? 似合うでしょ」
青系の色をふんだんに使ったドレスは紫髪との調和が凄まじく、その美しさはジョーマーサに勝るとも劣らない。
しかしスカートは足元が隠れるほど下まで広がり、裾を引きずって歩いている。キラキラとした頭の飾りも同時に身に着けていて、試着が許されたことが不思議に思えた。
「うわっ……それ1番高いヤツだろ! 金は気にするなって言ったけど限度があるぞ!」
ミカジキの顔が青ざめる。この辺りの服と桁が違う値段であることは、確認せずとも容易に想像がつく。
「でもかわいいにゅ。こういうのも大好きだにゅ」
対するイロエは、自分が払うにもかかわらず、そのことを全く気にせず鼻の穴を膨らませていた。
「ジョーマーサ、せいぜいアンタは陳腐な色仕掛けでもしているんだな」
肘を曲げたまま腕を上げ、ツデレンは俺の肩に肘を乗せる。無理やり乗せたせいで、腕はプルプルと震えていた。
ジョーマーサは眉を落として唇をかむ。彼女の心情は分かりやすいほど顔に出ていた。
「わたくし……負けていられませんわ。好敵手として!」
ジョーマーサも、似たように走って奥のほうまで行ってしまった。
少しして、ジョーマーサは動きづらそうなドレスと共に戻ってきた。
底の厚い靴を履いたらしく、ジョーマーサは頭が天井にスレスレになるほど高い位置にあった。床を見ながら恐る恐る、綱を渡るかのようにゆっくりと移動している。底の厚い靴で無理やり背丈が伸びたようにしているのだろう。
「シジューコさん、いかがですか? 大きい女性はお好きですか?」
大きいの意味が違うような……。戦闘どころか日常生活にも支障を来たしかねない格好だ。ツデレンが着たもの以上に高そう……そもそも、販売している品なのかも怪しい。
一体どうやってこれを見つけたのか、解決しそうにない疑問が浮かび上がった。
「あ、あぁ……」
ミカジキは白目を向きて泡を吐き、仰向けに倒れてしまった。
「中ってどうなっているのかにゅ……ひひひっ……!」
イロエはジョーマーサのスカートの中に入り込む。
「クッ……あんなのアリなわけ!? 私だって負けてらんない……!」
再び、奥のほうに走っていくツデレン。真面目に性能まで考えて選んでいた彼女はもうそこにいない。
「2人とも……真面目に選んでくれぇ……」
暴走する彼女たちを止める術を俺は持っていない。
結局、服選びだけで1日が過ぎてしまった。
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