贖罪
アオーフルの全てが僕に突き刺さった。この邑で生きる人のことなど何も興味なく、ドラゴンを見たいがためという残酷な無関心のまま聴罪を引き受けた僕には、彼女にかける言葉はとても見つけられなかった。ただそこに立ち尽くした。
何かしてやりたかった。ドラゴンのことしか考えてなかった愚かさの罪滅ぼしのように。
そこで収監所を出ると、できる範囲で部族で力を持つ人を紹介してもらい彼女の状況を説明したり同情を誘ってみたりしてみたが全て徒労に終わった。
「ではあなたは他の誰が水刑にふさわしいと?」
そう問われ、僕は絶句した。5年ぶりの水刑のためにすべてが動き出していて、止めることはできなかった。彼らの中ではアオーフルの罪がどれほど重いか軽いかなどまるでどうでもよいようで、アオーフルは後ろ盾のない誰も守ろうとする人のいない孤独な存在だった。彼女は部族にとってしてはならないことをした、それは罪であり、罪を告白して聴罪師に移してしまったらあとは罰をうけるだけというこの流れを止める術はなかった。
だが、あの日の聴罪は十分ではなかったと執拗に訴えることで、僕はもう一度アオーフルと会う機会を貰うことができた。
その日、彼女は前よりもずっと静かで落ち着いて見えてそれがより僕を動揺させた。彼女は言った。
「あなたはオニキスドラゴンを見にこの地方に来たんでしょう?実はわたしもちゃんとは見たことはないの。この地方に住んでいても、背中だけとか首だけとかなら勿論あるのだけど全身を見る機会は珍しいのよ。だから、あなたがしっかりと綺麗に見ることができるように願ってる。あなたが望み通りドラゴンを見ることができることが、今の私の夢。ようやく一つ夢ができたから、思い残すことがなくなった。ありがとう」
そしてアオーフルは、僕にさよならと言うと、そのまま連れて行かれた。
夜のネッカール湖の濃度の高い乳白色の湖面がピンクデューンの三つの衛星に照らされ鈍く輝いていた。処刑台で生きたまま磔にされている彼女の姿を確認する。僕がすべきことはただ一つで、闇ルートで彼女を星外に逃がすための書類の手配は既にできていた。
そうすることが僕の贖罪だった。
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