2

 昼食の場所をどこにしようかと思いあっちあっち、あの気になってた店、道をぶらぶらと歩く。さっき来た路地を直進し、大通りに出て違うそっちじゃない、何度か行っているファミレスに行こうこっちだってば。と思った矢先、自分の中の情動に引っ張られる。

 心だけが先走ってあっちだったかもどんどんと私を置いていこうとする感覚。自分の半身だけが伸び、体と心が引っ張られるような妙な感覚に私の体は自然と吸い寄せられる。

 大通りを外れて、またも路地に進みながら、なぜか私は焦っていたあっちだったっけ?。また、この感情を私は見失ってあの道を左だしまうかもしれない。また私は情動に対して鈍感になってしまうのかと焦り、それを必死に追った。


 感情に引っ張られ向かった先は、小さなカフェだった。今の家に引っ越して来た時、最寄り駅周辺を散策していた時に見つけたお店。個人の住宅の一階を改装してお店にしたような、隠れ家のようなお店だ。庭には一つ、古い木目のテーブルと椅子のテラス席ここだここがある。まるでここに座れと言わんばかりに、そこになぜか心が居座っているような気がする。

 数分駆けただけだが、日中座りっぱなしの私にとっては重労働だった。もう足が疲れて私も座りたくてしょうがないわかる。いや、誰のせいだと思ってるんだ。

 私は木製の大きな扉を開け、店内に入った。「いらっしゃいませ」と言う店員さんに外のテラス席を指差し、居座る心に従い腰を下ろす。

 住宅街の中ではあるが、よく手入れされた 背の高い植物や花に囲まれた静かで落ち着くこの場所はなぜだか現実世界の中に現れた異世界のようにも見えた。席の上に置かれた、調度品。見ると砂糖が入った瓶もアンティーク調可愛い、欲しいの色合いで、自分好みだった。

 まだ何も注文していないと言うのに、私はすでにこのお店が好きになりつつあった。気になっていたけれどずっと忘れていた。さすが私の情動だだから言ったでしょ。私のことをよくわかっている任せなさい

 昼食を食べに来たことを思い出して、私はメニューからランチセットのクロワッサンサンドこれこれ、前から気になっていたのセットを注文した。

 先に入れたてのコーヒーが運ばれて来たので、マグカップを口に運ぶ。仕事中もよくコーヒーは飲むが、いつもはカプセル型のインスタントのものばかりだ。それに比べ、淹れてもらったコーヒーの美味しさは何倍も苦さが違う美味しい!!!

 コーヒーを堪能していると、クロワッサンサンドが運ばれてきたいただきます!。パリッと焼き上がったクロワッサンにベーコンと卵やレタスが挟まれているいいから食べよう。それを私は一気にほおばった。ジュワッとベーコンの汁が口の中に広がり、パリッとした食感がそれを包み込んでいく。止まらずもう一個もう一個私は咀嚼して味わう。サンドは二つもあったのに、気づいたらどちらも平らげてしまっていた……デザートも欲しい

 締めにチーズケーキを頼み、一緒にコーヒーをおかわりして、昼下がりの落ち着いた時間をゆっくりと味わうずっと居たい。こんなに満足感のある昼食を取ったのは久しぶりな気がする。最近は冷凍食品まあまあ美味いけどコンビニ弁当結構美味いけどしか食べていなかった。

 これもハゴロモのおかげだった。宇佐美さんに言われていた"できるだけいつもの一日"とは変わってしまったけれど、変化の中で私の情動も活き活きとしている気がする。それに、思った以上に自分の心はわがままらしいそんなことはない

 ずっとこのお店に来たいと思っていた自分の気持ちには申し訳ないことをしてしまったなと思う。同時に、先へと自由に進む、自分自身の心が少し羨ましくも感じた。その情動もまた自分自身なのに、不思議だ。ちょっとだけ悔しい。


 そんなことを考えていたら、2時間近くもカフェでゆっくりと過ごしてしまった。程よい満腹感に満足し、店員に「ごちそうさまです。また来ます」と伝え、先ほど駆けてきた道を戻る。

 ふと家の冷蔵庫の中身が空っぽだったことを思い出したそういえばそうだった。せっかくだ。今日はスーパーに寄って帰ろうそうしよう。地域密着型の小さいスーパーだけど品揃えは良い。最近はコンビニしか行ってなかった。確か食パンも買ってなかった気がする。

 心に追い付かれないように、と運動不足の足が少しだけ駆け足気味になる。もっと早く。足の疲れはすっかり取れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る