第41話 高高度までのシャトル防衛戦ー③

『シルバー・ブレイズの稼働率が40%を割った! 射撃戦を続けたら、確実に負けるよ?』


 一体化しているアリスの声に、首を縦に振った。


 もはやFCS(火器管制)は役立たずで、『シルバー・ブレイズ』の動きも悪い。


 シールドバリアー越しに当てられた左肩は、かろうじて動くだけ。



 シャトルの発着場に降り立ったまま、『インフィニット』と位置を取り合う。


 相手はまだ出力があり、シャトルと発射台、周りの機材を利用しての接近だ。

 黄色のビームを避けつつ、早登はやとへ迫る。


 お互いに、目立たないよう、薄いグレー。


 1年のナンバーワンを決める戦いにしては、地味だな?


 青いビームソードを伸ばして、『インフィニット』に斬りかかる。


 相手も黄色のビームソードにより、俺の斬撃を受け、近接火器で撃ってきた。


 半身になることで火線を避け、同時に前へ詰める。


 ヴォオオンッ!


 空振りでも、ビームソードの圧力はすごい。


『くっ!』


 焦った早登は、それでも冷静。


 自分の黄色いビームソードで受け流し、チャンスがあれば斬りかかる。


 だけどな?



 ホバー移動をしつつ空中へ舞い上がり、ポジションを変える『インフィニット』は、少しずつ後ろへ下がっていく。


 どうして!?


 そう言いたげな表情に、心の中で答える。


 お前は、サーキットの中で戦ってきた。


 なるほど。

 命の危険もあるバトルで、際どい接触もあるだろう。

 

 しかし――


「レースは、殺し合いじゃない」


 いっぽう、これは模擬戦とはいえ、れっきとした殺し合いだ。


 PS(パワードスーツ)は兵器。



 最小限の動きでかわそうとした『インフィニット』に、後先考えない体当たり。


 AIが判断したのか、瞬間移動のように、視線で追いにくい機動。


 けれど、俺は焦らない。



 空を向いているシャトルの群れを避けつつ、延々と続く斬り合い。


 飛び散った粒子がお互いの装甲へ振りかかり、シールドバリアーを削っていく。


 ここで、自爆に近い炸裂。


 お互いに後ろへ吹き飛ばされ、俺は素直にノックバックした後に、相手を見ながらホバー移動。


『部分的な稼働率が30%を割った! 左肩はもう動かないよ』


 声だけのアリスに言われたが、俺は『シルバー・ブレイズ』のメインスラスターで、ランダムに『インフィニット』のところへ。


 牽制の射撃をしながら……。



 お互いの射撃は決定打にならず、再び斬り合う。


 けれど、『インフィニット』の動きが鈍い。


 先ほどのスマートな動きが鳴りを潜め、距離を取りたがる。



 そうだよな?


 片足のメインスラスターに食らったし、どちらもダメージを受ける白兵戦。

 その上に、俺の自爆だ。


「とんでもない予算をかけた専用機……。最低でも十分なデータを取らなければ、ペイできない」


 ドタタタと、右手だけのマシンガンによる弾幕が『インフィニット』を追いかけた。

 これならば、FCSは関係ない。


 周囲に弾をばらまき、どれかを当てつつ、相手の動きを制限する武器だ。


 『インフィニット』は、全てを回避しきれず、被弾。

 両足のメインスラスターを暴走させて、空中で回転する。


 出力を絞ったらしく、見るからに停滞した。


 俺はマシンガンを捨てながら、一気に接近。


 青いビームソードで斬りつければ、早登も黄色のビームソードで応戦する。


 交差した後には――


 ウ―――ッ!


『インフィニットの大破により、勝者は和真かずま!』


 

 ゆっくりと息を吐きつつ、ビームソードを引っ込める。


 『シルバー・ブレイズ』の両足で、激戦の後であるシャトル発着場に降り立つ。


 早登の顔が、小さな画面に映った。


『機体は、整備を含めれば、俺のほうが上だったはず……。なのに、どうして?』


 自分のデッキに戻りつつ、答える。


「お前の戦いは、機体を無事に戻すって意識が強すぎるんだ。両足にメインスラスターがあるんじゃ、戦闘が続くほどにバランスを崩す。もっと言えば、これまでの戦いは格下ばかりで、死の恐怖を感じたのは初めてだろ? 時間いっぱいの長期戦になったことも」


 頭で分かっていようが、実戦は違う。


『なるほど。知らないうちに、押されていたのか……。レースでマシンを壊すような奴は、シーズン中でもシートから降ろされる。向いていない、か』


「それも、極端すぎるぞ?」


『ああ、そうだな! お前は俺に勝ったのだし――』

「悪いが、棄権する。今度こそ、動かない機体で戦わされるから」


 しばしの沈黙。


 そして、溜め息。


『ズルいぜ! 最初から、機体を潰して相打ちにするつもりだったのか!?』

「立派な戦術だ」


 下手すれば、大きな企業を買収できるほどの予算が注ぎ込まれている 『インフィニット』。

 

 それを再起不能にすることは、色々な意味で選べない。


『はあっ……。そりゃ、勝てないわけだ! こっちは次の試合に間に合うコンディションを維持するのに、お前は自爆してもいいのだから』


「安い兵器で高いのを潰す方法は、そこまで珍しくないぞ?」


『まさか、伝説のエースパイロットが乗っていた名前のPSで、そんな使い捨てをするとは思わないさ』


 話している間に、デッキのハンガーに固定。


 通信を終えて、重くなった体で降り立つ。

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