第40話 高高度までのシャトル防衛戦ー②

 試合開始。


 学園の校内予選とは思えない、軌道上へのシャトルの発着場。


 そこで距離を置いている2人は、PS(パワードスーツ)を身に着けたことで、2mちょいの高身長で、ロボットとしてのスラスターなどで横幅もある。


 どちらも専用機で、量産機とは風格が違う。


 ビームライフルを向けた『シルバー・ブレイズ』は、近くで空を向いているシャトルを撃ち抜いた。


 その青いビームは太く、貫通した後で、内部の燃料だか爆薬により、巨大な花火へ……。


 シャトルや発射台、あるいは、資材のコンテナを遮蔽物しゃへいぶつにしながら接近していた『インフィニット』の早登はやとは、その爆風と、一緒に飛んできた破片に戸惑う。


 それよりも早く、安全を重視したAIが自動的に回避しつつ、別の遮蔽へ。


「くっ……。いきなりかよ!?」


 自分の意志とは無関係に動くPSに毒づきつつ、目立たないよう、薄いグレーに塗装した機体で、次のチャンスを待つ。


 すると、デッキに残っている俊一しゅんいちの声。


『落ち着け! シャトルをわざと破壊することは推奨されないが、お前を巻き込むことを狙っていないから、ぎりぎりグレーだ! 運営もペナルティを与えていない。奴は、F――PS用のフライトシステム――で上空へ向かった。すぐに追え!』


「はい!」


 両足のメインスラスターを吹かし、さらに背中の中央にある細長いスラスターでバランスを取る。


「やってくれたな……。だが、自爆のようなポイント稼ぎで逃げ切れるほど、俺とこいつは甘くない!」


 Fの平らな部分に座り込み、片手でハンドルを握れば、空飛ぶ絨毯のように浮かぶ。


 すぐに急上昇を始めて、上にいる和真かずまの『シルバー・ブレイズ』を見つける。


 照準が追い始めて、バズーカによる弾幕。


 連射しつつも、その軌道は相手が逃げる先だ。


 同じFに乗る『シルバー・ブレイズ』が回避行動をするも、空中で炸裂する火球と、広がっていく散弾のシャワーが出迎える。


 全てを回避することは無理で、一部の散弾を受けつつ、ビームライフルによる連射。


 こちらは面制圧にならず、Fに乗ったまま、悠々と避ける早登。


「当たるか! よし、ポイントも逆転した!」


 奇策だったが、しょせんは王道に勝てない。


 それで済むのなら、全員がそうするだろう。


 もっと言えば、空中の機動戦は、『インフィニット』の十八番だ。



 AIによる制御をはさみつつ、背中のバインダーも動いている『インフィニット』は優位に立った。


 男の合成音声で、提案してくる。


『機体のダメージ、15%以下! スラスターは健在だ。このまま空中戦でポイントを稼ごう!』


「分かっている! ビームは速いが、直線だ……。これなら、『ファントム・ブルー』のほうが苦戦した――」

 

 その瞬間に、AIの判断で『インフィニット』がFから飛び降りた。


 今度は、太い青ビームが斜め下からFを撃ち抜き、ほぼ同時に爆散。


「なっ? 狙っていたのか!?」


 高機動のスラスターは、単体でニューアースの重力を振り切れる。


 ゆっくりと降下しつつ、まだFに乗っている『シルバー・ブレイズ』がターンしてくる様子を見た。


「舐めるなよ? この『インフィニット』にかかれば……。まだ対等以上!」


 AIのサポートもあり、自由落下にもかかわらず、スマートな回避。


 ところが、バズーカに持ち替えて、今度は面制圧に切り替える『シルバー・ブレイズ』。


「そこっ!」


 ビームライフルの予測射撃で、分かりやすい軌道のFを捉えた。


 同じように、爆発。


 『シルバー・ブレイズ』も飛び降り、空中で落ちていく。


 お互いに、専用機のPSを装着したまま。


 早登は、和真の顔を見た。


 重力に引かれ、加速し続ける。

 スラスターの動きで、狙いを絞らせない。


「俺は……」


 どちらも射撃しつつ、マガジン交換や、先読み。


 実弾の列や爆風が、それぞれを彩った。


 高度はどんどん下がり、シャトルの発着場へ近づく。


「俺は、お前に勝つんだ! エースパイロットの平良たいら和真の子孫だろうが、関係ない!」


 至近距離の爆発で、AIによる自動制御。

 早登は、相手への攻撃に集中する。


 それはまるで、地球にあった攻撃ヘリや、複座式のファイターだ。


「キャロリーヌさんのオリジナルが、その平良少佐の恋人でも! 今は、関係ないんだ!!」


 早登の気迫が通じたかのように、相対する『シルバー・ブレイズ』の左肩にビームが直撃。


 実弾ほどではないものの、その衝撃で姿勢を崩した。


「やった!? チッ!」


 相手のビームライフルが煌めき、ギリギリで避ける。


 片足をかすめるも、それだけだ。


 AIが状況を告げる。


『地上までの逆噴射に移る。被弾したメインスラスターには異常なし』

「ヨシッ! このまま、地上で追い込む!」


 2機のPSは、模擬戦のために整えられたシャトル発着場で、再び向き合う。


 着地時にアタックされないため、どちらも距離を空けた。


 早登はホバー移動をしつつ、必中の距離へ。


「あっちのPSは、試合開始の前から動きが鈍かった。チームの俺たちと異なり、整備や補給が足りないんだ……。悪く思うなよ? どういう状況だろうが、勝負は勝負だ」


 早登とAIのどちらも、片足のメインスラスターを気にしていない。


 一瞬の油断で負ける相手に機動力を落とすのは、自殺行為だ。


 和真の狙いを見抜くことも、無理。

 令夢れいむが指摘したように、これは発想の問題。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る