第39話 高高度までのシャトル防衛戦ー①

 放送部の女子が、ハイテンションで盛り上げる。


『校内予選で、まさかの1年同士の対決! しかも、同じクラス! 専用機とあって、否が応でも期待が高まります!』


『どちらもワンオフ! どのような戦いを繰り広げるのか?』


『では、今回のステージをご紹介! ……ご覧の通り、地上ベースから発射直前のシャトルを防衛する任務です。4、5つほどのシャトルが空を向いていて、本来ならニューアースの重力圏を脱し、そのまま衛星軌道に乗りますが……』


 シャトルは、どれも熱を帯びた様子で、振動中。


 放送している画面で、全体マップと注釈が出た。


『これは、です。シャトルと発射台に被弾した場合、一定のダメージに達した時点で爆発します! 中に、人や機材はありません。いくらPS(パワードスーツ)でも、巻き込まれれば、かなりのダメージ! 危険を伴うステージゆえ、本戦でしか見られません。では、入ったばかりの新入生やゲストのために、この対戦の見所をお知らせします!』


 斜め上からシャトルを見下ろす視点で、平らな台座に丸。


『ステージの各所に、PSが大気圏内で飛行するためのフライトシステム、通称Fが置かれています。自由に使えるため、シャトルへの被弾を避けるべく、自由に撃てる低空から高高度での射撃戦がメイン!』


 待機用のデッキで、『インフィニット』の横にいる早登はやとが、呼吸を整えている。


 20代中盤ぐらいの男が、話しかける。


「相手の誘いに乗らず、空中戦を挑め! 直線の加速力と姿勢制御では、『インフィニット』のほうが上だ。ポイントで優勢になればいい。無理に倒すな」


「分かっています、俊一しゅんいちさん」


 大企業アぺイリアの印がついたジャケットを羽織っている俊一は、うなずいた。


 同じ格好のメカニックチーフも、励ます。


「今の『インフィニット』は最高だ! 全力でぶん回しても、大丈夫!」

「ありがとうございます」


 俊一は、最後に言いかける。


「早登、お前は……。いや、何でもない。妹のためと、気負いすぎるなよ?」

「ハイッ!」


 その妹である阿由実あゆみが来たことで、俊一とメカニックチーフが離れた。


「早登!」



 ◇



「ごめん……」


梨依奈りいな、もういいから」


 俺は、謝り続ける彼女に言った。


 徹夜が続き、梨依奈は疲労困憊だ。

 ベンチで横になったまま。


 『シルバー・ブレイズ』は、一通り動くレベルになっている。

 だが――


 これから機体と一体化するアリスは、システム用の端末に向かったまま。


「とりあえず、強引に合わせた……。照準はかなり甘いから、やりながら修正してくれ」


 可愛らしい声を聞きながら、そのモニターを覗き込む。


 プログラムの構文が上から下へ流れていき、カラフルな部分も……。


 傍で一緒に見ているキャロリーヌが、嘆息した。


「ソフト系が、完全にお留守でしたね……」


 システムエンジニアがおらず、アリスが応急処置だけ。


 これまでシェリーがつきっきりで見て、今はぐっすりと寝ている。


「……参謀本部に相談するか?」

「この試合は、現状でやるしかないね!」


 同意しつつも、アリスはさじを投げた。


 さらに、話しかけてくる。


和真かずま? 相手は、空中戦が得意だ。間違いなく、そちらで仕掛けてくる」


「だろうな! 前回のマルティナ先輩とは、状況が違いすぎる……。ポイントを稼いで、高高度へ逃げられたら、付き合うしかない」


 ビ――ッ!


『和真選手! 出撃準備を願います! 600秒前!』


 デッキに放送が流れて、俺は『シルバー・ブレイズ』に背中を預けた。


 流れるようにPSが装着され、立ち上がれば、いつもより高い視野。


 一体化したアリスの声。


『問題は、無理をする場面だね……』


「俺たちの勝ち筋があるとしたら、しかない。相手の出方次第か」


 傍から見れば独り言で、誘導員となったキャロリーヌの光る棒に従い、カタパルトへ……。



 ◇



 観客席で、取り巻きの女子に囲まれているマルティナ。

 お茶の一式も。


 優雅に座ったまま、シャトルの発着場となっているステージを見る。


 出てきた『シルバー・ブレイズ』の動きで、眉をひそめた。


「やはり、和真さまの勝利ですよね?」

「マルティナ様に勝ったのだから、優勝してもらわなくては……」


 好きに言う女子グループを気にせず、マルティナは息を吐いた。


「これは、無理かもしれませんね……」


 ゲリラ戦をしかけたダメージが、抜けていない。

 いっぽう、対戦相手の『インフィニット』は万全そうだ。


 一緒に観戦している、『ファントム・ブルー』の主任整備士にして親友の令夢れいむが、察した。


「後悔しとるか?」


「まさか! 必死に戦った結果です。整備や補給も、校内予選のうち……。どちらが勝つと思います?」


「……和真や」


 意外な返事に、マルティナはその横顔を見た。


 令夢も、見つめ返す。


「あのな、マルティナ? 確かに『インフィニット』は手強いし、今回は万全のようだわ……。けれど、早登を含めて、お綺麗すぎる」


 ジッと見られた令夢は、ポツリと付け加える。


「たとえ模擬戦であっても、ここは戦場や! 安全重視のサーキットやない」


 1年のわりに、よくやっているが。


 令夢は、それっきり、シャトル発着場のほうを見た。

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