第29話 シルバーソードに釣り合う相手(後編)【キャロside】

 完全に不意を突かれた、フォビド。


 彼が身につけているPS(パワードスーツ)、白い『アージェン』は、崩壊する足場と一緒に落下していく。


 上空で反転した和真かずまの青い『アージェン』が、下へ加速しつつ、マシンガンを連射。

 重い発砲音が重なり、ドドドという、死の演奏へ。


 上から降り注ぐ弾丸の雨と、破片による土煙つちけむりは、さらなる焦りを誘う。


『ああぁああっ!? くそっ!』


 センサーを切り替えることや、メインスラスターで緊急退避することも忘れ、頭に血が上ったフォビドは、マシンガンに持ち替えて応戦。


 弾をばらまくため、向かってくる位置へ撃つのは、間違っていないのだが――


 ガキキキ ドオオォンッ!


 手応え、あり。


 同時に、フォビドが持っているマシンガンで弾倉が外れた。

 撃ち尽くした証拠。


『へ……へへへ! 今度こそ――』


 マシンガンを上空へ向けたまま、ゆっくりと落ちていくフォビド。


 次の瞬間に、フォビドの『アージェン』が、まるでごうを煮やしたように、警報音を鳴らす。


 ピ――ッ!


『は? し、下――』


 青いビームに貫かれ、彼は撃破された。


 下への加速から、地上スレスレまでに減速した和真が、ビームライフルで狙撃したのだ。


 散々にエネルギーを消耗していたフォビドは、その一撃でトドメに……。


『勝者、和真! シミュレーションを終了する』


 広い空間で観戦していた面々は、息を吐いた。


「ずいぶん、トリッキーな奴だ」

「1つぐらいは、あいつの得意な技が見られると思ったんだけどな」

「学年ワーストに手の内は見せられんだろ」

「遊ばれたな?」



 アリスは、呆れたようにつぶやく。


「自分がシールドを撃っていたことも分からず、わざと起爆させた手榴弾で倒したと勘違いか……。いくらパニックでも、PSなら見抜けるはずだけど?」


 傍にいるキャロリーヌは、浮かない顔だ。


 そちらを見たアリスが、指摘する。


「和真は和真だ! 君は、まだ入学したばかり。3年間でシルバーソードを獲得するチャンスも――」

「い、嫌だあぁあああっ! あんな卑怯な戦い方、ノーカンだ!!」


 シミュレーションの部屋から引きずり出されたフォビドだ。

 涙と鼻水でグチャグチャになった顔のまま、両脇を警備に固められている。


 それを振り払うように走り出し、1人の女子の傍で必死に訴える。


「マルティナさん! お願いします! あなたからも、言ってくださいよ!? こんな一戦だけで俺を追い出すなんて――」

「決闘(デュエルム)の結果でしょう? いさぎよく、この学園から去りなさい」


 シルバーソードがついた制服を着たマルティナは、取り巻きの女子に囲まれ、自分は座っている。


 その場で土下座したフォビドは、みっともなく懇願こんがん


「た、頼むよ! まさか本当に学籍を奪われるなんて……。お、俺だって、自分が勝ったら、『今後は先輩に舐めた真似をするなよ?』で済ませるつもり――」

「パーティーの余興と勘違いなさっていますね……。決闘デュエルムに負けて命があるだけ、感謝なさい」


「立て! これ以上は、面倒をかけるな」


 様子を見ていた警備が、フォビドを無理やりに立たせる。


「ううううっ……」


 恥も外聞もなく、泣き続けるフォビドに、遠巻きのギャラリーは笑う。


「さあ、早く来い――」

 

 けれど、もう1人の警備が空いているサイドへつく前に、近いほうの警備が低くうめいた。

 前屈みになり、苦しそうな表情に。


 突然の出来事に、ギャラリーは思考停止。


「え?」

「な、何?」


 よく見れば、前屈みになった警備の片足に、何かが突き刺さっていた。

 どんどんにじむ血。


 その隙に、フォビドは警備の腰にあるホルスターから拳銃を抜く。


 ザシュッと、金属がホルスターとこすれる音。


「この……お高く止まりやがって!」


 チャキッ


 フォビドは、片手で拳銃を向けた。

 銃口の先には、長い銀髪を揺らしつつ、驚いたままのエメラルドグリーンの瞳。


 マルティナは思わず立ち上がったが、周りに立つ女子が気になり、対応しかねている。


 対するフォビドは、トリガーに指がかかっていた。


 銃口をカタカタと震えさせながら、呟く。


「ど、どうせ、お前ともう会えないのなら――」


 その目には、狂気。


 やがて、レーザーガンの熱線が発射された。


 バシュッ! とSFらしい発砲音を残すも、それがえぐった先は、PSのシールドだった。


 2mのパワードスーツが使うだけあって、その先にいるマルティナは見えず。


 呆然としたフォビドは、片手でレーザーガンを突き出したまま。


「な、何で――」


 シールドバッシュにより、フォビドは床に叩きつけられた。


 片足で踏まれ、レーザーガンを持つ手首を砕かれる。

 硬いはずの床までも、陥没。


「ぎゃあああああっ!?」


 絶叫するフォビドに続き、千夏ちなつ教官の叫びがとどろく。


「警備は何をやっている! 早く取り押さえろ!!」


 無事だった、もう1人の警備が、我に返る。


「……ハッ!」


 『シルバー・ブレイズ』が後ろに下がったことで、ようやく倒れ伏したフォビドを拘束する。


 千夏は、太ももを刺された警備に尋ねる。


「メディカルセンターへ行けるか? それとも、ここに呼ぶか?」

「な……何とか」


 脂汗あぶらあせを流しつつ、その男は自分で動き出した。



 『シルバー・ブレイズ』を解除した和真は、自身が作り出した、大きなみぞを見る。


 大急ぎで移動した結果だ。


「これ、請求が来るのか?」


「警備のほうへ回す! お前にも、あとで事情を聴くからな? ……全員、そこから動くな! 逃げた者には――」


 答えた千夏は、すぐに現場の指揮を執る。



 離れていたキャロリーヌは、感極まったマルティナに正面から抱き着かれたまま、その取り巻きがお似合いです! とはやし立てる中心にいる和真を見た。


 低い声で、ボソボソと言う。


「アリス……。私、早くシルバーソードを取る! 横から奪われるのは、本当に嫌……」


「あ、うん……。頑張って……」


 生返事のアリスは、さり気なく距離を取り出す。


 本当、泥棒ネコって、どこにでもいるよね? と恨みがましい声が、彼女を見送った。

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