第30話 俺はボッチではない、孤高だ!

 高校生活でボッチは、なかなかに大変だ。


 まず、教科書などを忘れても、貸してくれる奴がいない。

 課題やテスト範囲、あるいは過去問も入手不可。

 イジメに遭いやすいし、そこまでいかずとも、余裕がなくなる。


 PS(パワードスーツ)学園でも、それは同じだ。


 華のPS科1年である俺は、自分の席に座ったまま、談笑する奴らを見た。

 

「さっきの数学だけど――」


「PS科は、やっぱり大変?」

「まあな! ランクを上げないと――」


「今日の授業が終わったら、あのお店に集まって――」


 この1組でも、グループが形成されている。


 たまたま、隣接する席だった。

 中学からの腐れ縁。

 同じ部活や趣味がある。


 複数の科を示すマークが制服にあり、学園の思惑通りに、自分の専門分野にこだわらない交流。


 素晴らしい!

 2年になっても、友情パワーを発揮できる寸法だ!


 俺は、避けられているけどな?


 この前、PS科2年のフォビド先輩を叩きのめして、リアルでも手首を砕いたじゃん?

 アレのせいだ。


 その経緯から、仕方のない対応だったが。


 やっぱり、感情としては納得できないのよ。

 人間だから。


 おのれ、フォビド!


 ただでさえ、シルバーソード、伝説のエースパイロット系譜、統合参謀本部に顔を出す、専用機があると、近づきがたいのに、逆らったら再起不能のうえ学園から叩き出されるとうわさに……。


 アリスたちが同じクラスにいるから、不都合はない。

 だけど――


 彼女たちに甲斐甲斐しく世話をされていて、男子は嫉妬。


 女子も、関わりたくない雰囲気。


 俺は、孤高の存在になったのさ……。


 こんな形で伝説になりたくなかったけど。



和真かずまくん……だったよな?」


 男子の声で、そちらを見た。


 いかにもスポーツをやりそうな黒髪と、茶色の瞳。


 主人公っぽい。


早登はやとだ。同じPS科だし、よろしくな?」


「あ、ああ……。クラスメイトだから、呼び捨てでいいぞ?」


 片手を差し出されたから、握手。


「俺のことも、早登でいい。この前の先輩との対戦、すごかったな!」


 手を離した後で、答える。


「先輩と言っても、完全に落ち目だったからな……。たぶん、誰がやっても勝てたと思う」


「だけど、その後の制圧は、誰にでも行えるものじゃ……。悪い! あまり話さないほうがいいか?」


 気がついた早登は、周りを見る。


 ボッチの俺が話しているのは珍しく、他の奴らが注目していた。


 心配したのか、近くにキャロリーヌがいる。


「そういえば、お前の顔、どっかで見たような……」


 早登を見ていたら、そいつの傍に立っている女子が怒った。


 ストレートの長い茶髪に、茶色の瞳。


「ちょっと! 早登を知らないって、どーいうことよ?」


阿由実あゆみ! 俺は、別にいいから! 中学生も出られるカーレースでチャンプになったんだ。その関係で、テレビに出てね?」


 思い出した。


「言われれば、テレビだった! レーシングスクールじゃなくて、PSのほうへ進んだのか」


「阿由実の実家が、レーシングカーの設計と製造をしているアぺイリアで……。そこで開発している新型PSのテストパイロットをやって欲しいと……こら、やめないか!」


 俺を睨んだままの阿由実に、早登が叱った。


 こちらの傍に立っているキャロリーヌも、険悪な雰囲気だ。


 慌てた早登は、阿由実をなだめつつ、離れていく。


「じゃあ、また明日!」


「ああ……。またな」


 早登と俺だけの挨拶となり、教室は元の雰囲気へ。



 ――数日後


 1年1組の担任である千夏ちなつが、叫ぶ。


「そろそろ、PS競技会に出場するメンバーを決める校内予選が始まる!」


 最初の見学から出ていた単語だが、俺の評価を高める場にもなっている。


 どれだけマシンクリーガーを倒しても、軍部の上が納得しないからな……。


「PS科ではない生徒にも、自分を評価させる機会だぞ? 補給、整備、情報収集、模擬戦をする相手の確保と、やるべきことは多い! つまり、これはチーム戦だ」


 やめてくれよ。

 俺、ただでさえ、ハブられているんだぜ!?


「このクラスには、現時点の最優が集まっている! シルバーソードの和真かずまと、AI制御のレーシングで優勝した早登は、ぜひ上位を狙ってもらいたい」


 ここで、早登が手を上げた。


「何だ?」


「せっかく同じクラスにいるから、予選の前に戦ってみたいのですが?」


 早登の提案に、千夏は腕を組んだ。


「そうだな……。大企業のアぺイリアが支援しているお前は、それでいいだろうが……。和真、これは無理にやる必要はないぞ? お前が決め――」

「うちの『インフィニット』にかかれば、旧式の『シルバー・ブレイズ』なんて簡単に倒せるから!」


 なぜか、阿由実が勝利宣言をした。


 怒ったキャロリーヌが言い返す前に、アリスが叫ぶ。


「何だと!? 貴様、言ったな! やるぞ、和真!」

「お前は、俺の何なんだ?」


 ツッコミを入れたら、アリスは驚いた顔に。


「い、いつも、あれだけ、ボクを中から動かしているのに……」

「覚えがない!」


 クラスの視線が痛い……。


 千夏は、宣言する。


「和真とアリスは、あとで生徒指導室へ来い! クラスでの対戦は私のほうでセッティングするから、希望者は端末で申し込め。以上だ」



 後日、『シルバー・ブレイズ』にアリスが一体化していると判明。


 ロボには欲情せんわ!


 しかし、アレトゥーサで『シルバー・ブレイズ』が勝手に動いていたのは、それが理由か……。

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