第28話 シルバーソードに釣り合う相手(前編)【キャロside】

「この学園にある訓練機で、勝負しろ! 負けたら、お前のシルバーソードと『シルバー・ブレイズ』を譲ってもらう」


 プレートは、2年。

 PS(パワードスーツ)科だ。


 学園に慣れる前に、叩いておくつもりか……。


 男子の宣言で、周りがざわついた。


「お前が負けたら? 少なくとも、シルバーソードと『シルバー・ブレイズ』に釣り合う対価が必要だぞ?」


 ムッとした男子は、話をらす。


「先輩にその態度――」

「決闘(デュエルム)を申し込むのなら、お互いに出す必要があるぞ?」


 女の声で、そちらを見れば、1年1組の担任である千夏ちなつ教官だ。


 ゴリ押しできず、2年の男子は口ごもる。


「出せないのなら、脅迫だな? お前にペナルティを――」

「お、俺の学籍を出します!」


「規則だから、警告しておく! それを失った場合、お前はかなり困るだろう。今すぐに和真かずまへ謝るのならば、聞かなかったことにしてやるが?」


 プルプルと震えた奴は、うつむいた後で、顔を上げた。


「いえ、やります!」


 あーあ。

 言っちゃったよ、こいつ。


 素直に謝れば、悪くても反省文で済んだろうに……。


 自分で絡み、教師に言われてケツまくったら、どこまでも笑われると思ったか。


「よし! では、すぐに準備しろ! 2人分のシミュレーション機体は、こちらで確保してやる」



 ◇



「おい! あの新入生が、2年のフォビドと決闘デュエルムをするって!」

「マジか? 気になってはいたんだよ」

「あいつ、PS乗りで学年ワーストを争っているから……」

「コケおどしの可能性にすがったのか」


 シミュレーションを観戦できる場所。


 スポーツを見るように、PS学園の生徒が集まる。


 いきなり決まったことで、近くにいた面々。

 その中に、すみで立ったまま、大型モニターを見る女子が2人。


 キャロリーヌと、アリスだ。


 入学前のシミュレーションと比べれば、キャロリーヌと和真が入れ替わった構図。


「大丈夫かな?」


 あくびをしたアリスは、緊張感のない声で応じる。


「負ける要素がないよ……。和真の戦いを見ておらず、後のない馬鹿が暴走しただけ」


 部隊指揮科1年で、主席。

 ニューアース統合参謀本部にいる、成功が約束されたエリートだ。

 しかも、女子。


 同じ新入生だけではなく、2年、3年の上級生も、ソワソワした様子。


 遠巻きに見ながら、隣の友人と話し合い、何やら情報交換、または作戦会議。


 その光景を見たキャロリーヌは、こっそりと息を吐いた。



 今回は、見渡す限りの荒れ地に、戦艦などの巨大な物体が突き刺さった場所。


 内部のフレームが見え隠れする、ランダムに存在するオブジェクトが、仮想空間の日光に照らされている。


『只今より、シルバーソードのPS科1年の和真くんと、PS科2年フォビドくんの決闘デュエルムを始めます!』


 ビ――ッ!


 どちらも、量産機『アージェン』だ。


 和真がブルーで、フォビドは白色。



 2mの小型ロボットになった両者は、フォビドの弾幕により戦闘開始。


 両肩、腰の左右から、追加オプションのミサイルが殺到する。


 爆発と、破壊された地面や破片で、和真の姿が消えた。


『や、やったか!? これで、俺もシルバーソードだぁああああっ!』


 ババババ


 移動していた和真は、右腕に持たせたマシンガンを連射。


 数発が、フォビドの肩やシールドに当たった。


『くそっ!』


 すぐに背中を向け、メインスラスターを吹かしつつ、ジャンプして遠ざかる和真に、ビームライフルを連射するフォビド。


 しかし、和真はスラスターで直撃する軌道かられる。


 見ていたギャラリーが感嘆。


「背中に目がついてるのか?」

「へー!」

「シルバーソードなら、これぐらいはな?」


「おい、賭ける相手を変えさせろ!」

「ダメだぜー? へへっ」

「大人しく、豪華ディナーをおごれ」


 和真は、着地しながらもジャンプを繰り返し、垂直に突き刺さったコロニーの外壁を上へ。


 途中の突き出た部分を利用しつつ……。


『逃がすかよおおおっ! あと少しで、俺はマルティナさんに釣り合う男になれるんだ!』


 いきなりの告白で、ギャラリーが失笑した。


 男子は、公開されたことに同情的だ。


「おま……」

「あいつ、観戦者がいると分かっていないだろ!?」


 いっぽう、憧れが強い女子は辛らつ。


「マルティナ様に……」

「身の程知らず」

「学年ワーストの分際で……」


 チラリと、傍で観戦している本人の様子をうかがうも、気にした様子はない。



 頭に血が上ったフォビドは、ひたすらに和真の背中を追う。


「あいつ、何をしたいんだ?」

「同じ『アージェン』だったら、背中を狙われ続けるほうが不利――」


 空中でバズーカを持った和真は、下へ向けて数発を撃った。


 ところが、それは不発。


 バズーカを投げ捨てた和真は、再びマシンガンを取り出しつつ、残った推力で上を目指す。


 それを見たフォビドは、ビームライフルを乱射しつつ、下から迫る。


『ハハハ! もう上昇限界だろ!? 次のジャンプで仕留めてや――』


 次の足場に降り立ったフォビドは、いきなりの爆発でパニックに陥る。


 遅延信管による爆破だ。


『あぁああああっ!?』


 高所から、フォビドの白い『アージェン』が落下する。

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