第27話 匿名の相談が俺を追い詰める
「な、何で……」
思わず問い返した生徒に、ため息を吐いた
「なぜ? 当たり前だろう……。お前たちは、何のためにPS(パワードスーツ)学園に入った?」
誰も答えないことから、自身で話を続ける。
「PS学園は全寮制だ! 男女別とはいえ、敷地内で会う機会は多い。どこまでが健全で、どこからが不純異性交遊か、判断できん! それとも、貴様らは四六時中、ずっと監視される生活が望みか?」
ジッと見られた生徒は、おずおずと答える。
「い、いいえ……」
首肯した千夏は、威圧しない口調に。
「いいか? 何も意地悪で言っているわけじゃない……。恋愛のドロドロで、過去に有望な生徒が潰れた。人とほぼ同じサイズのPSは、その気になれば、この学園を破壊できるぞ? 整備に使う工具や設備なども、だ……。これに男女の愛憎が加わったら、卒業した後にも尾を引くだろう」
その説明で、クラスの雰囲気が変わった。
「良い機会だから、匿名の相談を引き合いに出すぞ? 今年の新入生で、とある女子からだ」
ブンッと、黒板の表示が変わった。
同時に、俺たちの席でも、それが表示される。
“匿名希望のSです。彼に全てを見られました。それは事故で、責める気はありません。ですが、何事もなかったように振る舞われるのも傷つくため、在学中に彼とお付き合いしたいです。どのようにすれば、良いでしょうか? この相談はサンプルにして構いません”
シェリーだろ、これ?
無表情で、コクコクと
“Aだよ! 全裸で迫る痴女がいたから、その男子を守るため、ボクが傍にいたい。男子はその気がなくても、手近にOKの女子がいたら、ヤリたくなるでしょ? 一応は、学園のルールを守りたい”
アリスか?
お前、職権乱用で、コンピュータ群を動かす気かよ……。
“Kです。ずっと彼の傍にいられると思っていましたが、もう1人の幼馴染のプッシュが激しくなり、危機感を持っています。他の泥棒猫を含めて排除するため、早く彼が自分のものだと知らせたいのですが?”
キャロリーヌだ。
とりあえず、今の俺は、お前のものではないぞ?
“Rです。彼の部屋でシャワーを浴びたのに、そのサインを無視されました。もはや強硬手段しかなく、在学中のお付き合いを認めてもらいたいです”
というか、そんな考えだったのか……。
千夏は気にせず、説明する。
「先ほども言ったが、この学園は恋愛禁止だ。けれど、異性に慣れることや、将来を誓い合うことは否定せん! 学園に所定の手続きをすれば、2人で会えるぞ?」
誰かが、思わず言う。
「な、なら――」
「それでも、セックスは禁止だ」
沈黙。
気まずい空気でも、千夏は止まらない。
「理由は、途中で異性を変更できるから……。学園が管理している中で取っ替え引っ替えは本末転倒。これも過去の教訓だ。恨むなら、馬鹿をやった先輩どもを恨め!」
ため息を吐いた千夏が、俺のほうを見ながら、説明する。
「健全な付き合いになったが、代わりに複数の相手を指名できるぞ? 良かったな!」
俺を見ながら言うの、止めてもらっていいですかね?
「1年次は『クラスや科が変わる』という可能性がある。それで破局するケースも多くてな? 薄情といえば薄情だが、将来性がないか、全く違う道を歩むとなれば、無理もない……。まあ、2人きりで色々な異性と話すのは、貴重なチャンスだ。ここを卒業すれば、仮に大学へ行っても、実地を兼ねた職業訓練校か、研究所と同じ。やるべきことをやっていれば、私もプライベートや打ち合わせまで五月蠅くは言わんし、言いたくない。だから、上手くやれ! 私たち教職員は、『どう見ても規則違反』と判断すれば、決められた処罰を下すだけ。……私の口からは以上だ。もっと知りたければ、同じ科の先輩にでも聞け!」
言い訳のしようがない状態は、学園として動くのか……。
厳しい感じだが、意外に話が分かる人だ。
にしても、こっそりと付き合って最後までやれば、バラされた時や、バレた時のリスクが大きいんだな?
実際には、全て監視していて、処罰の段階になったら参照するのだろう。
「この恋愛禁止は、一部の男子と女子がモテることへの防波堤でもある! 全寮制で敷地の中だと、逃げ場がないからな……。諸君は勉学と訓練、もしくは、自分のテーマで頑張れ! ちなみに、優秀な成績を修めれば、コンピュータ群のマッチングや、自分がいる所属からのお見合いもあるぞ? 夢もへったくれもないが、頭の片隅に置いておけ! 最初に言った、『大きな問題を起こすか、落第すれば、この学園から除籍される』というリスクもな? 卒業すれば成功が約束されるのは、在学中に振るい落とすことの裏返しだ。賢明な判断と行動を期待する」
恋愛にこだわらずとも、パートナーは見つかると……。
「そこまで言うのなら、男女別にしろ! という話ではある。しかし、ここまでの歴史と伝統、さらに教育ノウハウがあって、もはや男クラ、女クラに分けることも難しい……。慣れろ!」
それにしても、こんな場で知っている女子から告白されるとは。
いや、俺の勘違いかもしれない!
これ以上は、考えるのを――
「いいな? 卒業するまでの3年間は、嫌でも顔を合わせるんだ! その意味をよく理解した上で、相手に接するように!」
「「「はいっ!」」」
クラスの全員が、返事をした。
あと、千夏教官は、俺を見たままで話すのを止めてください。
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