第二章 入ってからが本番のPS学園

第26話 「恋愛禁止」の学園

『今後のニューアースを担えるだけの人材となるべく、このスペースフォース・トレーニング・アカデミーの3年間で研鑽を積むことを誓う……誓います』


『新入生代表、部隊指揮科1年――』


 のんびりした女子の声が、立派な講堂に響き渡った。


 SFTAの新入生で主席となった、アリスだ。


 後ろ姿でも、その柔らかい赤髪ロングで識別。


 壇上だんじょうで宣言した彼女は、会釈。

 ススッと、脇にある自分の椅子に座った。


 俺たちが座っている集団席で、ひそひそ話。


(あれが主席か……)

(可愛いじゃん?)

(クラス分けと部活だな!)

(どうせ、1組さ)


 男子高校生らしい会話だ。


 PS(パワードスーツ)を使えても、旧時代のハイスクールと同じ。

 気になる女子と接点を増やし、あわよくば、恋人にする。


 士官学校や、パイロット養成の場としては、緩いにも程があるけどな?


 これは、人とほぼ同じ大きさのPSが万能である弊害へいがいと言える。

 その適性や操縦センスが、何よりも優先されるのだ。


(卒業して変なところに回されたら、たまったものじゃねえよ!)

(ああ……。参謀本部にいる女子と付き合えば、俺も清潔で快適なオフィスだ)


 ニューアースはまだ厳しい環境で、社会主義にならざるを得ない。


 進路が発表されたように、個人の意思は二の次。

 それだけに、自分が調整できる部分での競争は熾烈しれつを極める。


 このPS学園のエリートは、PS科と、部隊指揮科の2つ。

 前者は本人がすごいだけで、仮に男子が付き合っても、その恩恵はない。

 そもそも、相手にされないけどな?


 いっぽう、部隊指揮科は、ニューアース統合軍の中で上級将校や、本部で働くか、大企業に入れる。

 人事異動で、お相伴しょうばんに預かることが可能だ。


 つまり、男子が女子を口説いて成り上がるには、部隊指揮科がターゲット。


 在学中は、同窓生だ。

 苦楽を共にする機会が多いし、卒業後とは違い、まだ立場が薄い。


 その時に、ふと視線を感じた。


(いいよな。雑魚からシルバーソードを奪えた奴は……)

(伝説のエースの系譜だから、特別待遇なんだろ)


 声と方角から、さっきの男子たちだ。


 そこに、年上の女子の声。


「あなた達? 入学式の最中ですよ?」


 釣られて見れば、同じシルバーソードがある制服。


 PS科2年になった、マルティナ先輩だ。

 会場を見回り、新入生の監督をしているらしい。


 当の男子2人は、平謝り。


「す、すみません……」

「気をつけます」


「次の注意では、減点します」


 マルティナは、颯爽さっそうと歩き去った。


 やれやれ。



 ◇



 1年1組。

 それが、俺が在籍するクラスだ。


 新入生の中で優秀な順から、1、2、3、4組に振り分けられる。


 俺には、模擬戦を含めれば3回以上で、実戦経験もある。

 ついでに、ニューアースを左右する秘密を知っていて、伝説のエースパイロットの系譜で、『シルバー・ブレイズ』を専用機だ。


「これで2組にしたら、統合参謀本部のメンツが丸潰れか……」


 思わず呟いたら、近くで梨依奈りいなの声。


「こんな場所で、独り言をいわないでよ」


 呆れた口調だ。

 俺が機密を漏らすと思ったらしい。


 そちらを見て、返事をする。


「少し五月蠅いぞ? というか、見事に同じ面子だな……」


 教室を見回した梨依奈は、息を吐いた。


「うん……。仕方ないと言えば、仕方ないけど」


 中学時代から一緒のキャロリーヌ。


 ラファームの2人、アリスとシェリーも。


 むろん、他にも男女の生徒がいる。



 バシュッ


 大人の女性だ。


「全員、席につけ! ここは遊び場じゃないぞ?」


 前の出入口から、担任が入ってきた。


 見覚えがあると思ったら、千夏ちなつ教官か……。


 大慌てで、自分の席に戻るクラスメイトたち。



「まず、このPS学園に入学したことを祝おう! 諸君は選ばれた人間であり、ここで過ごす3年間に応じて、それぞれ重要なポジションにつく」


 喜びの声を上げる面々。


 だが、千夏は、それに水を差す。


「3年間の成果に応じて、だ! 勘違いするな!」


 後ろの黒板がモニターとなり、過去のデータらしき映像が出た。


 授業中、文化祭、体育祭、歩兵の行軍訓練、作戦立案、修学旅行、PS同士のバトル、宇宙艦での練習航海……。


 高校生活に軍の訓練が交じって、カオスだ。


 それをバックに、千夏が語る。


「ニューアースでPSに関しては、ここが一番だろう。しかし、フェイルがないわけではない!」


 フェイルは、教官がパイロット養成中の教え子を外すこと。

 合格点をとれないケースで、任意に行われる。


「1年は教養科目をこなす! ゆえに、横の繋がりを築くため、科ではなく成績順にクラス分けをした。諸君は優秀だったわけだが……現時点の話だ」


 声が低くなった千夏は、クラス全体を見ながら、話を続ける。


「先に言っておくぞ? この1年で専門に特化させないのは、『クラスまたは科を変更するため」でもある……。諸君は一見するとムダに思えるカリキュラムも受けるが、そこで『見所がある!』と評価されれば、他の科にも……何だ、イェンス?」


 無言で挙手をした男子に、声をかけた。


「あの……例えば、PS科や部隊指揮科に移ることも?」


「可能だ」


 歓喜の声で満たされる教室。


 けれど、千夏の一声で、正反対の雰囲気になる。


「言い忘れていたが、ここは恋愛禁止だぞ?」


「「「ええぇええええ~!?」」」

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