第18話 13対1の入学試験(後編)

「なっ!?」


 森林に潜んでいるビンセルンは、PS(パワードスーツ)の『エイジス』を纏ったまま、冷や汗をかいた。


 パイロットスーツとPSが、その異常を検知して、すぐにフォローする。


 快適になったものの、彼の恐怖は止まらない。


 味方として、プロの軍人が乗る『エイジス』の一個中隊ほど。

 同じ数までなら一蹴できるぐらいの陣営だ。


 前衛、白兵、支援の3タイプが揃っていて、連携の訓練も受けていた。


 それなのに……。


「開始から10分も経たずに、全滅だと!? あ、あり得るわけが――」

『落ち着け! これは模擬戦だ! 俺が弾幕を張るから、お前が仕留めろ! 盾やおとりにしても構わん! どうせ、このキャノンタイプじゃ、近づかれたら終わりだ』


 両肩にキャノンがある、鈍重なPS。


 両足や腰が強化されており、その武装を活かせるFCS(火器管制)であるものの、いかんせん万能ではない。

 だから、ノーマルの『エイジス』に乗っている自分が、奴とマッチアップ。


 誤射の恐れがないタイミングでのみ、こいつが支援砲撃。

 それによって被弾か、体勢を崩せば、まだ勝機はある!


 正規パイロットが追いきれないほどの高機動でなければ……。



 内心の葛藤を知らない『エイジス・キャノン』は、ビンセルンのほうを見た。


 ほぼ諦めた様子で、言い捨てる。


『頼むぜ、シルバーソード! このまま良いところなしで負けたんじゃ、俺たちは全員そろって左遷だ!』


 いずれにせよ、こいつは捨て駒だ。


「分かった! では、一定時間後に弾幕を張り、あいつを誘き寄せてくれ」

『了解』


 返事を聞くや否や、察知されにくいよう、低出力でホバー移動。


 少しでも遠ざかる。



 こうなったら、自分だけ生き延びて、時間切れを狙う!


 やる気がないキャノン1機と共に、あの化け物と戦うよりも……。


「そうだ! あの機体が異常すぎる!!」


 この決闘を凌いだら、盤外戦術で圧力をかけて、『シルバー・ブレイズ』を再封印させればいい。


 そうすれば、他のPSに乗れない和真かずまは詰む。



 ――1時間後


『えー! 残りは、ビンセルン君だけです! このまま出てこない場合は、「戦意なし」による失格負けとします!!』


 生徒会長の声が、野外演習場に響き渡った。


 あとで覆すにせよ、善戦したという形作りは必要か……。


 文字通りに引き篭もっていたビンセルンは、『エイジス』を通常モードに復帰。


 チュイインと立ち上がり、約2mの人型が歩き出す。

 背中の左右にあるシールドを展開しつつ、前方へ向けた。


 視界を自ら塞いだが、直撃を受けた時を考えれば、これしかない。

 両腕の可動域も、大幅に制限。


 見つかるのが怖くて、高度をとれない。

 重装備の歩兵のように、もっさりと歩くだけ。


 もはや、PSのメリットを捨て去った抜け殻。



 どこだ?

 

 どこから来る!?


 先が見えない森林エリアで、両手にビームライフルを構えながら、シールド2枚による行軍。


 ビンセルンは、広報のシルバーソードだ。

 テレビ局の主演ばかりで、泥臭い訓練はやらず、脚本があるドラマや番組だけ……。


「ハアッ! ハアッ! ハアッ!」


 奥が光った。


 連続でビームが飛んできて、相手の位置が判明。


「そこかあああああああっ!」


 まっすぐ突っ込み、両手のビームライフルを連射する。


 前方に出していたシールド2枚が破壊され、自動的にパージ。


 

 派手な爆発が起こり、手応え。


 ビームの連射が止んだ。


 銃口を下ろし、嘆息するビンセルン。


「やったか……」



 次の瞬間に、目の前が光に包まれ――


『ビンセルン君、大破! この実技試験は、和真かずまくんの勝利です!!』



「ば、馬鹿な!?」


 シミュレーションモード、終了。

 再起動した『エイジス』で、自分が仕留めた場所へ向かうも……。


 そこにあったのは、木々に固定したビームライフルと、時限式でトリガーを引く仕組みだった。


 自分が破壊したものを知り、ビンセルンは激怒する。


「ふ、ふざけた真似を! 真面目に戦うべき試験で、卑劣な……」



 ◇



 生徒会室に呼び出された俺は、ニコニコしている生徒会長と向き合った。


「そのビンセルン先輩は、資源採掘の船団に志願したと……」


「ええ! 次に会えるとすれば、最低でも10年後ね! 軍の部隊を出してアレじゃ、詰め腹を切らされて当然よ! おまけに、主力のエース機で隠れんぼ。せめて、あなたと真正面から戦えば、宇宙漂流は避けられたのに」


「フロンティア以下、ですか」


「そちらは、辺境でもニューアースの大地で暮らせるからね? 鉱山労働のように死傷率が高く、危険だけど」


 コホンと咳ばらいをした風美香ふみかは、片手で滑らせてくる。


 それを見た俺は、顔を上げた。


「1つ、枠が空いたと?」


「それもあるわ! ただ、ハリボテとはいえ『シルバーソード』を含めて軍の正規部隊が無名の中学生に負けたは、絶対に認められないの」


 座っている椅子で、後ろにもたれかかる。


「SFTA(スペースフォース・トレーニング・アカデミー)のPS科でシルバーソード持ちに負けたのなら、まだメンツが立つ?」


「ま、そんなところ! あなたも『シルバー・ブレイズ』を専用機にできて、このPS学園のエースの1人に……。特権もあるし、悪い話じゃないと思うけど?」


 ため息を吐いた後で、問いかける。


「それだけじゃ、ないでしょう?」


 パンと両手を叩いた風美香は、そのままの姿勢で、焦った様子に。


「和真くんは、ニューアース統合参謀本部の直属になったわ! 早期卒業システムでうちの学生になっているけど、少佐待遇よ! それでね?」


 ――軌道上のステーションで、しばらく警戒任務について欲しいの


「現場研修の一環で、入学式までに帰ってこられるから! ぐ、軍がついていれば、専用機でも維持コストを考えなくていいし!」


 期間は、半月。

 俺の宇宙への適性と、『シルバー・ブレイズ』のデータ収集か……。


「分かりました! そっちでも、何か支援してくださいよ?」


「ええ! 滞在中は――」


 その説明を始めた風美香。


 声を聞きながら、中央テーブルの上に置かれた、ビニール入りの制服を見る。

 胸や腕の横にシルバーソード。


 その輝きを見ながら、嫌でも目立つ学園生活だな、と心の中で嘆息した。

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