第19話 ヒゲ面の男を分からせた話

 軌道上のステーション。

 お馬鹿な先輩が放り出された、資源採掘を目的とした宇宙艦隊ほどではないが、ここの生活も厳しい。


 ニューアースを守るため、24時間の即応体制だ。

 抜き打ちの視察が多く、VIPも訪れる場所。


 マシンクリーガーの駆逐艦隊が攻めてきたことで、衛星軌道上の空母群は、宇宙戦闘機ともども半壊した。


 宇宙軍は急ぎ、PS(パワードスーツ)の部隊を駐留させて、防衛線を築く。


 その受入で、限られた居住空間のステーションは騒がしい。



 まだ新米と思われる、少尉の階級章をつけた若い男が、ついてくれた。

 軍服にPSパイロットの徽章きしょうをつけている。


「アラート勤務についていなければ、あまり緊張しませんが――」

「コウ少尉! 何だァ? 子供を連れてくるんじゃねえよ!」


 ダミ声が、周囲に響いた。


 そちらを見れば、20代後半のヒゲ面。


 コウが反射的に叫ぶ。


「デヴォン中尉!」


 慌てて敬礼したコウは、説明する。


「ハッ! 地上から着任された和真かずま少佐でして……」


 デヴォンと一緒にいた男2人が、顔を見合わせた。


「ああ……。例のシルバーソード!」

「シューティングスターズ中隊が、丸ごと左遷されたと聞きましたけど?」


 冷静に話し合う2人に対し、デヴォンは毒づく。


「ケッ! どうせ、その中隊が去勢された玉ナシだったのさ!」


 慌てたコウが、取り成す。


「ちゅ、中尉? こちらは少佐殿どのですから――」

だろ? 正式な階級じゃねえよ! もうすぐ高校に入る子供にビビッていられるかっての!」


「では、宇宙で模擬戦をやってみますか?」


 俺の挑発に、デヴォンは面白いぐらい反応した。


「ほー! こっちは『エイジス』だが、あの連中と同じに考えてもらっては困るのですけどね? 少佐殿?」


「俺が負けたら、『シルバー・ブレイズ』を譲りますよ」


 パンッと手を叩いたデヴォンは、にやりと笑った。


「よっしゃ決まりだ! ほえ面かくんじゃねえぞ?」


 俺の隣にいるコウは、オロオロ。


 向き合っているデヴォンの連れ2人は、どちらも呆れ顔だが、止める気配なし。


「いい加減に、学んでくれませんかね?」

「無理だろ……」



 ◇



「すごい……」


 PSの『エイジス』を装着したコウは、目の前で繰り広げられる戦闘に釘付け。


 2機のスラスターの光が、キラキラと輝く星々をバックに、暗い宇宙で3次元の機動を続ける。


 僚機の同じ『エイジス』に乗っているカリーム少尉が、話しかけてくる。


『あのデヴォン中尉が、ここまで歯が立たないとはね……』


 デヴォンの通信も入ってくる。


『くそっ! 何なんだ、こいつは……』


 和真の『シルバー・ブレイズ』は、白をベースに、青紫で立体感を出している。

 透明感とプレッシャーを併せ持つ。


 狙い撃ちされるビームを知っていたかのように避けつつ、その一方で偏差射撃というのも生温いビームの先置き。


 高機動らしく、跳ねるように攻撃を避けつつ、相手の死角へ……。


 コウは、ふと思う。


『密着する接近戦は、どうだろう?』

『無理だろ! このエイジスじゃ、完全に追い切れていない!』


 見ていたら、ビームソードの剣戟でも、和真は圧勝。


『おい! セスとリックも手伝え!』

『俺は負ける戦をやらないんだよ、デヴォン君?』

『自分も遠慮します』


 あっさりと戦友に見捨てられ、デヴォンは連敗記録を重ねた。



 ◇



 ハンガーで与圧され、再び対峙する。


 コウの隣に、同じぐらいの男が増えた。

 カリーム少尉だ。


 気まずそうなデヴォンに、告げる。


「そういえば、同じPSパイロットとの親睦を深めていませんでしたね? では、上官として、俺が奢る食事会への出席を命じます」


 それを聞いた、デヴォンの横にいたセスが笑い出す。


「ハハハ! こりゃ完敗だな、デヴォン! 認めるしかないぞ?」


 がっくりと肩を落としたヒゲ面は、力なく応じる。


「分かりましたよ、少佐殿……」


 

 ――士官用のパーティールーム


 結局、その場にいた全員を招待。


 大人は酒も……。


 さっきまでとは大違いで、デヴォンは陽気だ。


「いやー! やっぱり、最年少でシルバーソードは違いますなあ! いっそのこと、俺たちで新しく小隊を組みますか? 中学生だからと馬鹿にする奴がいたら、俺が絞めときますよ!」

「それは、お前だ」


 セスが、すぐに突っ込んだ。


 同じく酒が入っているリックも、苦笑したまま、フォローする。


「こんな感じですが、腕はあるので……。和真少佐にも、今後は逆らわないと思います」


 首肯した俺は、ソフトドリンクを飲んだ後で、周りに尋ねる。


「そういえば、マシンクリーガーの襲撃は多いんですか?」


 グイッと飲んだデヴォンが、答える。


「地上まで入られた一件から、そこそこ……。奴らの駆逐艦に搭載されたメリフ(機械生命体の略)は、嫌がらせみたいにチマチマ来やがる!」


 彼と親しいセスとリックも、それぞれに述べる。


「今の規模なら、対応できるが……」

「問題は、奴らの本隊かと」


 少尉のコウとカリームも、話に加わる。


「今後は、自分らもシフトに加わると思います」

「よ、よろしくお願いします!」



 そういうわけで、俺は軌道上のステーションに滞在する運びとなった。

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