第13話 俺の将来は2つに1つ

「納得できませんわ! 和真かずまさんの功績を横取りする気で!?」


 勢いよく立ち上がったマルティナは、スーツを着た女に食ってかかった。


 ローテーブルを挟んで座っている若い女は、ため息を吐く。


「落ち着け! 私とて、納得したわけではない!」


 それを聞いたマルティナは、ビクッとした。


 頭を下げつつ、謝罪する。


「も、申し訳ありません。千夏ちなつ教官……」

「分かれば、いい……。座れ」


 ポスッと、俺の隣に座ったマルティナ。


 向かいのソファーで見比べた千夏は、肩ぐらいで切り揃えた黒髪と、琥珀こはく色の瞳で、説明に戻る。


「和真? ニューアースの防衛、ご苦労だった! 本来ならば、統合司令部で勲章なりを授与するところだが……」



 今は、マシンクリーガーの襲撃を防ぎ、PS(パワードスーツ)学園に戻った場面だ。


 正確には、俺が乗っていたPSから降りた時に拘束され、そのまま学園のゲストルームに軟禁された後。

 時計がなく、外部との通信が制限されていたものの、食事の回数から数日はたっているはず。



 千夏は、探るような視線で見た。


「お前がウチで厳重に保管されていたPS、シルバー・ブレイズに辿り着けただけでも異常すぎる……。さらに、打ち上げ用のユニットでの無断出撃」


 俺が言い返さないことで、話を続ける。


「あまりに都合が良すぎる! それも、これまで度重なる検査で『PS適性ゼロ』とされたお前が……。おまけに、奴らの駆逐艦3隻、メリフ(機械生命体の略)を20機ほどのスコアだ。シルバー・ブレイズと、マルティナの『ファントム・ブルー』などの記録を照らし合わせ、事実と確認した」


「でしたら!」


 再び叫んだマルティナに、千夏は手を向けた。


「統合司令部と参謀本部は、こいつを恐れているんだ……。いくらPSだろうが、この戦果は異常すぎる」

「無能のはずの俺が、どのエースより活躍したことも?」


 口を挟んだことで、千夏はこちらを見た。


「そうだ! 正規軍のメンツは丸潰れ……。特に、PS競技会で上位に入った上級騎士シニア・ナイトの奴らはな? 率直に言おう。ニューアース軍の上層部には、『和真はマシンクリーガーのスパイの可能性があるため、長期の尋問をするべき』という声もある」


「そんな!? であれば、撃退する必要は……」


 叫んだマルティナに、千夏が説明する。


「こちらの信用を得て、内部で上のポジションにつくため……。そう言われれば、完全に否定する事はできんよ! かつての地球で、忍者がそういった戦術を行った例もある」


「俺は、どうすればいいんですか?」


「お前には、2つの道がある! 1つ目は、『シルバー・ブレイズ』の生体登録を外し、謹んで返還した後で、ヘビーキャルの高校に入学。卒業後に宇宙の監視衛星やフロンティアへ行けば、二度と自分たちの前に現れないことで、中央の奴らは興味をなくすだろう。ただし、途中で暗殺か、濡れ衣を着せたうえで拷問する可能性もある。そのほうが確実だ」


「……2つ目は?」


「このまま、『シルバー・ブレイズ』を自分の専用機と主張する……。幸いにも、他の奴らが起動できなかったか、試験中にくたばった代物だ。データが取れるだけで、研究開発の連中は大喜びさ!」


 マルティナは、明るい声で言う。


「PS学園に入るのですね!」


 首肯した千夏だが、その顔は暗い。


「ああ……。ただし、和真が他のPSを動かせないことに違いはない。ゆえに、学園の理事会は『入学したい場合は、試験の合格を条件』とした。そこを突破しなければ、2つ目を選ぶことすら叶わん」


「入学できても、マシンクリーガーとの戦闘ではなく、学園生活で自分の価値を示す必要があると? 学内のトーナメントや、PS競技会の上位入賞で」


 俺の質問に、千夏はゆっくりとうなずいた。


「その通りだ! お前に対する偏見は根強いだろう。少しでも上に抵抗すれば、途中で降りても謀殺される。止めたければ、今しかない。……すぐには結論を出せんだろう? 引き続き、ゲストルームに泊まって構わん。私が許可する! 数日を目途に、結論を出せ」



 ――ゲストルーム


 今度は、部屋の外に立哨がいない。

 スマホも返され、内線やネットの使用も許された。


 監視カメラで見張っているのだろうけど……。


「外に出るか!」



 1人で歩道を歩き、途中のベンチに座った。


 見上げれば、夜空になったばかり。


 他の生徒は、俺から遠ざかる。



「そういえば、アリスは――」

「和真ああああっ!」


 バカでかい声に、そちらを見た。


 飼い主と久々に会った犬のように走ってくるのは、キャロリーヌ。

 黒のセミロングが揺れ、柔らかな翠眼すいがんでこちらを見ている。


 俺の隣に滑り込み、その揺れが収まらないうちからまくし立てる。


「だ、大丈夫だった!? 私も、ここの防衛で『アージェン』に乗ったんだけど。もー緊張して!」


「そっちこそ、大丈夫か?」


「何とか! でも、いよいよニューアースに彼らが来たし――」

「キャロリーヌさん? わたくし達、とても大事な用がありますの! そろそろ、を返していただけませんか?」


 マルティナの声だ。


 立ち上がろうとしたら、隣のキャロリーヌが片腕に抱き着いた。


 笑顔のまま、言い返す。


「命懸けで戦った幼馴染との再会ですよ? もう少し、待ってください」


 同じく笑顔のマルティナは、ゆっくり諭す。


「あらあら? 恋人同士なら待ちますが、幼馴染なら、あとで通信しても良いのでは? こちらは、彼の将来に関わる話なので」


 片腕にしがみついているキャロリーヌが、プレッシャーを強めた。


「先輩こそ、用事があるのなら、ここで話されては?」



 今夜は冷えそうだ。

 急に、寒くなってきた。


 片腕を柔らかい物体で包まれているのに……。

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