第14話 可愛い系と美人系のどちら?

 PS学園のゲストルームで、話し合う。


 知的で、お嬢様っぽくなった白ギャルという女子。

 梨依奈りいなは話を聞いた後で、ため息を吐いた。


 見た目通りの声で、返事。


「そう……。こちらは、『私がどの専攻にするのか?』で大わらわ……」


「PS(パワードスーツ)研究開発科ではあるんだろ?」


 首肯した梨依奈は、事情を説明する。


「うん……。SFTA(スペースフォース・トレーニング・アカデミー)はPSの最高峰で、ここの研究開発は魅力的だけど」


 俺のほうを見た梨依奈は、上目遣いのまま、咥えたストローを吸う。


 その後で、顔を上げた。


「他にはない専攻として、『新規PSの設計』があるの!」


「まあ、設計は花形のイメージがあるわな……」


 同意した俺に、梨依奈はため息を吐いた。


「私はオリジナルが珠音たまね梨依奈とあって、『設計の中でもPSコアの解明と開発』を望まれていて……」


「ああ……。珠音博士がPSを生み出したわけだし」


 俺の向かいに座っている梨依奈は、包みを開いたハンバーガーに齧りついた。


「珠音博士は珠音博士! 私は私よ……」


「俺のほうも、このPS学園で入試を受ける羽目になってな? 実質的に、選択の余地がないんだよ!」


 モグモグと食べた梨依奈は、ドリンクで呑みこみ、うなずいた。


「例のPSだっけ? 和真かずまは、もう突っ走って安全圏まで行かないとね? 中学の授業に出ている場合じゃないよ!」


「それな? ここの生徒会に助けてもらい、中学への申請は済んだ。入試に向けて、協力してくれた人と試験対策! 梨依奈もいるとは思わなかったけど」

「……迷惑だった?」


 慌てて、首を横に振る。


「顔を見られて、嬉しいよ! で、梨依奈はどの専攻に?」


 肘をついた彼女は、チラチラと見ながら、考え込む。


「PS研究開発は確定で……。どの専攻というか、自分で師事する先輩を決めて、そちらを主体にカリキュラムを組んでいき、指導を受ける形」


「昔の師匠と弟子みたいだな?」


「うん! ノリとしては同じ! あなたの『シルバー・ブレイズ』だけど……。整備はどうするの? 信頼できる人に頼まないと……」


 自分のポテトを口に入れながら、返事をする。


「まだ決まっていない……。入試まではキャロや、マルティナ先輩が手伝ってくれるけどさ? この機会に自分でも――」

「私には頼まないの?」


 驚いて、梨依奈の顔を見た。


「いや……。お前は忙しいだろう!? さっき、PSの設計開発をするって――」

「あなたは、どうしたい?」


 無言でいたら、梨依奈は憮然とした表情のまま、立ち上がった。


「シャワー、借りる」

「あ、どうぞ……」


 なぜか、シャワーを浴び出した梨依奈。



 ――30分後


 さっぱりした梨依奈は、何となく色っぽい。


 ベッドの端に腰掛けた彼女が、こちらを見た。


「それで、決まった?」

「え?」


 むくれた梨依奈は、すぐに説明する。


「私に整備を頼むかどうかの話!」


「マルティナ先輩に相談して、整備科で誰かを探すよ! 来年の整備科で、個人的にスカウトしてもいいし……。立候補してくれたのは嬉しいけど」


 ジト目になった梨依奈は、ボフッと、ベッドでうつ伏せに。


 可愛い声で、拗ねる。


「そーですかー! 私は要らない子ですかー!」

「誰も、そんなことは言っていないだろ!?」


 曲げた両足をバタバタしていた梨依奈は、やがて帰った。



 プレシャーがなくなったことで、ホッとする。


 歯磨きや洗顔のあとで戻ってくれば――


「何だ、あれ?」


 梨依奈が寝転がっていたベッドに、ピンク色の物体が置かれていた。


 そちらに近寄り、両手で広げてみる――


「こ、これは……」


「うっかり、ノーパンで帰っちゃって……。そこにあったんだ! 楽しんでいるところ悪いけど、返してもらえる?」


 なぜか、梨依奈の声がした。


 首だけ動かし、そちらを見ればニコニコしている彼女。


 差し出す前に、話しかけられる。


「ところで、私が専属の整備士になってあげようか?」

「……お願いします」


 ここで、ようやく回収された。


「じゃ、また明日!」



 梨依奈は、今度こそ帰ったようだ。


「ふうっ……」



 ――1時間後


 ピンポーン!


 ピンポーン!


 ピンポン ピンポン ピンピンピン!!


 すごい勢いで、鳴らされた。


 慌てて端末に向かえば、血相を変えたキャロリーヌ。


「どうし――」

『何もなかったよね? なかったよね!?』


「ん? さっきまで梨依奈がいたぐらい――」

『中に入れてもらえる? それとも、ダメ?』


 笑顔だが、妙に怖いキャロリーヌ。


 とりあえず、ロックを外した。


 バシュッと、横にスライドするドア。


「梨依奈は……もう帰ったの?」

「ああ!」


 返事を聞きながら、まっすぐベッドに向かい、上掛けをめくったキャロリーヌ。


 彼女はベッドメイキングをするかのように、シーツを触っている。


 背中を向けたまま、尋ねてくる。


「このシーツ……交換していないよね?」


「そりゃ、そうだ! 今は交換する必要がないだろ? 早くても翌朝だ」


 ピタッと停止したキャロリーヌは、ふうーっと、長く息を吐いた。


「うん。そうだよね……。そっか、そっか……。ごめんね、いきなり押しかけて」


「別にいいけど……。ハンバーガーセットを食べた直後で――」

「ううん! 和真の顔を見たかっただけ! 明日も、入試対策を頑張ろうね! 私も力になるから!」


「あ、ああ……」


 邪気のない笑顔に戻ったキャロリーヌは、すぐに帰った。


 いったい、何だったんだ?

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